戦の神と黒い竜
広い空間に足を踏み入れたアルノアは、圧倒的な魔力の重圧に包まれる。
「何がいるんだ……?」
薄暗い空間の奥から、音圧ともいえる咆哮が響き渡る。
目の前に現れたのは黒き巨竜。鋭い目と重厚な鱗、10メートル以上に及ぶ巨体が周囲の空間を圧倒する。その存在感は、見る者を否応なしに恐怖へと誘うものだった。
「黒い竜……こんな存在、聞いたことがない」
アルノアが硬直する中、竜が低く唸り声を上げた。
「我を封じた愚かな人間どもよ……この時を待っていた。貴様を喰らい、再び世界に破壊をもたらしてやる」
「封印されていた……? そんな竜の話は聞いたことがないが」
竜は続ける。
「我は破壊に仕えし者。名を残さぬ愚者どもに封じられたが、魂の記憶だけは消せなかったようだな」
その瞬間、竜の巨体が動いた。圧倒的な速度でアルノアに襲いかかる。
「くっ……!」
アルノアは咄嗟に横へ飛び退き、竜の顎が通り過ぎる。地面が砕け、衝撃波が空間を震わせる。
「無理だ……あんな相手に一人で勝てるはずがない」
アルノアの中に絶望が広がる。
瞬きすらできない緊張感の中、竜が動き出す。
それは巨体には見合わない速度でアルノアに接近する。
「おい、マジかよ」
「っ!!」
アルノアは咄嗟に本気の魔力を足に込めて横に飛ぶ
そのコンマ数秒後竜の顎が通り過ぎる。
「次は無理か」
アルノアの視界が霞む中、彼の意識に重々しい声が響いた。
「……儂が代わりに戦ってやる。その身を貸せ」
「この声……エーミラティスか?」
「そうじゃ。儂は古の戦女神エーミラティス。この
アルノアは驚きながらも、その名前に聞き覚えがあることを思い出す。
「確か……エーミラティス、戦いの神として古代のおとぎ話に記されていた存在だな。だが、その存在が神話としてではなく、事実だという証拠は……」
「お主が見た転移先の壁画にも描かれておったはずじゃ。それに儂の名が御伽噺とされるのは、人間どもの都合じゃよ。儂の歴史は破壊され、その真実は忘れられた」
「確かに……壁画に記されていた内容と重なる事があるとは感じていた。それなら、お前が本当にあの戦女神だとすれば……だが、なんで俺なんだ?」
「それを問う暇はあるのか? 敵は目の前じゃぞ」
エーミラティスの声が低く響き、竜が再び迫ってくる。アルノアはそれ以上の言葉を呑み込み、彼女の提案を受け入れる決意を固める。
「……わかった。だが、俺も一緒に戦う!」
「しょうがないやつじゃの」
「まぁ契約は成されておるからなぁ、じゃがまずはわたしの動きをしっかり見ておくことだ」
数秒して意識が安定するとアルノアは自分を俯瞰した視点から見ていた。
「またこの感覚か」
「自分が動いているのを見るというのは本当に変な気分だ」
氷の魔法が広範囲に展開されその上を雷が奔る。
エーミラティスが鎌を振り回す度にそれに合わせて氷撃と雷撃が追従する。
黒竜も体の大きさに見合わぬすばやさで鋭い爪を振り下ろす。
それは正しく神の戦いに見えた。
エーミラティスの動きは無駄がなくギリギリで爪をよけ、ブレスの軌道を予測し確実に攻撃を当て続けている。
しかし相手も強い。
大きな羽で風を起こし動きを牽制し、雄叫びは空間をも振動させる。
「ちとまずいかのぉ」
「この身体では本来の動きが出来ん、筋力も魔力もまだまだ未熟すぎて違和感が生じる」
「おい!俺も加わる!」
「魔力は俺がお前に合わせる」
「確かに本人が使うのが良いが、強い力を無理やり引き出すのじゃ、前みたいに気を失うことになるぞ」
「気を失うまでにあいつを倒せば良いだけの話だ!」
「ふむ、では制御を任せるぞ。わしは今できる全力を出すからな、適応して見せろ!」
「白雷氷刃・
白き輝きを持つ魔力が空間を満たす。
魔力を受けたところが凍っては雷で粉々に粉砕されていく。
砕けた氷で一面に、霧が立ちこめる
「やったのか?」
そしてアルノアは意識を失った。
――――――――――――――――――――――
目が覚めると知らない湖にいた。
あの竜はどうなったんだ?
すると聞こえる声
「竜はかなり弱ったとは思うが死んではいない。我らの魔力密度が急に高まったことであの空間が耐えきれなくなって強制転移させられたみたいだな。まぁあの竜にも何かあるみたいじゃがのぅ」
「!?今回はまだ聞こえる?」
「お主の個性のおかげで意志の疎通だけならできるようになったみたいじゃ」
「確かに氷と雷の合わさった魔力も感じられる気がする」
「ははっ!儂の魔力にも適合するか!面白い小僧だ。まだまだ弱いがいつか儂を超える逸材になれるかもしれんのう。興が湧いた、お主と共にこの世を見て回るとするか……「そしていつか」」
白き戦の神がそう宣言する
「共にだと?…」
「主に選択の権利はない、儂が契約した間に体に戻ってきた時に儂らは混ざりあったようだ。本来混ざり合うこと自体不可能だが、お主の個性のせいかもしれぬ。儂を受け入れなければお主の命は尽きるし、お主が死んだら儂も消える。」
「神に脅迫されるとはね…選択肢がないなら仕方ない」
思ったより、晴れ晴れとした気持ちで答える。
「我が名は戦の神エーミラティス よろしくな主」
「アルノアだよろしくな戦女神」
――――――――
その頃ランドレウスの冒険者ギルドでは、アルノアの捜索がされていた。
「アルが消えたのはここだ」
ロイがギルド長と幼なじみ達を案内する
「低級ダンジョンで転移なんて起こるのかしら……なんにしてもアルさんが無事であって欲しいです」
「アルは弱くは無いが弱点や戦況を見れる場面でないと戦いは厳しい、そもそもこのダンジョン内は調べたが見当たらない。」
「そうなるとどこに転移しているのか……」
カインが分析していたが、ギルド長が口を開く
「そもそもこのダンジョンも含む踏破済みの場所でここまでのイレギュラーが起きたことは無い」
「それになんの属性か分からない魔力がうっすら残っている……事件の可能性もあるな」
「助けに入ったパーティーの奴らに聞いても分からないの一点張りで状況が分からねぇ」
「とりあえず今はこの魔力が何なのか調べるしか手がかりはない、ギルドでもしっかり調べる」
――――――――
場面はアルノアの元へ戻る
「で一体ここはどこなんだ」
「分からぬが、空間が崩壊したせいで無理やりダンジョン外にランダムで出されたようじゃの」
「即死する場所に転移しなくて良かったのぉ」
「即死とか勘弁してくれ」
「とりあえず人がいる所を目指すか、ここの森は魔物が居そうだからな」
アルノアは森を進みながら、胸に小さな決意を抱いた。
「俺は生き残る。そして、いつかあの竜に決着をつける……」
エーミラティスが微笑むように答える。
「その心意気、悪くないぞ。共に歩もうではないか、小僧」
冒険は新たな章へと進んでいく――。
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