第2話 快楽の罠
目を開けると、主人公は薄暗い部屋の中にいた。甘美な香りはまだ漂っているが、どこか重く、妖しいものに変わっていた。肌を撫でるような柔らかさも、どこか冷たさを帯び始めていることに気づく。しかし、心の奥に残る快楽の余韻が、その違和感をかき消していた。
「さあ、もっと近くに来て…」
美女の声が耳元で囁く。主人公は無意識にその声に従い、また手を伸ばそうとするが、何かに引っかかり、動けなくなった。ふと、自分の足元に視線を落とすと、粘りつくような黒い泥が足首に絡みついているのが見えた。
「な、なんだ…これは?」
泥は冷たく、そして生臭い。足を引き抜こうとするが、まるで意思を持っているかのように泥はさらに強く締め付け、主人公をその場に縛りつけた。恐怖がじわじわと湧き上がり、甘い香りに包まれていた快楽の感覚が急速に冷めていく。
「逃げられないわ…あなたはもう、私のものだから」
美女は微笑んでいるが、その目は冷たく光っている。主人公はその目の奥に、底知れぬ闇と狂気を感じた。彼女の柔らかな肌に触れたはずの感触が、まるで幻のように思えてくる。そして、周囲の暗闇の中から、かすかな声が聞こえてきた。
「助けて…助けてくれ…」
耳を澄ませば、無数の囁きが重なり合い、まるで怨念のように響いている。恐る恐る周りを見渡すと、暗闇の中に、幾つもの生首が浮かび上がっていた。無表情な顔、悲痛な表情、怒りに歪んだ顔――どれもが主人公をじっと見つめている。
「ここは…どこなんだ?」
足元の泥はさらに強く主人公を引きずり込もうとし、動けば動くほど、泥の中へと沈んでいく。まるで生き物のように絡みつき、抵抗をすればするほど深く沈んでいく。
美女はゆっくりと主人公に近づき、冷たい手で顔に触れた。その冷たさに、主人公は思わず身を震わせる。美女の微笑みが、不気味なほど美しく輝いていた。
「あなたも…ここに永遠にいらっしゃい。私と一緒に」
主人公の意識は薄れていく。甘美な香りに包まれた快楽の世界が、次第に深い闇と恐怖の世界に変わっていく。生首たちは今も囁き続け、地獄の底から逃げ出す術は見つからなかった。
最終話、第3話「抜け出せない地獄」
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