3.学園を襲う黒い恐怖と白の覚醒

アルノアは今日も演習場に立ち、冷たい風に顔をしかめた。学園での魔法の訓練は今日も厳しい。火属性の魔法を唱えるために、手を前に差し出すが、指先からは弱々しい火花が散るばかり。遠くで生徒たちの歓声が上がるのが耳に入った。視線を向けると、友人のロイが巨大な火柱を立ち上げている。


「すごいな、ロイは…」


アルノアは心の中でそう呟いた。ロイは同じ15歳だが、すでに火属性の魔法と武術において一流と認められていた。周りには、風や水、地の属性を自在に操る同級生が次々と強力な魔法を見せている。それに比べて、アルノアは火、風、水、土、雷のすべての属性に適性を持ちながら、どれも微妙な結果しか出せなかった。


「魔力の制御はしっかりしているし、魔力自体も多いのに出力が出ない理由が分からない」

「魔法を教えている身として申し訳ないと思う」


 学園で親身になって教えてくれているエリザ先生もアルノアの魔法を強化しようとしてくれていたが、上手くいかずにいた。


「アルノアの魔法に対してのアプローチは良いはずなんだが……何かに阻害されているかのごとく出力が上がらない」


先生に言われたことをあらかた試しても上手くいかず、限界を感じて絶望感すらある。


「アルノア、また失敗か?」ロイ近づいてくる。「お前、いっそ火に集中してみたらどうだ?少なくとも俺が教えてやれるし。」


アルノアは苦笑いを返すしかなかった。ロイは悪気はない。けれど、その言葉が胸に刺さる。どれか一つだけでもまともに使えればと何度も1人で練習してきたことを思い出す。

自分の無力さに葛藤していたその時


 突然、空が黒く染まり、冷たい風が演習場を吹き抜けた。遠くから不吉な轟音が響く。アルノアは顔を上げ、空の異変に気づいた。


「何だ…?」


生徒たちが叫び声を上げ、駆け寄ってきた。教師たちもざわつき始める。黒い影が形を成し、それが近づいてくるのがわかる。


「魔物だ!」誰かが叫んだ。


演習場は瞬く間に混乱に包まれた。巨大な黒い生物の群れが、謎の瘴気から生まれていく。教師たちが急いで防御の態勢を整え、生徒たちに避難と戦う準備をするよう指示した。


黒い塊は獣型や飛行型の魔物へと変化する。

大型の魔物まで現れている。


「冗談だろ…」アルノアは呆然とした。こんな状況で自分が役に立つとは思えない。だが、ロイが近づいてきて、肩を叩いた。


「アルノア、俺らは戦うぞ」


ロイの言葉にアルノアは


 アルノアは拳を強く握りしめた。逃げたい気持ちと、仮にもBランク……ここで踏みとどまらなければならないという葛藤が心を掻き乱す。自分にはロイのような強さはない。それでも、背を向けて逃げるわけにはいかないと感じていた。


「ロイ、カイン、リナ、サーシャ! 一緒に戦おう」アルノアは大声で呼びかけた。彼は仲間たちが集まるのを見て、気持ちを高めた。

「みんな武器は持つんだ!」

 

「っしゃいくぞぉ!」

ロイは武闘家としての力強さを誇示し、敵に向かって突進する。「俺が先に行く! 敵を片付けて、みんなを守る!」


カインは雷属性の魔法を発動させ、周囲の魔物に向けて電撃を放った。「ロイ、無茶するなよ! 後ろから支援するから、数を減らすぞ!」


リナは風を操り、敵の動きを封じながら支援し、本人も風の刃と短剣を使った素早い動きで魔物相手に舞う。「敵の数が多いけど、みんなで力を合わせればきっと勝てるわ!」


サーシャは治癒魔法を準備し、仲間の背後からサポートしていた。攻撃を喰らいそうな味方と魔物の間に水のシールドを貼り、傷ついた生徒をすぐさま治療する。「私がみんなを守るから、前は任せるわ」


先生たちは大型の地龍の相手で手一杯のように見える。


魔物たちが一斉に襲いかかってくる中、ロイは自らの拳を火で包み込み、力強い一撃を放つ。「これが俺の武道だ! 受けてみろ!」


彼の攻撃が敵に当たり、魔物は悲鳴を上げながら倒れていく。次の瞬間、カインは雷の魔法をさらに強化し、周囲の敵を一掃する。「アルノア、次はお前の番だ!」


アルノアは仲間たちの活躍を目の当たりにし、今まで以上に力が湧き上がってくるのを感じた。彼もまた、自分の力を発揮する時が来たのだ。大鎌を構え、敵の隙を狙って突進する。


