第六十八話 楽しい帰省?(下)

 

  「ルナの゛、は?」



 木陰で一休み入れながらリトが訊ねると二人は「ああ」と頷いた。



「ルナは特殊な魔力の使い方するようになったみたいでな」


「自分の魔力を瞬発的にな、外に放出して足場にしたり切り取って指から魔銃みたいに飛ばしたりできんだよ」



 なんだって?



「あれ、ほらお前が解呪した時言ってたろ?

「増幅」「強化」あと、「持続」と「循環」……だっけな?

 そこら辺の幾つかが長いこと呪いとして抱えてた結果、体質として定着してるみてえなんだよ」


「それってルナちゃんが受けてた不老不死の呪いってやつの?」


「そうだよ!あと、ルナって呼んで?

 他所の人みたいになっちゃう!」



 アルの質問にルナが答えついでに注文をつける。



 そんな事になっていたのか……。



「それ、じゃ武器な゛んて、いら゛ない、んじゃ……」



 リトの問いにカティとエドワードは顔を見合わせた。



「うーん。お前がそれ言うか?」


「どんだけ魔力に差があろうと流石に得物なしで素手で戦うにゃ無理があるのお前も分んだろ」



 あ



 確かにアカツキにも言われていた。



「魔法使いなら体捌きと魔法で防げるけどただの生身と武器持ちじゃ分が悪いってことだな」



 アルがうんうんと一人納得する。



「「夜の巣はそんなに甘くないぞ」」



 カティとエドワードが声を揃えてビシッとアルに指を突きつけた。



「魔法使いだ」


「杖が無くなっちまったら威力、スピード、精密さが激減する魔法使いだからこそ肉弾戦も鍛えとけっつー話だよ。

 アカツキから言われたろ?」


「それに杖無しで無詠唱魔法が使えるお前なら両手が空くということだ。肉弾戦の出来る魔法使いはほぼ無敵だぞ」



 二人に詰め寄られてアルは目を白黒させた。



「この後リトの成長具合見たらお前らの武器見繕うぞ。希望はあるか?」


「え?うーん。杖以外考えたこともなかったから……」


「じゃ、一通り試すか」



 この二人の手にかかればサクサク物事が進んでいく。



「さてと、お次はリト。お前の番だぞ」


「エルから進捗は聞いてんぞ。魔力感知の統合もほぼ済んだんだってな」



 リトはこくりと頷いた。



 二人との手合わせも久しぶりだ。



「今回俺は魔法も使わせてもらう」


「俺は結界もだ。

 おっと今までの姿を消すだけの結界だと思うなよ。タソガレ戦では苦い思いをしたからな。

 魔力感知も、音も匂いも極限まで落とす結界の発明に俺様は成功したのである」


「で、俺たち二人相手に一本取ってみろ」



 そっちのハンデが大きすぎるだろ!



 リトはそう突っ込んだのだが聞き入れてはもらえなかった。






 北へ発つ前リトは姿を消さないままのカティに攻撃を当てるのも手加減していたエドワードから一本取るのもごくまれ、やっとの思いでげていた。


 幾ら手練てだれだらけの黎明の騎士団で叩かれてきたとは言え、夜の巣の二人同時に、しかも本気で掛かって来られたらかなう気がしないのだが。



「さーて俺が消えたら開始の合図な」



 浜辺から離れた木立の中ワクワクと見守るアルとルナを前に二人と向かい合う。



 カティとエドワードって息がぴったりなんだよな……。



 前々から思っていたことではあるがこうして向かい合うとますます不利に思える。



 だがリトも負けてはいられない。親友のアルと妹のルナにかっこ悪い所を見せる訳にはいかないのだ。


 パンパンと頬を叩いて気合いを入れ直す。

 そして姿勢を正して合図を待った。



 サアッと初夏の風が通り抜ける。


 すかさずカティが白いチョークを取り出し自分の周囲に円を描いて姿を消した。リトは魔銃を引き抜き魔力感知を範囲を狭く、集中的に絞って展開した。エドワードが二本の短剣を腰から抜いて駆け寄ってきた。後方の気配を読んで前方に体を倒して地に手を突きエドワードに向かって発砲する。


 すごい……。


 これ程濃密に展開させた魔力感知でもカティの姿を完全に捉えきれない。これはレーゼンの隠蔽魔法と組んだらかなりやばいのでは……。



 カティの簡易結界の精度にリトは感心した。


 エドワードは細かなステップでエネルギー弾を避けるとリトに向かって短剣を振り下ろした。リトは前転しながら銃身ででそれをいなす。

 続け様に前転を繰り返す。その後をエドワードがあらかじめ魔法を仕込んで浮かせていたナイフが次々と地面に突き立った。


 エドワードが魔法を付与してある小型ナイフをばら撒いてリトを取り囲む様に展開させた。

 リトは魔銃を連射し次々とナイフを砕いた。そして二歩下がって姿の見えないカティの攻撃を躱す。回し蹴りでカティを狙うが避けられた。回転した勢いを殺さずすかさず滑り込んできたエドワードの短剣から体を逃しながらカティの退路を断つように弾幕を張る。

