天使な君は想いを残す -それに気づいた俺は選ぶ-

焼鳥

[短編] 天使な君は想いを残す

世界には色んな種族がいて、中には御伽噺の中にいるような者もいる。

その御伽噺に出てくる種族に惚れられたら人はどうなるのか、想像に難くない。


「なぁ...毎度言うけど、俺に絡むの止めてくれないか。」

「羽が一つしかないから疲れるの。」

「なら歩け。そもそもお前浮けるだろ。」

「・・・天使の機嫌を悪くさせると酷い目に遭っちゃうよ。」

「はいはい。」

赤信号で足を止められ、今なおを頑張って剥がそうとするが、何処からこんなに力がかかっているのかまるで剥がれない。

気づけば周りの視線は俺達に向けれられ、中には「あら~」と言ってる人もいる。

「凛音!頼むから離れろ。」

「やだ!誰が私を高校に連れて行ってくれるの?」

「お前だよ。」

「雷斗だよ。」

彼女の名前は凛音りんね、人と天使のハーフだ。その為普通なら二つある羽は一つしかなく、頭の上にある筈の輪は無い。本人曰く父親の血が濃いせい。(因みに羽は本人から生えてるわけではなく、背中から少し離れて空中から出現している。なので服選びには困らないらしい。)

苗字が無いのは、元々天使には苗字が存在しないらしく、父親の苗字を貰うか両親で悩んだらしいが、それは将来の夫に譲ったとのこと。

そして絡まれている俺は犬塚雷斗いぬずからいと。凛音の幼馴染で、絶賛迷惑をこうむり続けている哀れな男子高校生だ。

結局彼女は俺の腕から羽を外すことなく、二人は高校に辿り着いた。

「また後で。」

「ばいばい。」

教室は別なので、下駄箱で別れを告げ、俺はそのまま教室に向かう。


「「お願いします!」」

「嫌俺に言われても。」

1限の授業が終わるといの一番にその場に居たクラスメイトに頼みごとをされた。

内容はこうだ、『凛音の羽が欲しい』。

頼んできた奴らの目的があまりにも分かりやすい。

天使の羽には幸運を呼ぶこむと言われており、元々天使の羽自体は、当人から離れると数分で消えてしまう代物だ。その羽に彼らが力を籠めると、半永久的に残り続ける代物へと変身する。しかも天使という種族は、種族的能力なのか運が絡む事象にとても強い。宝くじを買うと確定という言える確率で一等を引いたりするので、法律で天使はそういうことに参加しないことが定められている。(機械越しには機能しないらしく、天使はソシャゲのガチャにハマる人が続出してる話もあるとかないとか。)

「そこをなんとか~。」

「雷斗君は凛音ちゃんから羽貰ってるじゃん!」

「このお守りはあいつが小学生の頃にくれた奴だ。今と昔は違うだろ。」

「「そんな!!」」

先生が教室に来たのを合図に、集まっていた生徒は諦めがついたのか席に戻って行く。雷斗は一人静かにため息をついた。

「この話聞くの何度目だよ。」

天使が希少な種族で、凛音本人が特別クラス(人以外の種族用のクラス)に在籍してるから話せない、なら俺に頼めばいけるという思考に皆なるらしい。

「らいと~。」

そもそもあいつのクラスの階は一番上なんだから、上がるだけで会いに行けるのに、どいつもこいつも「天使の機嫌は悪くさせたくない」と言いやがる。

「ねぇらいと~。」

少し自分の運を信じろって話だ。どうせソシャゲの確率なんて変わらないのに。

「・・・泣くよ。」

「うるせぇ・・・ぎゃあ!!!!!」

声がした方を向くと、窓の向こう、つまり三階の高さなのに凛音がこちらに手を振っていた。

「いや~雷斗に気づかれなかったらあのまま自然落下してたよ。」

「頼むから心臓に悪いことはしないでくれ。俺が先生に怒鳴られる。」

天使が浮けることは知っている。そもそも天使の羽では体を支えられないので、必然的に浮いていることになるらしい。それでも凛音はハーフなので、浮ける力も強くなく、地面から少し浮くぐらいが限界だ。なので高い所から落ちると、ゆったりと落下していくのだ。慌てて窓を開けて引っ張ったので大事にならなかった。

