学園を襲う黒い恐怖と白の覚醒

冬の冷たい風が吹き抜ける演習場で、アルノアは魔法訓練に没頭していた。だが、その手から放たれる火花はあまりにも小さく、頼りなかった。

遠くで生徒たちの歓声が上がるのが耳に入った。視線を向けると、友人のロイが巨大な火柱を立ち上げている。


「やっぱりロイには敵わないな…」

アルノアは悔しさを噛み締めながら、仲間たちの華々しい魔法を目にしていた。自分が何をやっても敵わない、そんな劣等感が心の奥で膨らんでいく。


ロイは同じ15歳だが、すでに火属性の魔法と武術において一流と認められていた。周りには、風や水、地の属性を自在に操る同級生が次々と強力な魔法を見せている。それに比べて、アルノアは火、風、水、土、雷のすべての属性に適性を持ちながら、どれも微妙な結果しか出せなかった。


「魔力の制御はしっかりしているし、魔力自体も多いのに出力が出ない理由が分からない」

「魔法を教えている身として申し訳ないと思う」


 学園で親身になって教えてくれているエリザ先生もアルノアの魔法を強化しようとしてくれていたが、上手くいかずにいた。


「アルノアの魔法に対してのアプローチは良いはずなんだが……何かに阻害されているかのごとく出力が上がらない」


先生に言われたことをあらかた試しても上手くいかず、限界を感じて絶望感すらある。


「アルノア、また失敗か?」ロイ近づいてくる。「お前、いっそ火に集中してみたらどうだ?少なくとも俺が教えてやれるし。」


アルノアは苦笑いを返すしかなかった。ロイは悪気はない。けれど、その言葉が胸に刺さる。どれか一つだけでもまともに使えればと何度も1人で練習してきたことを思い出す。

自分の無力さに葛藤していたその時


 突然、空が黒く染まり、冷たい風が演習場を吹き抜けた。遠くから不吉な轟音が響く。アルノアは顔を上げ、空の異変に気づいた。


「何だ…?」


生徒たちが叫び声を上げ、駆け寄ってきた。教師たちもざわつき始める。黒い影が形を成し、それが近づいてくるのがわかる。


「魔物だ!」誰かが叫んだ。


演習場は瞬く間に混乱に包まれた。巨大な黒い生物の群れが、謎の瘴気から生まれていく。教師たちが急いで防御の態勢を整え、生徒たちに避難と戦う準備をするよう指示した。


黒い塊は獣型や飛行型の魔物へと変化する。

大型の魔物まで現れている。


「冗談だろ…」アルノアは呆然とした。こんな状況で自分が役に立つとは思えない。だが、ロイが近づいてきて、肩を叩いた。


「アルノア、俺らは戦うぞ」


ロイの言葉にアルノアは


 アルノアは拳を強く握りしめた。逃げたい気持ちと、仮にもBランク……ここで踏みとどまらなければならないという葛藤が心を掻き乱す。自分にはロイのような強さはない。それでも、背を向けて逃げるわけにはいかないと感じていた。


「ロイ、カイン、リナ、サーシャ! 一緒に戦おう」アルノアは大声で呼びかけた。彼は仲間たちが集まるのを見て、気持ちを高めた。

「みんな武器は持つんだ!」

 

「っしゃいくぞぉ!」

ロイは武闘家としての力強さを誇示し、敵に向かって突進する。「俺が先に行く! 敵を片付けて、みんなを守る!」


カインは雷属性の魔法を発動させ、周囲の魔物に向けて電撃を放った。「ロイ、無茶するなよ! 後ろから支援するから、数を減らすぞ!」


リナは風を操り、敵の動きを封じながら支援し、本人も風の刃と短剣を使った素早い動きで魔物相手に舞う。「敵の数が多いけど、みんなで力を合わせればきっと勝てるわ!」


サーシャは治癒魔法を準備し、仲間の背後からサポートしていた。攻撃を喰らいそうな味方と魔物の間に水のシールドを貼り、傷ついた生徒をすぐさま治療する。「私がみんなを守るから、前は任せるわ」


