今日は、人間を、殺しました。

ぽぽ

第1話

 n月n日


 今日は、初めて人を殺しました。

 首を絞めた時の、柔らかい肌と管の感触、腕に食い込む爪の痛み、絶命する時の、体が跳ねる瞬間。どれを取っても、気持ちが良かったです。

 後に残った肉は、刻んで、海に捨てました。人間を丸々一匹運ぶのは、大変でしたが、たくさんの魚が寄って来て、面白かったです。

 わたしは世界を救わないといけません。もっと、人を殺さないとです。

 私は狂っていない。完全に正気だ。だから、世界を救わないといけない。人の命はどうでもいい。


 n月n日

 

 今日は、二人の人を殺しました。

 昨日は一人だったのに、今日は二人です。わたしが、進化していくのを、感じます。

 一人はナイフで目玉から脳を刺しました。血に混じって、透明の液体が流れるのと、刺さる時の目玉の弾力が、少し面白かったですが、やっぱり、首を絞める方が、面白かったです。

 なので、二人目は、首を絞めました。柔らかい皮膚に指が食い込む感覚が、なんとも言えない快感です。

 やっぱり今日も、刻んで、海に捨てました。警察という機関は、今のわたしだと敵いません。なので、ばれないように殺さないといけません。もっと、強くなってから、挑もうと思います。

 人間を殺したが、私は絶対に正気だ。世界を救わないといけないんだ。そうでないと、人間を殺した意味がない。

 昨日よりもスムーズに人を殺せた。私は経験によって強くなっている。この調子なら、世界も救えるだろう。


 n月n日


 今日も、二人でした。

 昨日も二人だったので、今日は三人殺したかったのですが、二人で疲れて、やめてしまいました。

 一人目は、喉元を切り裂きました。血が、いっぱい溢れてきて、絶対にもう助からないのに、首を抑えて、血を元の場所に戻そうとする様子が、とても、面白かったです。

 二人目は、やっぱり、首を絞めました。これが一番、面白いです。腕に残る爪の痕を見てると、なんだか、不思議な気持ちになります。

 今日で、わたしのレベルはどれくらい上がったかな?

 一昨日よりも昨日の方が、昨日よりも今日の方が、スムーズに殺せている。それは経験のおかげでもあるだろうが、何より、私が躊躇をなくしてきているからだと思う。今日の方が、ナイフを振るう手が、首を絞める指が、滑らかに動くのだ。

 このままいけばきっと、一週間後には蟻と人の区別もつかなくなるだろう。

 それは正気と言えるだろうか?言える。なぜなら人間はモンスターだから。世界の敵だ。

 モンスターを殺すことを躊躇ってはいけない。レベルが上がらなくなってしまう。

 もっとモンスターを殺さなければ。


 n月n日


 今日は、六人も殺せました。

 混んでるホームで、人を線路に落とすと、簡単に殺せます。混んでるから、誰もわたしがやったと気づきません。

 電車が当たる瞬間に、皮が弾けて、血と肉が飛び出てくるのが、面白かったです。それを見る、人間たちの反応も、面白かったです。吐く人間、騒ぐ人間、カメラを構える人間。みんな、醜いです。

 いろんな駅を移動したので疲れましたが、いっぱい殺せて、良かったです。それに、残った肉の処理も、人間が勝手にやってくれます。

 電車のブレーキ音に混じる、僅かな「べちゃり」「パァン」という音。それを聞くと、私のレベルが上がっていくのを感じる。

 私は狂っていない。狂っているのは人間の方。私は勇者。人間から世界を救わないといけない。

 新しいアイテムを手に入れた。効率よく人間を殺せる。


 n月n日


 今日は、たくさんの人を殺しました。

 駅に、爆弾の入ったバックを置いて、遠くから、それを爆発させます。

 爆風で、近くにいた十人くらいが死んで、飛び散った破片で、さらに十人くらい死にました。でも、遠くから見てただけだから、死んでないかもしれません。人間の内の一人は、顔にいっぱい破片が刺さってるのに、叫び続けていました。お腹から、背骨が見えている人も、いました。赤ちゃんもいて、その子は、遠くまで、吹き飛んでいきました。

 人間は、個体によっては、ものを差し出せば、仲間になるそうです。なので、明日は、人間を嫌っている人間を、仲間にしようと、思います。

 人間の悲鳴を聞くと、どこか心がざわつく。どうしてだろう?人間とはモンスターだ。害獣が吠えていたって心が痛むはずがない。

 じゃあ、どうして。いや、考えるだけ無駄だ。考えたところで世界を救えるわけじゃない。行動をしないと救えない。

 明日も人間を、いやモンスターを、沢山殺そう。


 n月n日


 今日は、人間を仲間にしました。

 暗くて、狭い場所で、一人で座っている人間を、四人見つけて、その人間たちに、お金を渡しました。すると、喜んで、わたしの言うことに従ってくれます。

 その人間たちに、昨日のバックを渡しました。そして、マンションの四隅に、置かせました。全部同時に、置かせました。

 バックを置き終わった瞬間に、爆弾を、爆発させました。そのマンションは古かったので、簡単に、倒れました。

 人間たちは、寝ている時間です。いっぱい、あの中にいたでしょう。ということは、いっぱい、殺せたでしょう。私のレベルが、上がっていきます。

 何人殺しただろうか?十人?二十人?もしかしたら、百人?私が殺した人間は、どうしているだろう?転生か、天国、あるいは地獄か、完全な無か。無になっていてほしい。人間という存在は憐れだからだ。

 いや、そんなことを考えても仕方がない。人間は人間でしかないのだ。ただの醜い存在。それに同情など、意味がない。

 だが、そう考えようとしても……私の心は、どうしようもなく痛い。今も、人間たちの呪詛が聞こえる。

 だめだ。勇者が弱気になってはいけない。もっと人間を殺さないといけない。


 n月n日


 今日は、線路に、爆弾を仕掛けました。

 計算して、置いたので、ちゃんと爆発して、さらに、吹き飛んだ電車が、隣の線路にまで行って、そこに電車が突っ込みます。

 いっぱい人間がいて、どうなってるかを見れなかったですが、多分、いっぱい死んだと思います。

 救急車に運ばれる時に少しだけ見えたのは、肋骨やあばらが突き出ていたり、顔が半分の薄さまで潰れていたり、という人間たちでした。

 どんどん、人を殺す方法を思いつきます。明日は、どうやって殺そうかな。

 私は、勇者だ。魔王を討つためにレベルを上げ、仲間を増やし、世界を救う。この冒険の書は、きっと世界が救われた後に、誰もが知っている書となるはずだ。

 そうだ。私は勇者。人間なんかではない。人間ではないのだ。手も足も脳みそもあるが人間じゃない。勇者という概念だ。世界を救わないと。

 心が痛い。


 n月n日


 もう限界だ。

 警察の捜査が及んでいるし、何より、もう心が耐えられない。人間はモンスターだ。だがモンスターの悲鳴でも心に来るものがある。痛い。

 ここは魔王に支配された世界。人間たちはモンスター。私は勇者。

 救わないといけない。

 私は人間。


 n月n日


 きょうは、一番怖い怪物を殺すことにします。

 梁にロープを括り付け、台の上に立ち、ロープに首を通し、台から飛び降りる。

 それで一番怖い怪物は消えます。

 さようなら

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今日は、人間を、殺しました。 ぽぽ @popoinu

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