「普通に階段降りて来てくれよ。お前が何かしでかす度に、先生が青ざめた顔で俺に問いただして来るんだから。」

「善処します。」

鳥人族などは屋上から登校すると聞くし、異種族の普通と俺のような人間の普通は違うのだと、毎度思わされる。

「凛音さん来てますか。」

扉を叩き、教室に入って来たのは獣人の生徒だった。

「あっいました。雷斗さんこの子貰って大丈夫ですか。」

「どうぞどうぞ。」

「雷斗!?待ってよお願い~まだ雷斗と居たい~。」

獣人の生徒に引っ張られるまま教室を出て行った。あの感じは担任の先生に怒られるパターンの奴だろう。異種族の担当になった先生の胃が正直心配だ。

流石に10分休みの時でさえ会いに来る凛音の方が可笑しいのはそうなのだが。

「なんであいつ俺にはあんなに構ってちゃんになるんだ?」

鈍感な男子高校生は一人、悩むのであった。


「お昼は屋上に限る!」

「風つっよ!凛音飛ばされるなよ。」

昼飯を食べる為に凛音と屋上に出ると風が強く、浮く癖がある凛音も流石に足を地面に着けている。

肌寒いのもあって教室に置いてきた制服が恋しくなってると、凛音が登校中にしてきたのと似た感じで、羽で俺の体を包む。

「これなら寒くない。」

「そうだな....」

流石にこれを他の人に見られるのは恥ずかしいので、昼飯は直ぐに食べ終えたい。

「ん...あむ。」

隣の凛音はゆっくり食べている。これだと俺が食べ終えても離すことはしない。諦めて俺もこいつに合わせるとしよう。

「雷斗のそれ美味しそう。」

「これか?」

どうやら出汁巻き卵が気になっているようだ。弁当は母さんが作ってるので、凛音も食べた事があるはずだが、当人は多分忘れている。

「食べるか?二個あるし一個ぐらいあげるぞ。」

「じゃあ私の卵焼きと交換しよ!」

同じ料理なら言うほど味は変わらない気がするが、彼女が嬉しそうにしてるのでこの際気にしない。本当にこいつは美味しそうに食べるな。

「お守りどう?」

「大事にしてるけど。」

「やった!」

凛音が小学生の頃俺にくれた羽のお守り、凛音曰く「不幸を払う」らしく、確かにお守りをつけてから悪い目に遭ってないので、機能してると思われる。

「羽は雷斗にしかあげないから、トコトン自慢していいよ。」

「そのせいで俺は日夜学校中から求められるけどな。」

「うぐ....皆やっぱり欲しいのかな。」

「あげないのか?別に有り余ってるだろ。」

「そうだけど....そうじゃない。」

凛音は何かブツブツ呟いているが、風が強くてあまり聞き取れない。

昼飯を食べ終えると丁度チャイムが鳴り、二人で屋上を後にする。

「下駄箱で待っててね。」

「はいはい、また補修か?」

「・・・違う。」

補修らしい、特別クラスだからといってテストなどは簡単にならないようで、テスト前はよく二人で勉強会をするぐらいなので、先が不安である。

「またね。」

「おう。」

補修が終わったら何か甘いものでも奢るとしよう。


放課後、17時まで待ってようやく凛音がやってきた。

「お待たせ...疲れた。」

「いいよ、どうせ家に帰ってもゲームしてるだけだしな。」

「それで点数取れるのズルい。」

「天才ですから。」

そんな冗談を言いながらも、二人で学校を後にする。

冬に差し掛かっているので、外は既に薄暗く星も見え始めている。

「疲れたから腕貸して。」

「・・・しゃあなし貸そう。」

「ありがと。」

そのまま登校した時と同じように羽で腕を包む。ぷかぷか浮いてる構図だが、他の人から見てどうなのだろうか、正直気になる。

少し歩き、ふと凛音を見ると、彼女は手を擦っていた。今日は冷え込むと天気予報で言っていたことを思い出し、自分の制服を彼女に貸す。

「あっ!あったかい。」

「家に着いたら返せよ。俺も寒いし。」

「そう言って貸してくれるんだからモテるんじゃん。」

