色々あって、マジでダンジョンが大嫌い! ~必要に迫られてるんで潜りますけども、本当に嫌ッ~

rina103

第一話

 ピロリロン ピロリロン♪


「…しゃっせー」


 ああ…まだ4時間15分もある… ホント仕事の時間は長いよなー… 共通の現在が存在しないから絶対的な時間も無いんだっけ… くそ―アインシュタインめ!

 夕方前にショーケースをいっぱいにしなければ。 でもフライヤー苦手なんだよねー、油に酔うのよ… カウンターに背を向けフライヤーでチキンを揚げる私。

 このコンビニも、働き始めてから3年近くになる。人に見つけられるのが嫌で、地元のエリアから離れたここに来たけど、おかげで知り合いにはあっていない。助かる。

 なんて考えてたけどまだ5分も経ってない! 帰りたい!!


 ピロリロン ピロリロン♪


「…しゃ「いやいやマズイだろ!ありゃぁ!」ッセー」

「だな!死んでんぜ!間違いねぇ」

「ガハハハッ! あのトロさは命取りだな!!」

「アイツもこれでアストラルからやり直しゃいいんだよ!げへへ」


 またガラの悪そうなの入ってきたなぁ、 声が無駄にデカくて下品。 しかもいきなりレジに来たよ。


「おう、ガイジン! 32番ワンカートン出せよ!」


 あーホント、ムカつく顔。 他に人いるだろ! ちゃんと並べ! ティさんに絡むな!怯えてるだろ!!

 店に入ってきた男4人組、皆が胴や肘・膝・足首にプロテクター、頭にヘッドギアを付けて、腰や背中に電子錠の付いた刀や大剣を身に着けている。

 ハンターか… 私が一番嫌いな人種だ。 傍若無人、迷惑なんてお構いなし、サイテー。 なのについつい目で追ってしまう。ムカつくから。


「おい! オマエ!」


 一番ガタイのデカいヤツが来た… 何だよ。


「お前だよ! さっきからチラチラ見やがって! あぁ!!」


 げっ ハンターバカのクセに目ざといな…

 お客が何気に出て行くな。そうそう、危ないから出て行った方がいいよ。

 しょうがないので、レジ前で頭を下げる。


「…申し訳ございません。他のお客様のご迷惑となりますので、店内での大声はお控えください」

「あぁ!ナメてんのかテメェ! ブッ殺すぞ!! おぉ!」


 はぁ、最近この手のヤツ多いな…


『♪~今年は照和しょうわ100年のメモリアルイヤー! ファミローでは照和100年を記念して特別な商品が盛りだくさん!』


 今から18年前、私が生まれた年に世界中で【次元断層】と呼ばれる【穴】みたいなものが次々と現れたらしい。そんな得体の知れない穴は【ダンジョン】と呼ばれ、それを調べに来た人達を食べちゃったんだろうね、人の味を覚えたモンスターがこっちに出てきたからさあ大変。でも、出てきたのはモンスターだけじゃなくて、様々な資源が一緒に現れたから欲も出てきちゃって。 80億人以上も人がいるからさ、この資源を何とかしたい偉い人たちが、色んな法律をすっ飛ばして作っちゃったのが【トレジャーハンター制度】。その【宝】を、人生を掛け金に穴に潜ってモンスターを倒して取ってくるのが、今目の前にいるバカ4人組みたいな存在が違法スレスレ人間。最初の頃は違ったんだろうけど、今は勘違いしてるヤツがばかり。ライセンスも簡単に取れちゃうしね。

 あぁ!こんなに考え事してたのに、まだ10分も経ってない!


「おい どうした」

「この女がガンくれてきやがって!」

「ん? ネエチャン、俺らに何か用か、あ?」


 うわぁ ハンター<バカ>が集まってきたよ…

 どうしよっかなぁ


「なんだ、ブルってんのか?」

「オイオイ、これじゃ俺らが悪者みてぇじゃねぇか。なぁ!」

「よし、ネエチャン、場所変えて話すっか!」


 ティさんは…奥に行ったか。警察に連絡してくれてるのかな。 監視カメラは…うん、こっち向いてるね、他に人もいないし。

 めんどくさいけど、ここはひとつ…


 ピロリロン ピロリロン♪


「お、今日はご同業がいたか」


 右腕だけが赤い高級そうなプロテクターに身を包んだ長身の男がズカズカ入ってきた。


「おや、どうしたんだい七帆ななほ君、レジカウンターから出ようとして。何かあったのかい」


 あー、人の名前を呼ぶな! こいつらに知られるだろ! ホントこいつは…!


