5.戦の神
アルノアは広い空間に出ていた。
「何がいるんだ」
圧倒的に濃いオーラ、重圧に満ちているこの空間に何もいないわけが無い。
次の瞬間
「────────!!」
大きすぎて音圧しか感じられないほどの咆哮が響く。
「これはまずいかもしれないな」
薄暗い大広間から現れ、目に映るのは体長10メートルはあると思われる黒い竜。
「黒い竜なんて初めて見る」
「こいつ既に戦闘モードに入ってやがる」
「我を封じた人間めこの時を待っていた。
貴様を殺して再び世界に破壊をもたらしてくれる。」
「封印された竜?聞いたことがないな。」
「我は破壊に仕えし者」
「我を封じたその魂間違うことは無い」
瞬きすらできない緊張感の中、竜が動き出す。
それは巨体には見合わない速度でアルノアに接近する。
「おい、マジかよ」
「っ!!」
アルノアは咄嗟に本気の魔力を足に込めて横に飛ぶ
そのコンマ数秒後竜の顎が通り過ぎる。
「次は無理か」
始まって早々生還する期待を失ったアルノアに声が響く
「儂が、代わりに戦ってくれる。その身を貸せ」
「この声は!」
「儂は古の戦女神エーミラティス。お主の使っている大鎌は儂の物で黒穿コクセンと言う。いまはこの空間の圧倒的魔力密度のおかけで出てこられた。」
「エーミラティス?大昔の御伽噺に出てくる戦いの神の名だな。あれは他の神話とは違って単なる作り話だと言われているが?だから神話ではなく御伽噺なんだ。」
この世界には神と対話出来たり、神の力を借りれる者が稀にいるため神話とは神から告げられた実話であり、それ以外の不詳の物は御伽噺と言われている。
「それはそうだろう。儂の歴史は破壊されているからなぁ」
「破壊?それはどういうことだ?」
「そんなこと話してる暇はあるのかのう?敵さんは待ってくれないようじゃが?また体を貸し出せば生かしてやるぞ?」
「貸す?いいや俺も戦う」
「しょうがないやつじゃの」
「まぁ契約は成されておるからなぁ、じゃがまずはわたしの動きをしっかり見ておくことだ」
数秒して意識が安定するとアルノアは自分を俯瞰した視点から見ていた。
「またこの感覚か」
「自分が動いているのを見るというのは本当に変な気分だ」
氷の魔法が広範囲に展開されその上を雷が奔る。
エーミラティスが鎌を振り回す度にそれに合わせて氷撃と雷撃が追従する。
黒竜も体の大きさに見合わぬすばやさで鋭い爪を振り下ろす。
それは正しく神の戦いに見えた。
エーミラティスの動きは無駄がなくギリギリで爪をよけ、ブレスの軌道を予測し確実に攻撃を当て続けている。
しかし相手も強い。
大きな羽で風を起こし動きを牽制し、雄叫びは空間をも振動させる。
「ちとまずいかのぉ」
「この身体では本来の動きが出来ん、筋力も魔力もまだまだ未熟すぎて違和感が生じる」
「おい!俺も加わる!」
「魔力は俺がお前に合わせる」
「確かに本人が使うのが良いが、強い力を無理やり引き出すのじゃ、前みたいに気を失うことになるぞ」
「気を失うまでにあいつを倒せば良いだけの話だ!」
「ふむ、では制御を任せるぞ。わたしは今できる全力を出すからな、適応して見せろ!」
「白雷氷刃・絶天凍破はくらいひょうじん・ぜってんとうは」
白き輝きを持つ魔力が空間を満たす。
魔力を受けたところが凍っては雷で粉々に粉砕されていく。
砕けた氷で一面に、霧が立ちこめる
「やったのか?」
そしてアルノアは意識を失った。
――――――――――――――――――――――
目が覚めると知らない湖にいた。
あの竜はどうなったんだ?
すると聞こえる声
「竜はかなり弱ったとは思うが死んではいない。我らの魔力密度が急に高まったことであの空間が耐えきれなくなって強制転移させられたみたいだな。まぁあの竜にも何かあるみたいじゃがのぅ」
「!?今回はまだ聞こえる?」
「お主の個性のおかげで意志の疎通だけならできるようになったみたいじゃ」
「確かに氷と雷の合わさった魔力も感じられる気がする」
「ははっ!儂の魔力にも適合するか!面白い小僧だ。まだまだ弱いがいつか儂を超える逸材になれるかもしれんのう。興が湧いた、お主と共にこの世を見て回るとするか……「そしていつか」」
白き戦の神がそう宣言する
「共にだと?…」
「主に選択の権利はない、儂が契約した間に体に戻ってきた時に儂らは混ざりあったようだ。本来混ざり合うこと自体不可能だが、お主の個性のせいかもしれぬ。儂を受け入れなければお主の命は尽きるし、お主が死んだら儂も消える。」
「神に脅迫されるとはね…選択肢がないなら仕方ない」
思ったより、晴れ晴れとした気持ちで答える。
「我が名は戦の神エーミラティス よろしくな主」
「アルノアだよろしくな戦女神」
――――――――
その頃ランドレウスの冒険者ギルドでは、アルノアの捜索がされていた。
「アルが消えたのはここだ」
ロイがギルド長と幼なじみ達を案内する
「低級ダンジョンで転移なんて起こるのかしら……なんにしてもアルさんが無事であって欲しいです」
「アルは弱くは無いが弱点や戦況を見れる場面でないと戦いは厳しい、そもそもこのダンジョン内は調べたが見当たらない。」
「そうなるとどこに転移しているのか……」
カインが分析していたが、ギルド長が口を開く
「そもそもこのダンジョンも含む踏破済みの場所でここまでのイレギュラーが起きたことは無い」
「それになんの属性か分からない魔力がうっすら残っている……事件の可能性もあるな」
「助けに入ったパーティーの奴らな聞いても分からないの一点張りで状況が分からねぇ」
「とりあえず今はこの魔力が何なのか調べるしか手がかりはない、ギルドでもしっかり調べる」
――――――――
場面はアルノアの元へ戻る
「で一体ここはどこなんだ」
「分からぬが、空間が崩壊したせいで無理やりダンジョン外にランダムで出されたようじゃの」
「即死する場所に転移しなくて良かったのぉ」
「即死とか勘弁してくれ」
「とりあえず人がいる所を目指すか、ここの森は魔物が居そうだからな」
アルノアは一人進み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます