過去回想
魔力覚醒の日
10歳の誕生日。俺は協会で「魔力覚醒」の儀式を受けることになった。
この世界では、魔力そのものは誰もが持って生まれるが、属性への適性が目覚めるのは10歳の時。これは神々が子どもたちを魔力の暴走から守るために与えた祝福だと信じられている。
協会に足を踏み入れると、厳かな雰囲気に少し緊張した。父と母に励まされながら、俺は儀式台に立つ。
「では始めますよ、アルノア君。」
儀式官が唱える呪文に応じて、俺の体に魔力が流れ込む感覚がした。そして……。
「これは……信じられない!」
儀式官の目が驚きで見開かれる。
「全属性適性だと……!? 私も40年間この仕事をしてきたが、こんな結果は初めてだ。」
周囲がざわめき始める。両親も驚きを隠せない様子だ。
「それだけじゃない。」儀式官はさらに呟いた。「君には『適応』という個性が発現している。この特異な個性も見たことがない……。」
「全属性に適性……適応……?」
俺はただ、目の前の出来事に戸惑うばかりだった。
儀式官は嬉しそうに微笑みながらこう告げた。
「アルノア君、君は特別だ。この力を使いこなせば、きっと偉業を成すだろう。おめでとう。そして、少しずつ慣れていくといい。」
両親の祝福を受け、俺の心には期待と不安が入り混じった感情が渦巻いていた。
学園生活の始まり
それから間もなく、俺は基礎魔法学園に入学した。
期待に胸を膨らませていたが、すぐに現実の厳しさを知ることになる。
初の魔法実践授業でペアになったのがロイだった。
ロイは素早く魔力を手に集めると、赤い炎を纏いながらまるで舞うように動きます。その力強さと集中力に圧倒されるアルノアですが、ロイの明るい性格に助けられ、努力しようと後押しをされた。彼のようになりたいと思える存在になった。
別の日にカインと組むことになったアルノアは、カインの冷静さと雷属性に対する確かな理解に驚かされます。カインは鋭い洞察力と戦略眼で周囲の状況を見極め、無駄のない動きで力を発揮するタイプです。アルノアが戸惑っているのを察してアドバイスをし、カインの冷静かつ的確な教えに確かな成長を感じ安心感を得られた。
それからは2人に積極的に話しかけて学園の最初の方は楽しく過ごしていた。
ある日の授業後、教師がロイとカインを称賛する声が教室に響きます。
「ロイ、素晴らしい成長ぶりだな。君の火属性の攻撃力は並外れている。カインも、雷属性の制御が格段に上がってきている。この調子でいけば、学園の誇りとなること間違いなしだ。」
教室中が二人に注目し、感嘆の声があがりました。友人たちも誇らしげな表情で彼らに声をかけます。
「ロイ、カイン、本当にすごいよな!みんな尊敬してるよ。」
それを耳にしたアルノアは、少し寂しさを感じながらも、ロイとカインの活躍を心から祝いたい気持ちで微笑んでいました。しかし、その直後、陰から聞こえてきた小さな声に彼の表情が曇ります。
「アルノアって、どうしてあんなに目立たないんだろうね。」
「自分が弱いのに気づいてないのかね?よくあの二人と一緒にいられるよ。」
この頃から少し周りの学生からの風当たりが強くなったように感じた。
模擬戦の試練
入学から数カ月後、学園では初めての模擬戦が行われた。
俺はクラスメイトのエマとサーシャと共に上級生チームと戦うことになった。
経験豊富な上級生を相手にメインターゲットを破壊するという試験であった。3人は最初から苦戦を強いられていた。エマの風魔法とサーシャの水魔法の攻撃は見事だったが、連携がうまくいかず、敵に攻撃を読まれてしまうことが多かった。
「アルノア、私たちがうまく噛み合ってないみたい」とエマが焦った声で言う。彼女は風魔法で敵の動きを封じているものの、そこに追撃を入れられず、効果が薄れていた。サーシャもまた水属性の魔法で支援しようとしていたが、エマの動きにうまく合わせられない。
そこでアルノアは考え、2人の力を最大限に引き出すため、自分の「適応」の個性を活かすことにした。
「サーシャ、エマ、僕が間に入る。エマは風で敵を惑わせて、サーシャはその隙に水で一気に攻めるんだ」とアルノアが言う。
エマは風魔法を強めて砂埃を巻き上げ、視界を遮るように風の壁を作り出した。アルノアはその風の流れに身を任せ、エマの魔法を邪魔しないように動く。そして、風の隙間からサーシャの水魔法が敵に向かって正確に飛ぶように、アルノアは自分の立ち位置を微調整し、相手が避けられないタイミングで一気に突進した。
サーシャはアルノアの動きに合わせて水の鞭を作り、敵の足元に巻きつける。「今よ!」とサーシャが声をかけると同時に、エマが強力な風を吹き込み、サーシャの水を鋭くそして冷たくし、敵の想像とは異なる虚を着いた動きをさせる。相手は急に軌道の変わった水魔法に一瞬戸惑う。アルノアはその隙を逃さず、ターゲットに一撃を加え、彼らの勝利を確定させた。
戦闘が終わると、エマとサーシャは息を切らしながらも笑顔を見せた。「アルノア、ありがとう。私たちがうまく連携できたのは君のおかげだわ」とエマが言い、サーシャも「そうだね、アルノアが間に入ってくれたから、私たちの魔法も生きた気がする」と頷く。
この経験はアルノアにとって、仲間の力を活かし合うことの大切さを知る貴重な瞬間となった。
「エマとサーシャの魔法の強度がすごいね」
「アルノアがおいしいとこを持って行っただけだな」
「そんなことないアルノアが的確に判断してくれたから私たちは上手く連携できたのよ」
「そうかもしれないけど、アルノア1人では打破出来ない内容だったじゃないか」
「君たちなら魔法で圧倒して壊せた可能性もあるけど」
周りの生徒にはアルノアの能力はとても地味に見えてしまう。
「アルノアだって適切な魔法を使う判断力と、多属性を使える力を秘めてるんだからすごいのよ」
サーシャが言いエマも頷く。
「その属性が弱いから君たちに頼っているんじゃないのか?俺も弱点さえつければ自分の力で打破できるね」
アルノアはこの時、自分の力が他力本願なのかもしれないと感じてしまった。
「俺の力は1人では戦えないのかもしれない……」
年月が過ぎ学園でのみんなの成長も著しい中、アルノアは、今日もまた訓練場の隅で汗を流していた。周囲では友人たちが次々と派手な魔法を操り、圧倒的な力を示している。ロイは炎を纏い、圧倒的な拳で訓練用の岩を粉砕していた。そして優雅に水を操るサーシャ。どの技も、息を飲むほどに華やかで、見る者に自然と畏敬の念を抱かせる。
だが、アルノアは違った。全ての属性に適性があると聞かされてはいるものの、どの魔法も微妙で、派手な威力を発揮することができない。2年以上たっても大して成長していない。火花を散らすような魔法も、せいぜい灯火程度。水の魔法も、ほんの小さな水球しか生み出せない。「適応」と呼ばれる個性も、戦闘では何の助けにもなっていない気がする。
「このままじゃ、取り残されるだけだ…」と胸の奥で焦燥が募る。しかし、何度試しても手応えはない。仲間たちは実力を認められ、教師からも一目置かれる存在になりつつある。それに比べて自分は、幼なじみたちの後ろに立つただの影に過ぎない。
アルノアは小さく拳を握りしめ、いつか必ず自分も…と自らを鼓舞したが、心に宿る不安が消えることはなかった。
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