「そうだったら良かったのに。」

凛音はよく「モテるよね」と言ってくるが、俺は告白なんてされたこと無いし、多分凛音の方が多い。

「コンビニ寄っていいか、買いたいものあるんだ。」

「じゃあ入り口で待ってるよ。」

「はいよ。」


コンビニでお菓子と外で待ってる凛音の為にコンポタを買った。

「戻った。」

買った二つを彼女に手渡し、ついでに腕も差し出す。

「これ貰っていいの。」

「天使様の機嫌は損ねたくないのでね。」

それ聞いた彼女が嬉しそうに笑う。口には出さないが、本当に可愛い。

天使は皆整っていると聞くが、凛音を見てると改めてそう思う。こんな美人に笑顔を向けられたら勘違いする人も出るというもの。まぁ当人の方が大変そうだが。

帰宅時間なのか、色んな人とすれ違う。皆凛音を見て驚き、中には写真を撮ろうする人もいる。なのでいつも彼女の横に立ち、可能な限りそういう輩の邪魔をする。

まぁそれでも撮られるものは撮られるので、最低限彼女が気づかせないようにしている。異種族が珍しいからと、勝手に撮っていい理由にはならないが。

「なんか機嫌がいいな凛音。」

「なんででしょうね~。」

凛音からしたら雷斗がしてくれている事は分かりやすく、本人は口に出すことは無いだろうが、私は彼に愛されているのが見てとれるので満足している。

補修や行事で頑張れこうして甘やかしてくれるし、雷斗は無自覚なのだろうが、普通に歩いている時は私の歩幅に合わせてくれる。

これで付き合ってないのだから、付き合い始めたらどうなることやら。

「それが難しいのだけど...」

「何か言ったか?」

「別に。」

私達天使が羽を送る理由は主に二つで、数分で消えてしまうただ羽の場合『仲良くしましょう』の意図で、残り続ける羽の場合は『好き』を表す。初めて聞いた時は天使の祖先はフクロウか何かなのかと思ったけど、本能的に渡してしまうらしく、つまり私は小学生の頃から彼に恋してることになる。因みに母親曰く「あげたからには捕まえなさい」とのこと。でもネットや本によると小さい頃から一緒にいる人同士は恋愛感情があまり生まれないとあり、雷斗の接し方はもろにそれなのである。

「勝てそうにない。」

「お前また誰かと賭け事してるのか?いつも負けてるのに。」

「それは雷斗の場合だけだよ!雷斗ゲーム上手すぎなんだもん。」

「そりゃあやってる時間が違いますから。」

笑いながらこっちを見る、笑顔が眩しいくらいに好きだ。

「そうだ!週末買い物付き合ってよ。」

「別に構わないけど、何買いに行くんだ。」

「服。」

「そう。」

「雷斗は服に無頓着すぎるんだよ。もっと着飾ればモテるのに...」

「そんな金あったらゲーム買ってるよ。」

「もう!!!」

ポコポコと背中を叩く彼女を無視して歩く。何はともあれ、寝るしかしてない週末に予定が入ったんだ。忘れないようにしないとな、遅刻するこいつ凄い怒るから。

そんな事してると家に着き、隣同士だが凛音の方がほんの少しだけ学校に近いので、彼女の家の前で解散する。

「お疲れ。」

「週末忘れないでね!」

「分かってる。」

家に入ってから気づく。あいつから制服返して貰ってない。

「まぁ明日返して貰う。」


「買うぞー!」

「はいはい。」

来たのは電車で一時間ほどの大きめのデパート、ここなら服以外の買い物も済ませられる。なにより店内がアーケード街形式なので、ウィンドウショッピング出来ることでも有名だ。女性に人気なのも頷ける。

「最初に目的の服買ってからだ。」

「そんな忙しくないでしょ!見て回ろうよ。」

ウキウキで回るつもりの凛音を見てため息がつく。周りを見ても一応異種族はいるものの、彼女のような種族はいない。つまり浮いてるのだ、彼女の存在は。

それでも俺が隣にいる時は少なくとも男性からの視線は減るので、極力離れないようにすることを心がけよう。

(わああああああ!)