「行くぞ!」彼は大鎌を振り下ろし、魔物に強烈な一撃を与えた。大鎌の重さと自らの力が融合し、敵を圧倒する。


しかし、次の瞬間、さらに強力な魔物が現れ、仲間たちを攻撃しようとしていた。「こいつは厄介だ!オーガの見た目をしているがこの黒い魔物は普通じゃない!弱点属性が分からない…」カインが苦悶の表情を浮かべる。


「俺たちの力を合わせれば、きっと勝てるはずだ!」ロイが叫び、仲間たちの士気を高めた。「みんな、一緒に行こう!」


オーガがロイに襲いかかる。「ロイ!」アルノアが叫ぶが、彼は既に敵に捕まっていた。


「俺は大丈夫だ! みんな、行け!」ロイが叫ぶ。その瞬間、サーシャが魔法を集中させ、仲間たちを癒す。


「みんな、集中して! 私が回復するから、攻撃を続けて!」サーシャの言葉に応え、アルノアは再び前に出る。


しかし、魔物たちの猛攻は続き、仲間たちも疲労していく。そんな中、アルノアの心の中に何かが覚醒する感覚があった。彼の内なる力が高まっていくが、その反面、絶望も迫っていた。


「こんなの無理だ…」アルノアの心が揺らぐ


狼のような魔物がアルノアに向かって飛びかかる。


「ダメだ…!」アルノアは目をつぶった。


しかし、その瞬間――


それはまるで、大鎌自身が命を持ったのようだった。手に伝わる振動とともに、アルノアの心臓が激しく鼓動する。大鎌を通じて流れ込む力は、今まで感じたことのないほど強大だった。


頭の中で声響く。


「ちと力を貸そう」


「誰だ!?」


「恐れるな、その大鎌は儂の武器でそこで我は眠っていた」

 

「どういうことだ?そんなの聞いたことがない」


「そんなこと話してる暇はあるのかのう?敵さんは待ってくれないようじゃが?体を貸し出せば生かしてやるぞ?」


「貸す?よくわからんが命のためなら仕方ない。どうにかしてくれ。」


「ははっ!確かに契約は交された。証を眼に刻むがの。では久々に暴れようかの」


大鎌が輝きだしアルノアの左目に光が集まり出す。


「ぐぅわぁがぁぁがぁぁぁあぁあぁ」


とてつもない痛みにアルノアは叫ぶ


数秒して意識が安定するとアルノアは自分を俯瞰した視点から見ていた。


「どうなっているんだ!?」


「まぁ見てると良い。わしの戦いを」


アルノアは自分が勝手に戦っている姿をただ見ていた。

とてつもない氷と雷の魔法を用いて白き大鎌を持ちて戦う姿を。


それはとても洗練された動きに見えた。


しかし数が多い。少し押されているようにすら見える。

オーガもまだ健在だ、


「さすがに儂の体じゃないと持たぬか、オーガ程度ですら厳しいか」


「俺の身体だ、俺もやる。」


「お主!?自力で体の権利を取り戻したのか?」


「お前もまだ入ってるけどな」


「ちと力を借りるぞお主。お主の圧倒的属性への適応力があるなら儂の魔力も何とかして見せろ」


「死にたくないからなぁやってやるよぉぉ!!」


 アルノアは再び魔物に向かって走り出した。大鎌の中にいる誰かの力に適応した彼には戦いの感覚を共有していた。これまで無力だと感じていた自分が、今は違う。新しい力が彼を満たし、戦いへの恐れが少しずつ消えていった。


「この力を…俺は必ずものにしてみせる!」


その決意とともに、アルノアは再び大鎌を振りかざし、襲いかかる魔物たちに立ち向かった。


白き輝きを持つ魔力が空間を満たす。

「わしの力戦い方を共有してるんじゃ、オーガくらい簡単に倒してもらわんとな」


「あぁ、負荷が大きくてキツいが、あのオーガは一撃で倒す」

 

「ふむ、お主が力をつけるのを見届けさせてもらおう」


アルノアは白い魔力と大鎌で魔物の中を駆け回った。


アルノアの戦いの光景を見たロイや他の生徒たちも、呆然とアルノアを見つめていた。

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