第3話 ツノウサギ

 なんでいるんだよ。


 びっくりしすぎて、ソファを飛ぶように立ち上がってしまった。


「危ないじゃないですか、頭がゴッチンコするところでしたよ?」


 確かに、勢いよく立ち上がった俺の頭がゲームマスターの顔めがけて当たりそうになったが、


「いや、避けたからいいだろ。てか、何の用だよ?ほんとに」


 つい先程、出会ったゲームマスターが俺の背後に急に現れ、しかも不法侵入だぞ?怖すぎる。


「それにな、ゲームマスターって最初に挨拶して中盤にそろそろ終わりだとか言って最終章でラスボスになるのがテンプレだろ」



「いや、僕はラスボスじゃないですよ?それに、また会おうって言ったじゃないですか。あと君の質問というか思っている事について答えに来ましたよ。まず、僕は君の体を改造した」


「うん、しれっと言うな。だいぶ怖いぞ?俺の心はお前が改造したおかげでだいぶ安定してるけどな」


「それと、『ワールドメニューβ版』確か名前を楓といったかな? その子の変化については僕は何も関与していないよ。勝手に成長するようにしているからね」



 そういうのは次々、言ってくんじゃなく徐々に言ってくんだよ。俺は早く知りたいから助かるけどな!


 神か何かなのか?いや、そうだとして何がしたいんだよ。


「僕はね―――」


「それ以上は言うなよ?お前心読めるんだな?よし、ゲームマスターそれ以上はやめておけ。あと、ゲームマスターに向いていないぞ」


「心は確かに読めますけど、それはないじゃないですか」



 あのな、敬語がぎこちないし…その姿も本来の姿ではないってやつなんだろうな。



「なぜバレた!?」



 あってたとしても、普通は声に出して言わねぇよ。あと、さっさと帰れ。


 俺はこれから、作戦会議を楓とするんだよ(たぶん)


「う〜ん、それじゃあまた来るね」


 そう言って、またもや光の粒となり消えていった。


「ゲームマスターは一度に何度も合うような存在じゃないんだよ。伝え忘れとかなのかもしれないが、メッセージでいいだろうに」



 ☆☆☆


「なぁ、楓ちゃーん俺はこれからどうするべきかなぁ」


 ゲームマスターがいなくなった後、俺は昼食のカップラーメンをすすりながら楓に話しかけていた。


【まずは、ゴブリンの討伐を行うのはどうでしょうか?マスターなら、討伐出来ると思いますよ?】


 楓ってAIなのかなぁ……最近の世の中ってAIが発達してるからちょっと怖いんだよねぇ。今はそんな事を気にしてる暇ないんだけどな。



「う〜ん、俺に殺せるかなぁ…主に精神的に」


 普通に生きてれば人型の何かを殺す事なんてないが、今ではそれをしないといけない……てかレベルがないよな、俺って成長するのか?


 とりあえず、討伐してみないと分からない事だらけだから討伐をしに行く事にした。


 俺が向かったのはアパートを出て少ししたところにある公園だ。


 ☆☆☆


 公園までやって来たが、公園に来るまでの道には魔物がいなかった為、特に危険を犯すことなくやって来ることが出来た。さすがに最初ゴブリンを見かけたところは徒歩だと少し時間がかかるし、走っていけば疲労した状態で戦うことになる、というわけで近くの公園を選んだのだが…



「ゴブリンは、いないな」


 見つけたのは角のある兎だった。


【ゴブリンよりも弱いツノウサギです、龍司さんの持っている木の角材で一撃で仕留められるはずです】


 俺はここに来る途中に、捨てられていた木の角材で背後から忍び寄りツノウサギを殴りかかった。



【レベルシステム導入が確認されました。ステータスを開きますか?】


 YES


【ステータス】

 レベル『3』


 名前

『伊藤龍司』


 スキル

『ワールドメニューβ版(楓)』

『ストレージβ版』


 称号

『βテスター』



 初めて魔物を殺した感触だが、そこまで嫌な気分にはならなかった。多少思うところがあるものの、吐くほどの嫌悪感や罪悪感を抱くことはなかった。


 そして、このレベルという新しい項目ますますゲームを体現したような世界になってきた。


 はぁ、次はゴブリンかぁ…吐くのかなぁ……吐きたくないなぁ。


 そんな感じに嫌気がさしつつも俺はゴブリンを探しに公園を出た。



「うーん、さすがにずっと角材を使って魔物と戦うのはいつか厳しくなるよなぁ。あ、後で実家に帰ってみるか」


 別に実家までかなりの距離がある訳でもないが徒歩だと遠いイメージだ。普段は自転車で帰ってるからな。無理言って俺が一人暮らしを始めたいって言ったからそこまで離れた場所で暮らすことにはならなかったんだ。



 公園を出て、来た道とは違う道を通ってアパートのある方向へと向かった。もしかりにゴブリンが見つからなかったとしても一度実家に帰ってそこから探せばいいだろう。


 実家には、先祖代々で受け継いでいる刀が数本あったはずだからそれを取りに行くつもりだ。



 まぁ、ゲームマスターがまた別のスキルとか付与してくれたらなぁ…もしくは魔物を討伐するとドロップするようにしてくれたら…


 ツノウサギからは、討伐すると霧のように消えて、小さな魔石と呼ばれる石だけを残して逝ったが何に使える物なのかも分からずとりあえず『ストレージ』に収納してある。


『ストレージβ版』

 アヒル隊長×1

 魔石(極小)×1



 この(極小)というのは恐らく魔石の大きさだと思われる。アヒル隊長には大きさが書かれていないのは何故だろうか。


 そんな事を疑問にしていると



【ゲームマスターからメッセージが届きました】



【メッセージ】

 新しいスキル『ガチャβ版』を付与したから使ってみてほしい。


 ゲームマスターより



「はぁ、心の中は読めるは何処からか監視はされてるわ…疲れるわ主に精神的に」


 どうせ、βテスターの俺に色々試させて後々バグが起きないようにしたいんだろうな。


【メッセージ】

 正解だよ。さすがは僕の選んだβテスターだ。


 いや、抽選で選んだんじゃねーのかよ。嘘つき野郎が。



「はぁ、アパートに帰ってスキルの検証をするかぁ」


 ため息を吐きながら俺はアパートへ向かった。

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