周りの視線は確かに気づいていた、ふしだらな視線は特にだ。でもその度に雷斗が守ってくれている。そんな事されたら更に好きになってしまう、もう好きなのだが。

「顔赤いけど大丈夫か。」

「ひゃい....ダイジョウブデス。」

「カタコトすぎるぞ。」

流石今はいつものように腕に羽を包むは出来そうに無い。

「ここです!」

目的のお店に辿り着いたようで、どうやら異種族の服を専門に置いているお店のようだ。中をちょろっと見ると、凛音とは異なるが様々な種族がいる。男女共に買い物をしてるのを見ると、片方に特化してるわけでもないようなので待つ安心だ。

(女性服特化だと絶対に二時間とか待たされるしな。)

「雷斗は入らないの?」

「俺はここで買わないしな、お前だけでもいいだろ。」

「・・・いけず。」

「なんだとてめえ!!」

安い挑発に乗ってしまい、彼女に連れられて中に入ってしまった。


凛音はスタッフに連れられて服を選んでいるので、俺は休憩用のソファで休む。

音ゲーでもやって暇を潰そうとしていたら、スタッフに声をかけられた。

「何かお探しでしょうか。」

スマホを弄っていたので、探し物と勘違いされたようだ。

「いえ、あそこの連れです。荷物持ちなだけなので待ってるんです。」

「あらそうでしたか、珍しいお客様が着ていたので納得です。」

やはり天使は珍しいようで、スタッフの口ぶりから殆ど来店しないようだ。

「それにしても・・・微笑ましいことです。」

スタッフは俺の腰に付けている羽飾りを見て呟く。

「どういうことですか?」

「あら、知らないのですね。天使の種族の方が羽を送る理由を。」

「?まぁ知らないです。連れが『不幸を退ける』とかでくれました。」

それを伝えたら、スタッフはニコニコしながら教えてくれた。

「天使が羽を送る理由は二つあります。そして羽を残す方法で渡す場合、それは『愛してます』の意味で送るんです。」

「・・・・・・・え。」

スマホを落とした事に気づかないぐらいに衝撃を受けた。

(あいつが俺を愛してる、嘘だろ。)

それぐらいの衝撃だった。普段のあいつから想像がつかない。確かに距離感は近いとは思ってたが、それが好意によるものとは思わなかったからだ。

「しかも渡すのは本能から来るものと言われています。因みにいつ渡されましたか?」

「小学生の頃です。」

「長い付き合いなんですね!こんな年なのに熱くなってきました。」

スタッフが勝手に盛り上がっているが、それよりもこれからの事だ。

(これからどう接しよう、いや下手に変えるとあいつが傷つ兼ねない。)