先生たちは大型の地龍の相手で手一杯のように見える。


魔物たちが一斉に襲いかかってくる中、ロイは自らの拳を火で包み込み、力強い一撃を放つ。「これが俺の武道だ! 受けてみろ!」


彼の攻撃が敵に当たり、魔物は悲鳴を上げながら倒れていく。次の瞬間、カインは雷の魔法をさらに強化し、周囲の敵を一掃する。「アルノア、次はお前の番だ!」


アルノアは仲間たちの活躍を目の当たりにし、今まで以上に力が湧き上がってくるのを感じた。彼もまた、自分の力を発揮する時が来たのだ。大鎌を構え、敵の隙を狙って突進する。


「行くぞ!」彼は大鎌を振り下ろし、魔物に強烈な一撃を与えた。大鎌の重さと自らの力が融合し、敵を圧倒する。


しかし、次の瞬間、さらに強力な魔物が現れ、仲間たちを攻撃しようとしていた。「こいつは厄介だ!オーガの見た目をしているがこの黒い魔物は普通じゃない!弱点属性が分からない…」カインが苦悶の表情を浮かべる。


「俺たちの力を合わせれば、きっと勝てるはずだ!」ロイが叫び、仲間たちの士気を高めた。「みんな、一緒に行こう!」


オーガがロイに襲いかかる。「ロイ!」アルノアが叫ぶが、彼は既に敵に捕まっていた。


「俺は大丈夫だ! みんな、行け!」ロイが叫ぶ。その瞬間、サーシャが魔法を集中させ、仲間たちを癒す。


「みんな、集中して! 私が回復するから、攻撃を続けて!」サーシャの言葉に応え、アルノアは再び前に出る。


しかし、魔物たちの猛攻は続き、仲間たちも疲労していく。そんな中、アルノアの心の中に何かが覚醒する感覚があった。彼の内なる力が高まっていくが、その反面、絶望も迫っていた。


「こんなの無理だ…」アルノアの心が揺らぐ


狼のような魔物がアルノアに向かって飛びかかる。


「ダメだ…!」アルノアは目をつぶった。


しかし、その瞬間――


それはまるで、大鎌自身が命を持ったのようだった。手に伝わる振動とともに、アルノアの心臓が激しく鼓動する。大鎌を通じて流れ込む力は、今まで感じたことのないほど強大だった。


