6.街を目指して ~見守る視線~
荒れ果てた土地に、アルノアは一人、ゆっくりと進み始める。目の前に広がるのは、見慣れない風景。空は重苦しい雲に覆われ、乾燥した風が彼の頬を撫でた。
「ここは……どこだ?」
自分がどうしてこの地にいるのかもわからない。ただ一つだけ確かなのは、ここがランドレウスとは異なる場所であること。何とか人のいる場所を見つけようと、勘で進んでいく。
小さな魔物が現れ属性を纏おうとするアルノア。
「魔力がない?」
「当たり前じゃ」
「黒竜との戦いで全開で魔力を使ったのじゃ。当分は魔力無しで戦うしかないのぅ」
「魔力無しで知らない土地を進むのか……」
「お主は儂の経験を共有しておるんじゃ、戦の神の儂が魔法以外の戦闘が出来んわけないじゃろ」
「そうは言っても経験を共有しても俺の身体はエーミラティスとは違うからなぁ」
「まぁ、そうじゃの……危険になったら儂が何とかする」
「お主が死ぬと儂も困るからのぉ」
—数時間後—
道なき道を進んでいく中、背後から小さな気配を感じた。振り返るが、そこには誰もいない。耳を澄ますと、低い唸り声が微かに聞こえた。その方向に目を凝らすと、巨大な赤い狼のような魔物がこちらを睨みつけている。
「こんな時に……大型魔物か」
息を整え、大鎌を構えた。魔物が前脚を踏み出した瞬間、アルノアも動いた。まずは相手の動きを見極め、隙を突くべきだ。魔物が牙を剥いて飛びかかってくると、アルノアは体を低くして攻撃をかわし、大鎌を振り上げて反撃する。刃が肉を切り裂き、魔物が呻き声を上げ倒れた。
「よし……」
しかし安堵する間もなく、別の方向からさらに小型の狼の魔物の群れが現れた。息を呑むアルノアをよそに、魔物たちは次々と攻撃を仕掛けてくる。息が荒くなる中、彼は必死に応戦を続けた。
「大鎌では素早い多数相手は動きにくい」
「ナイフで戦うか」
「そうじゃの狭いところなどでも戦えるしの、今のうちに慣れておいた方が良いな」
「黒穿コクセン」
エーミラティスに教わった武器の名を口にすると大鎌は消え、代わりに小さな白銀の髪をした人型へと形を変える。
「なんとなく武器を使いたい時だけ呼び出せるようになったのは感じていたが、人に変わるとは想定外だ。お前エーミラティスなのか?」
「儂もこんな精霊のような形で肉体を得るとは思わなかったが、ふむお主の魔力を貰うことにはなるが少しなら戦闘のサポートができそうじゃの」
「ナイフに氷属性の付与くらいはしてやるからとっとと倒すんじゃな」
「おい、泣け無しの魔力とるなよ」
「まぁ流石に属性なしでの戦闘を続けてたら、肉体が持ちそうにないからケリをつけよう」
—その様子を見守る影—
遠くから、じっと彼を見つめる影があった。地の聖天アリシア・グラントだ。彼女は腕を組み、冷静な瞳でアルノアの戦いを観察していた。
「なるほど……まだ経験は浅いようだけど、動きは悪くない。ギリギリ助けなくても何とかなりそうかな」
「魔力量が沢山あるように感じるのに使わないのは何か理由があるのかしら……」
「それにあの武器消えたってことは宝具かしらね」
アリシアはその眼光で、アルノアの一挙一動を読み取っていく。彼の未熟さ、そして成長の兆し。地の聖天として、彼女は人々の力を見極められるだけの目を持っていた。だが、アルノアには特別な何かを感じ取っていた。
「さて、どこまでやれるのかしら」
「!?……ナイフが急に氷属性を纏った……彼が魔法を使った感じでは無いからナイフも宝具なのかしら」
「だとしたら宝具なんて珍しいのにとても興味が湧くわね」
彼女の目には、疲労が見え始めたアルノアが映っていた。彼は連戦で体力を消耗しているが、それでも歯を食いしばり、魔物たちを一匹ずつ倒していく。
この一戦の中でも着実に動きが良くなる彼の成長は異次元とさえ感じる。
—アルノアの苦境—
体力も限界に近づき、動きが鈍くなってきたアルノア。魔物の一撃を受け、地面に倒れ込んでしまう。立ち上がろうとするが、足が震え、力が入らない。
「くそ……こんなところで、倒れるわけには……!」
再び襲いかかろうとする魔物の姿に、アルノアは歯を食いしばり、再びナイフを構えた。その目には、何かを超えようとする意志が宿っている。
その瞬間、アリシアが軽く手を動かした。彼女の魔力が地面を伝い、地中から鉱物がせり上がり、魔物の足元を縛りつけた。驚いたアルノアが顔を上げると、魔物たちが動きを封じられているのが見えた。
「この隙に……!」
彼は迷うことなく、最後の力を振り絞り、ナイフを突き刺してとどめを刺した。魔物たちは全滅し、ついに全てが静寂に包まれる。
—アリシアの評価—
アリシアは静かに微笑んだ。彼の戦いぶりはまだ拙いが、その不屈の意志には確かな光があった。地の聖天として、彼をただの冒険者として扱うことはできない何かを感じ取っていたのだ。
「なかなかやるじゃない。最初はすぐ倒れるかと思ったけど、しぶとい子ね」
「なにか彼の力には秘密がありそうね」
彼女は自ら姿を現すことなく、再び影に溶け込んだ。この地での彼の動きをしばらくは見守ることを決めたのだ。
—アルノアの決意—
一息ついたアルノアは、再び歩き出す。体は疲れているが、その目には確かな決意が浮かんでいた。どんな困難が待ち受けていようと、諦めるわけにはいかない。彼はエーミラティスの力を超えていくために進んでいく。
「この先……きっと、俺の居場所があるはずだ」
アルノアはふと、遠くで見守る視線を感じたような気がしたが、深く考えずに前へと進んでいった。
――――――――――
遠くに見慣れない街の影が現れた。ぼんやりとした意識の中で、彼の胸にはわずかな希望が灯る。「あれは……街か?」疲れ切った体を奮い立たせ、彼はその街に向かって足を速めた。
街に近づくにつれ、立派な城壁が視界に入ってくる。近隣の町とは違う独特な造りで、少し緊張が走る。だが、彼にとってはそれ以上に人の温もりが感じられる場所があることが、今は何よりも心強かった。門の前には守衛が立ち、怪訝そうに彼を見つめる。
「ここは、フレスガドルの街だ。何用だ?」
守衛の問いに、アルノアは疲れた表情で答えた。「ただ、旅の途中で……少し休息がしたいだけなんだ」
守衛が一瞬目を細めてから頷き、無言で通行を許可する。その瞬間、アルノアはようやく安堵の息をついた。フレスガドルの街へと足を踏み入れた彼の胸には、再び前に進む力が湧き上がってきた。
「とりあえずこの街のギルドを探そう」
アルノアは新天地でギルドへ向かった。
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