白き戦神の冒険譚 ~戦神の魂と経験共有で強くなる~

学園編入試験

アルノアがフレスガドル学園に途中入学するためには、戦闘試験と冒険者の知識に関するテストを突破する必要があった。アリシアの提案を受け入れた彼は、学園への入学手続きを進め、初日の試験に臨むことになった。

まず行われたのは知識テストだった。冒険者としての基礎的な知識や魔法理論、地理やモンスターの習性などが問われるこの試験は、アルノアにとってさほど難しくなかった。ランドレウスの学園でしっかりと基礎を学んできた彼は、時間内にすべての問題を解き終え、無事に知識テストをクリアした。

「ふう……これでまず一安心だな」

しかし、真の試練はここからだった。知識テストを終えた後、彼を待ち構えていたのは戦闘試験だった。フレスガドル学園の教師陣が見守る中、アルノアは試験場へと足を踏み入れる。そこで彼を出迎えたのは、鋭い眼差しを持つ戦闘教官だった。

「俺はグレゴール・フェルド 元冒険者だ。今回の編入受験者たちのクラス分けをしている」

　アルノアの身分証をちらりと確認しながら、冷たい視線を向けた。

「異国からの編入生か。随分と変わった経歴だな」

「すぐに冒険者になりたいようだが、フレスガドルの学園の卒業レベルは甘くない。簡単に代表戦の参加資格のあるクラスへ合格出来るとは思わない事だ」

その視線には、どこか異国の者への不信感が含まれているようだった。フレスガドルの地元で育ち、学園を経て冒険者となる他の生徒を育てる教師たちにとって、突然現れ、卒業資格を早く欲しいと言う異国からの転入生は不審な存在に映るのも無理はない。しかし、アルノアはその視線に負けることなく、堂々と教官の前に立った。

「準備はいいか？では、試験を始めるぞ」

教官は短く告げると、試験開始の合図をした。周囲にいる数人の補助教官も見守り、アルノアの動きをじっくりと観察している。彼らはアルノアがどれほどの実力を持っているのか、またどのような戦法を取るのかを見定めようとしていた。

アルノアは深呼吸をし、冷静に自身の戦い方を思い出した。彼にはすべての魔法属性を操る力があったが、それぞれの属性に突出した能力があるわけではなかった。魔法で派手に攻撃するというよりも、適応力を生かして武器に魔法を纏わせ、自身の身体強化して戦うという戦法が彼がこの試験までに訓練したスタイルだった。

「ふん私相手に、魔法をまとって肉弾戦か……それでどこまでやれるか見せてみろ」

教官が軽く挑発するように言うと、アルノアは構えを取り、戦神エーミラティスの武術を心の中で思い描いた。彼の中に封印されている戦神の魂が、かつての戦いの記憶と技術を彼に授けている。アルノアはその経験に適応し、短期間ながらも訓練を積んできたため、戦闘技術においては他の生徒とは一線を画していた。

戦闘が始まると、教官は素早い動きでアルノアに接近し、容赦なく打撃を繰り出してきた。しかし、アルノアは冷静にその攻撃を受け流し、隙を見てカウンターを仕掛ける。彼の動きは鋭く、無駄がなかった。魔法を纏うことで身体能力が強化され、さらに戦神の武術を共有しているため、彼の一挙手一投足には経験に裏打ちされた重みがあった。

教官は一瞬目を見張った。「この動き……本当に学生か？」

アルノアは返答することなく、攻撃を続けた。魔法の放出は最低限に留め、代わりに身体強化を最大限に活用して教官を圧倒する。次々と繰り出される教官の攻撃を紙一重でかわし、的確にカウンターを入れるその姿は、まるで熟練の戦士のようだった。

アルノアは絶えず接近戦を試み、一気に決着をつけようと踏み込む。しかし、グレゴールは彼の素早い動きに即座に反応し、土魔法を使って地面を突き上げ、アルノアの行く手を阻んだ。

「さすが、なかなかやるな」とグレゴールは口元に笑みを浮かべる。「だが、これだけじゃないぞ。」

グレゴールは巧みに地属性魔法を操り、アルノアの視界を砂で覆って撹乱しつつ、足元の地面を突然隆起させてバランスを崩そうとする。視界が塞がれ、地形が変わるたびにアルノアは行動を阻まれ、距離を詰めることが難しくなる。

だが、アルノアはすぐさまその状況に適応し始めた。視界が遮られるたびに、音や気配を頼りにグレゴールの位置を見極め、地面が変化するタイミングに合わせてバランスを取る。少しずつ戦神の経験が体に馴染み、視界が不完全な中でも冷静に動けるようになっていく。

「なるほど…ただの接近戦ではないか」とグレゴールが感心したように言う。「だが、どこまでこの地の支配に適応できるか見せてもらおうか！」

アルノアは呼吸を整え、さらに集中を高めた。この地形変化にも慣れ始めた彼は、次の瞬間にどう対応すべきかの感覚が研ぎ澄まされ、少しずつグレゴールとの距離を縮めていく準備が整いつつあった。

アルノアはその状況に冷静に対処しつつも、グレゴールの一流の冒険者らしい戦術に圧倒される思いを抱き、戦神の経験を活かしてどう突破するかを模索し始めた。

アルノアは周囲の少しの砂を風属性で操作し、自分の前にわずかに砂嵐を集めて視界を遮り、完全に姿が隠れる一瞬のタイミングを作り出した。その隙に足に魔力を集中し、瞬時に加速して駆け出す。グレゴールはアルノアの動きを察知して反応を試みるが、アルノアの方が一瞬早い。

そして、グレゴールが体勢を整えようとした瞬間、アルノアは地属性でグレゴールの足元をわずかに動かした。

「!！これは私がやった阻害」

　数センチの変化にすぎなかったが、タイミングは完璧で、グレゴールの力の入る瞬間に絶妙に合わせられていた。結果、グレゴールは大きくバランスを崩し、意図せず防御の隙を晒す。

「今だ…！」アルノアはそのチャンスを逃さず、一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛けた。

「鋼壁鎧甲！！《コウヘキガイコウ》」

地属性の魔力が鋼鉄のオーラとなりグレゴールが纏う。アルノアの一撃が当たる瞬間グレゴールと大鎌の間に鋼鉄が発現して攻撃を止めた。

「くっ……魔力の解放まで出す羽目になるとは……ここまでやるとはな。異国の者と侮ったのが誤りだったか」

周囲で見守っていた他の教員たちも驚きの表情を浮かべている。アルノアがこれほどまでに戦闘技術に長けているとは、誰も想像していなかった。

「まさかグレゴール教官が咄嗟に魔力解放までして防御するとは」

「そうですね。アルノア君が近接戦闘を始めた時は相手が近接特化の魔法使いのグレゴール教官で可哀想に思いましたが」

「凄まじい戦闘のキレですね。あの歳で明らかに経験に基づいた動きをしているように見える」

「よし、これで試験は終わりだ。基礎冒険者学園では魔力解放まで教わらない……つまり出した時点で私の負けだ。合格だ、アルノア」

教官は悔しそうにしながらも、素直にアルノアの実力を認めた。そして、無言で敬意を表するように軽く頭を下げた。

アルノアは深く息をつき、戦闘体勢を解いた。彼にとって、ただの試験ではなく、己の実力を示す場でもあった。自分がどこまでやれるのか、その手応えを得た彼は、心の中で再び決意を固めた。

「これで、フレスガドル学園に入学できる」

彼は自分の歩むべき道が明確になったことを感じ、胸に新たな自信を抱きながら、入学許可を待つ手続きを進めるため、試験場を後にした。