「誰だテメェは!」

「ん? このコンビニの客だが」


 この人を舐めた態度。絶対喧嘩好きだろこいつ。見てるこっちも何かムカつくし。


「んなこと聞いてんじゃねぇ」

「俺らの邪魔すっとテメェからやっちま「ちょっとまて!」うぞ」

「あぁ? どうした」

「あの赤い腕はマズい…」

「何だ? こっちは4人いるんだぞ!」

「いいから!ここを出るぞ!」

「何なんだよ!あぁ!」

「そんなに死にたきゃお前だけ残れよ!」

「ちょ、ちょと待てよ!」

「まだタバコもらってねぇぞ」

「この野郎ォ、覚えとけよ!」


 4人組がこちらを見ながら慌てて店から出て行った。

 うーん、清々しいまでのクズっぷりでハンパない小物感。


「ふぅ…」


 思わずため息が出た。


「あのような時はハッキリと言うことも大事だぞ、七帆君」

「私の名前を外で呼ぶな!」

「ん? 外でなければ良いのかい?」


 ニヤ付きやがって。あー、眉間にシワが寄る。


「あやみサン、だいじょうブ?」

「あ、ティさん。私は大丈夫。ティさんも怖かったでしょ」


 ティさんがスマホをもって奥から出てきた。なんか小動物みたいでかわいいな。


「あやみ? 何のことだ? 七帆君の名前は『ろ』」

「あーそれはいいから!! それより、あんた何しに来たの!」


 あぶな! こいつ油断ならないな!


「? ああ、ここは『荒川断層』が近いからな。 飲み物でも買ってから報告に行こうかと思ってな」

「そう。 何にしても助かったよ。 ありがとう立花」

「素直なことは良いことだな」

「一言多い。 で、何買うの?」

「そうだな…」


 立花が飲み物を取りに向かうと、ティさんが小声で話しかけてきた。


「ネェ、あやみサンは立花サンと仲いいノ?」

「うーん、お客さんとして知ってる程度かなぁ」

「じゃぁ、ワタシがレジやるネ」


 ティさん、ほっぺが赤いな… まぁ確かに、立花はイケメンだし、色々と問題は多いけどA級ハンターだからね。

 ウマに蹴られて死にたくないから引っ込みましょうかね。

 おお、揚げ物セーフじゃん! ケースに入れて奥に行くかな。


『♪~今年は照和100年のメモリアルイヤー! ファミローでは照和100年を記念して特別な商品が盛りだくさん!』


 またこれか、もう飽きたな。 そう云えば、まだ100年のチョコのドーナツみたいなヤツ食べてなかった。 帰りに買って帰ろ。


「こちらノレジへどうゾ」


 立花がティさんのレジに向かうのを見て奥に引っ込む。がんばれティさん!

 バックヤードのパイプ椅子に座ろうとしたら、急に周りの風景が回り出した。

 眩暈? ヤバい!


「七帆さん、どうした?」


 店長が声をかけてきた。

 さっきは冷蔵庫の裏で品出ししたまま隠れてた癖に!


「目が…チカチカする…」


 足に力が入らない!


「七帆さん、大丈夫か!」


 店長が近寄ってくる。 あれ? 床が目の前だ。

 自分じゃ分からなかったけど、結構大きな音を立てて倒れたみたい。

 体は動かないけど音だけはハッキリ聞こえる。


「あやみサン! どうシたノ!?」


 ティさんも来てくれた。でも体が起こせない。


「きゅ、救急車!! 救急車呼んで!!」


 店長が叫んでる。救急車は恥ずかしいな。 あ、ヤバい上下とも2軍だ!


 そんなことを考えてたら、意識がなくなった。






 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る