悩んでいるとそれに気づいたのかスタッフがアドバイスをくれた。

「お連れ様を大事になさっているは伝わります。なので側にいてください。いつか時は来ます、それが来たらでいいのです。自分の気持ちに素直になってください。」

そう言ったスタッフは長年の経験なのか、落ち着いた声だった。

「そしてここの常連さんになってくれれば完璧です。」

「そっちが本音ですね。」

「どちらも本音ですよ。」

この人には口勝負で勝てそうに無い。


「悩む。」

どれも欲しいものばかりだが、今日の軍資金はそこまで多くない。

スタッフがお勧めのものを教えてくれたが、それでも迷ってしまう。

悩んでも仕方ないので、店内を歩きまわっていたらポスターが目に留まった。

「貸出?」

学生も多く来るお店のようで、文化祭などで使える服を貸し出してるようだ。

「何があるんだろう。」

内容を見ると、学生が思いつくものは大抵揃っている。確かにこれなら安心だ。

「あっ....ウェディングドレス。」

写真などで見た事あるが、実物は無い。それでも一度は着てみたいのは女の子は誰だって思うことだ。

「試着してみますか。」

「ひゃっ!」

いつの間にか後ろにスタッフが立っており、ニコニコしながら聞いてきた。

「試着でしたら無料で行ってまして、あちらの個別ルームで着る事が出来ます。きっとお連れの方も喜ぶと思いますよ。」

「おつれ・・・彼とはそうのじゃなくて。」

「あら違いましたか~でもお客様でしたら何を着ても似合うと思いますよ。」

これは逃げれそうにない。諦めて一つ選ぼう。

「じゃあこれ着てみたいです。」

「承りました!」


羽の話を教えてくれたスタッフが他のスタッフに呼ばれ、そのまま俺も呼ばれた。

「凛音に何かあったのか。」

個別ルームに案内され、何故かカーテンで仕切りが出来ており、向こうの様子が分からない。本当に何が起きてる。

「雷斗いる?」

「いるけど。」

カーテンの向こうから凛音の声が聞こえ、余計に分からなくなる。あいつ服買ってる筈じゃ。

「雷斗は今から一言も喋らないでね。絶対だよ!」

「分かった。」

そしてカーテンが開かれた。


そこには天使が立っていた。

白いベールに包まれ、普段は浮いてしまう羽も装飾の一つになるほどだった。

ウェディングドレスを着ていた凛音を見て、声を失う。

「変じゃないよね....雷斗?」

強く頷く。100人が見れば100人が同じことを口にするとと思うほどに似合っていた。

「お客様・・・・・・はいそうです。」

スタッフが凛音に何か耳うちしてるが聞き取れない。凛音の顔が真っ赤になってるので、変なことを吹き込んだのは確かだが。

すると凛音は俺の前まで歩き、手を差し出す。

「雷斗・・・いえ旦那様。」

「凛音!?」

明らかにスタッフに踊らされているのは理解できる。彼女も一杯一杯なようで、もう沸騰しそうなほどに顔が赤い。なんなら後ろに立ってるスタッフからとんでもない殺気がこちらに向いてる。俺に出来る事は一つしかなかった。

「あぁ。」

彼女の手を取り、それにキスをした。

「・・・・・・・!!!???」

凛音は自分がされた事を理解し、声にならない程に混乱する。

(もう逃げたい!!!!!)

スタッフさんはご満悦な表情を見せている。雷斗の耳が赤いので、本人も恥ずかしいのだろう。

(無かったことにしたい。)


「とんでもない目にあった。」

「それはお互い様だ。」

あの後にスタッフが別の服を持ってきた時はどうしようかと思った。

雷斗が断ってくれたから事なきを得たが、それでも恥ずかしい思い出が出来てしまった。

(今日はもう雷斗の顔見れそうにない。)

あんな事して、そしてされた後だ。お互いに気まずい筈だ。

時間を見れば既に日が沈み始める時間であり、何も言わずとも二人は帰る準備を始める。

「すまん、ちょっとここで待っててくれ。」

「どうしたの?」

「ただの買い忘れ。ここに来たんだお前のついでに終わらせとく。」

そう言うと足早に家電用品が置いてある方で行ってしまった。

「イヤホンとかそんな感じか。」

10分ぐらいで雷斗は戻って来た。買いたい物は直ぐに見つかったようだ。

「帰るか。」

「うん。」


最寄りの駅まで帰ってくると、丁度バスが行ってしまった。

「次来るの20分後か。歩いたほうが早いな。」

「腕貸して。」

「あいよ。」

お店の事があったから素直に貸してくれた。やはり気まずかったようだ。

「そういえば雷斗。」

「どうした。」

「私がイヤリングとか売ってるお店見てた時に何か買ったでしょ?何買ったの。」

服を買った後に寄ったお店で雷斗が買い物していた事を思い出し、聞いてみる。

「・・・あれはその。」

雷斗にしては妙に歯切れが悪い。もしかして私が「着飾れば」とか言ったせいだろうか。そしたら申し訳ないことをした。

質問したが、家に着くまでずっとはぐらかされ、最後まで教えてくれなかった。

「じゃあまた明日。」

「・・凛音あげる。」

白い箱を渡され、私が何か言う前に彼は家に入ってしまった。

「プレゼントで合ってるよね...?」

何かあったのだろうか。


自分の部屋に戻り、箱を開ける。

中身は小さい羽のイヤリングだった。

天使の羽をモチーフにしたものらしく、調べれば学生に人気の一品らしい。値段も優しく、よく告白に使われるらしい。

「告白・・・天使の羽・・・!?」

雷斗の事だ、普通なら何も考えずに買うはずだ。なのにこれを選んだ、使を選んだのだ。

「つまり、そういうこと。」

スマホを見ると通知が二間届いており、どちらも雷斗からだった。

【羽飾りのお礼忘れてた】

【あとあれを着るのは大学の後だ】

そう書かれていた。

「着るのは大学の後....そっか。」

いつもならきっと慌てふためくのだろうが、そうはならなかった。

【ありがとう】

【待ってる】

私はそう返信し、スマホを閉じる。

「羽貰っちゃった。」

天使が残る羽を送るのは『好き』を伝える為、これはきっとそのお返しだ。

「気づかれちゃった。そして言われちゃった!」

イヤリングを優しく握りしめ、静かに呟く。

「雷斗大好き。」

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