頭の中で声が響く。


「どうやら、ようやく目覚めたようだな……ちと力を貸してやろう」

頭の中に響く声は深みがあり、どこか威圧的だった。アルノアは思わず声をあげた。


「誰だ!? 何なんだ、この声は!」


「恐れるな。お前が握っているその大鎌、そこに宿る魂の持ち主だ――この我、エーミラティスよ。」


「武器に魂が宿るだと?」


「そんなこと話してる暇はあるのかのう?敵さんは待ってくれないようじゃが?体を貸し出せば生かしてやるぞ?」


「貸す?よくわからんが命のためなら仕方ない。どうにかしてくれ。」


「ははっ!確かに契約は交された。証を眼に刻むがの。では久々に暴れようかの」


大鎌が輝きだしアルノアの左目に光が集まり出す。


「ぐぅわぁがぁぁがぁぁぁあぁあぁ」


とてつもない痛みにアルノアは叫ぶ


数秒して意識が安定するとアルノアは自分を俯瞰した視点から見ていた。


「どうなっているんだ!?」


「まぁ見てると良い。わしの戦いを」


アルノアは自分が勝手に戦っている姿をただ見ていた。

とてつもない氷と雷の魔法を用いて白き大鎌を持ちて戦う姿を。


それはとても洗練された動きに見えた。


しかし数が多い。少し押されているようにすら見える。

オーガもまだ健在だ、


「さすがに儂の体じゃないと持たぬか、オーガ程度ですら厳しいか」


「俺の身体だ、俺もやる。」


「お主!?自力で体の権利を取り戻したのか?」


「お前もまだ入ってるけどな」


「ちと力を借りるぞお主。お主の圧倒的属性への適応力があるなら儂の魔力も何とかして見せろ」


「死にたくないからなぁやってやるよぉぉ!!」


「俺は……負けるわけにはいかないんだ!」

アルノアは湧き上がる力を感じながら、大鎌を両手に構えた。その姿は、どこか戦神のような威圧感を漂わせていた。


瞬く間に魔物たちの間を駆け抜け、大鎌の一振りで敵を斬り裂いていく。その動きは洗練され、無駄がなかった。だが、それはアルノア自身の力ではない。

(……これは、俺の力じゃない。だが、今は借りるしかない!)


「この命を懸けてでも……俺は、この力をものにしてみせる!」

アルノアの声は震えながらも、どこか決意に満ちていた。その瞬間、大鎌から発せられる白い光がさらに強さを増し、周囲を包み込む


「わしの力戦い方を共有してるんじゃ、オーガくらい簡単に倒してもらわんとな」


「あぁ、負荷が大きくてキツいが、あのオーガは一撃で倒す」

 

「ふむ、お主が力をつけるのを見届けさせてもらおう」


アルノアは白い魔力と大鎌で魔物の中を駆け回った。


アルノアの戦いの光景を見たロイや他の生徒たちも、呆然とアルノアを見つめていた。


 戦いが終わり、演習場には静寂が戻った。黒い瘴気の中から生まれた魔物たちは消え去り、ただ荒れ果てた大地と疲弊した生徒たちが残っている。アルノアは大鎌を地面に突き立て、荒い息を吐き出した。全身が痛み、先ほどまでの覚醒した力がまるで幻だったかのように感じられる。


「アルノア、大丈夫か?」ロイが駆け寄り、肩を貸してくれる。アルノアは頷きながら、まだ覚めやらぬ頭の中で声を聞いた。


「ようやったのう。久々にこうして戦えたのは悪くなかった。」


「お前…エーミラティスって言ったな。一体何者なんだ?聞いたことがない名前だ。」


「ふむ、無理もない。儂は遥か昔、破壊神と戦い、存在そのものを消し去られた者。その名も、この世ではおとぎ話の中の架空の存在として語られるに過ぎん。」


「おとぎ話…?」アルノアの眉がひそめられる。


確かにエーミラティスという名前は、子どもの頃に聞いた古い物語を思い出させた。破壊神とその眷属に挑み、仲間たちと共に戦い抜いた勇者の一団。その中に、白き戦神と呼ばれる英雄がいたという。だが、その結末は曖昧で、最終的に破壊神を封じたものの、彼ら自身も神話の中に消えたとされている。


「まさか、本当に存在していたなんて…」アルノアは呟いた。


「信じるも信じぬも好きにせい。だが一つだけ覚えておけ、破壊神の脅威はまだ終わってはおらぬ。そしてその時が来た時、お主はこの大鎌を扱うに相応しい者となる必要がある。」


「破壊神…本当にそんなものが?」アルノアは混乱しながらも、大鎌を見つめた。その表面に刻まれた白い光の紋様が、まるで彼を選び取るように輝いている。


「破壊神を倒す原石、それを見つけ出し、磨き上げる者こそ、未来を切り拓く鍵となる。お主がその器か否か…見届けさせてもらうぞ。」


エーミラティスの声が途切れると同時に、静寂が訪れた。


「アルノア!」リナの声が遠くから響く。彼女たちが駆け寄ってきたが、アルノアの心は別の思いに囚われていた。おとぎ話と思われていた存在、エーミラティス。そして破壊神と原石――自分は本当にその運命に巻き込まれているのだろうか?


深い疑念と共に、アルノアの胸には奇妙な決意の種が芽吹いていた。


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