第2話 名付け

【まずは、あのゲームマスターを名乗る男性について。あの男性は、実験と称してこの世界の理を書き換えた存在】


【新世界とは、スーツの男性が望んだ世界のβ版】


【ゴブリンや他の化け物は、スーツの男性が望んだ人類の敵対生命である魔物】


【この世界をゲーム世界にしたいスーツ男の望んだ新世界の形がこのβ版として形成されています】


 この『ワールドメニューβ版』というやつは俺が先程、叫んだ内容について答えを出してくれた。声も機械的で、無機質な音声だ少し寂しく感じるが、一人よりはマシだ。



 叫んだことによって落ち着いたのか、それともゲームマスターの手により身体を改造させられているのか分からないが落ち着いてきた。


 落ち着いた事によって、先程のスキルについて聞き出せるようになった。錯乱状態だと、何も出来ないんだな……本当に怖かった。


【スキルとは、己の魂に刻まれた能力の事です。マスター龍司のスキルは…】


『ワールドメニューβ版』


『ストレージβ版』


【今現在、所有しているスキルはこの二つとなります。ステータスを見ますか?】



 確か、こういうのはYESとNOで答えるんだったよな?


「YESで」


【ステータス】

 名前

『伊藤龍司』


 スキル

『ワールドメニューβ版』

『ストレージβ版』


 称号

『βテスター』



【今後、更新されていく可能性があります。】


 うん、なんとも言えないな。別に俺は早く元の世界に戻ってとは願うが俺がどうにかできるのかも分からん。ゴブリンにすら怯えた俺がなぁ……


 てか、ワールドメニューβ版って呼ぶのもあれだし、早めに名前決めるべきだなぁ。受け入れてくれるか…まぁ受け入れるだろ。



「なぁ、お前って他に名前とかあるのか?呼びにくいしないなら決めてもいいか?」


【私は、ワールドメニューβ版です。ご自由にお呼びください】



 かと言って、そう簡単に名前なんて思いつくわけないんだよなぁ。俺は別に名付けが得意って事もなければ、誰かの名前を決めた事すらないからな……そりゃ、いつか結婚して子供が出来たら自分の子には名前を付けたいけどよ。



 って、結婚する為にも世界を元に戻さないといけないのか……


 話は逸れたが、本当にどうすればいいのだろうか……



 ☆☆☆


 熟考した結果だが俺はスキルの検証をする事にした。やはり、スキルにはロマンが詰まっている。中高生の時に夢みた異世界が現実になったんだ、そりゃあ少しは嬉しかったりする。それ以上に寂しさとか複雑な感情が大きいけどな。


「なぁ、ストレージってどんなスキルなんだ?俺の予想だと物を収納できて、それが幾つあるか、とか確認出来るものだと思っている」


 早速検証をする事にした。


 さすがに外へ出る勇気はなく、家にあるもので試すことにした。



「とりあえず汗かいたし風呂に入るか。ついでにスキルを試そっと」


 俺さぁ、走って帰ったからかなり汗かいてたんだよな…スキルも試したいがまずはシャワー浴びて風呂に浸かりたいと思う。


「いい体だなぁ」


 思わず呟いてしまった。そこそこ筋トレを続けていた俺はジムに行かずとも腹筋を割り、腕や足を鍛えていた。


「顔はまぁ、そこそこいい方だと思う」


 風呂場の鏡を見てそう言った。


 黒髪でシュッとした顔立ちをしている、と思う。人といる時は基本、緊張して話せないから無口なクールな奴とでも思われている事だろう。加えて、母が海外の人で、その澄んだ空のような水色の瞳を受け継いでいる。


 そういえば、『ワールドメニューβ版』と話す時は緊張しないんだよな。まぁ人じゃないからかもしれないが。


「ふぅ〜きもちぃぃ。そんじゃスキル試すか」


 俺は湯船に浮かべていたアヒルちゃんを『ストレージ』に収納しようと試みた。



「うおっ、念じるだけで出来るのか」


 念じるといきなり消える訳じゃなく、残像が残って気づけば無くなっていた。残像が残るのも一瞬で、瞬きをする間に消えるくらいだった。


『ストレージβ版』

 アヒル隊長×1



「そういや、アヒル隊長って名前だったなぁ。それに、こんな風に映し出されるのか」


 目の前に文字が浮かび上がり、収納した物と個数が書かれていた。


『ワールドメニューβ版』

 このスキルがイマイチ分からない、無機質な声で俺が声に出した問いを答えてくれるいい人?っていう感じの評価だ。



「なぁ、お前さんって名前とかあるのか?」


 再び同じ問いを聞いた。さすがに毎度『ワールドメニューβ版』と呼ぶのは面倒くさいし、名前があるならその名で呼びたい。俺が名付けるのもありだな…


【特にないのでお好きにお呼びください】


「ふむふむ、ほうほう」


 なんて呼ぶべきだろう、特にどう呼びたいとかは考えていなかった。折角、名前をつけるからには可愛い名前にしたいよな。うん。



「それじゃあ、お前さんの新しい名前は【かえで】だ」


 楓の花言葉は、美しい変化、というものだった。この子――楓――がよりよく変化する事を願って付けた名前だ。β版だからいい変化を望んでね。


【以後、私の名前は楓です。これからも末永くよろしくお願いします】


 どこか意志を感じるその声は、少し前に出会い少ししか話していないが、確かに変化があるように感じた。



 よっしっ!風呂あがるかぁ。


 風呂をあがって、髪も乾かし俺は少しだけくつろごうとリビングへ向かった。


「こんな世界だけど少しくらい寛ぎたいんだよなぁ」



「やぁやぁ、さっきぶりだね。」



 俺がリビングのソファに座り込むと、俺の顔を見下ろすように顔に黒いモヤがかかった謎のスーツ男―――ゲームマスター―――がそこにいた。



 なんでいるんだよ。

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