 更にもう一回転して蹴り上げエドワードの左手の短剣を弾き飛ばした。


 短剣が手を離れるや否やエドワードが懐に手を伸ばしたが先に発砲し、その手に弾を当て痺れさせた。弾幕を張る。狙い通り飛び退ったエドワードと弾をステップで交わしたカティがぶつかって一瞬動きが止まった。

 リトは思い切り地面を蹴って二人に接近し、エドワードの残りの短剣グリップで弾き跳ばし見えないがいる筈のカティにもう片方の魔銃を突きつけた。






「あークソッ!やられたー」


「見違えたな」



 カティが叫びながら姿を現しエドワードはリトの頭を撫でた。



「マジか!すげー戦いだったぞ!」


「リトすごく格好よかった!」



 アルとルナも駆け寄ってくる。



「あんな高密度広範囲の魔力感知張られちゃせっかくの結界も意味ねーっつーの!」


「俺もまだまだだな。もう追いつかれた」



 リトはふるふると首を振った。



 カティの姿は事実最後まで捉えられなかったし、エドワードが本気であれば単調に当てにくるものでなく、もっと精密に操れるナイフを使っていただろう。


 それに今回はカティが攻めに来ていたから勝てたようなものだ。



 カティの本領は隠密、回避に特化しており攻撃はそれほど得意ではないのだ。

 一本取るという条件下故に攻めざるを得なかったから気配が察知できたしエドワードにぶつからせて動きを止めることができたのだ。



「リトくんは謙虚けんきょだねぇ〜」



 そう言って突如木の上にエルが現れみんなして目が点になった。



「あはは〜昨日今日と僕はヤツラギ隊長と研究所にいる事にして久々の夜の巣を堪能たんのうしていたんだよぉ。

 面白そうな気配を感じてついて来ちゃったんだぁ」



「で、でも、エ゛ル、見えなかっ」



 そう、リトの魔力感知の範囲内だったのに今の今までエルを感じ取れなかった。



「レーゼンさんとねぇ話をして隠蔽魔法を教えてもらったんだぁ。

 それに元々カティとは結界術を発明していたし、今回魔法で応用して組み合わせてみたらこれが中々上手くいったみたいだねぇ」



 エルは木から飛び降りてふにゃふにゃと笑った。



「この人か!?この人が魔法の師匠か!?」



 アルが大興奮する。リトはガクガク揺すられながら頷いた。



「ちぇっエルにも真似されちまったのかよ。せっかく俺だけの十八番おはこだったのに……見せ場も取られちまって台無しだぜ」



 カティがむくれる。



「まあまぁ〜レーゼンさんはこれからも居るんだし、カティも彼の魔法を取り入れればまた変わったモノができるってぇ。

 それにしてもアルくんは杖なしの無詠唱ワンアクション魔法だなんて随分と凄いモノを隠し持ってたねぇ。

 いやぁこれから鍛られるなんて楽しみだなぁ〜」



 エルがカティの頭をくしゃくしゃに撫でながらそう言った。その言葉にアルが歓喜する。



「オレも鍛えてくれるんすか!」


「もちろん。黎明の騎士団預かりって言ったでしょぉ〜。

 君は僕の二番弟子になるねぇ」



 リトはチョン、とアルの方をつついた。



「ぼくが、兄弟子、だ」



 にやっと笑って見せる。



「くっそーオレの方が年上なのに!」


「一カ月゛、ね」



 アルに揺すられながらもリトはニヤニヤと笑い続けた。



「いいなー!私も習いたい!」



 ルナがエルの袖を引っ張る。



「いやぁ切磋琢磨せっさたくまするいい相手ができたねぇ」



 当のエルはのんびりマイペースなままだった。






「うーん。これが、一番しっくりくる……か?」



 アルが矢をもう一度放ち、的のど真ん中に当てながら弓を見つめた。



 アダンマイトとオリハルコン合金製、最高品質の弓だ。



「僕もそれがいいと思うよぉ〜。

 君のワンアクション魔法なら矢の心配もいらないし相性がいい。体術にも組み込みやすい良い選択じゃぁないかなぁ」



 見守っていたエルも同意する。



「でも遠隔しかできないんじゃあ……」


「なんのためのアダンマイト合金だよ。

 バッチリ近接対応じゃねえか。接近戦はそれを防御メインに回して短剣でも持ってりゃ充分だ」


「あだっ」



 アルの不安気な背中をカティがバシンと吹き飛ばす。


 対タソガレ戦の後、夜の巣の武器はアダンマイト合金を使う事が圧倒的に増えた。それによってリトの魔銃やアカツキの魔砲と同様に遠隔武器でも近接戦に対応できるようにしたのだ。



「後は近接での体捌きと短剣の扱いだな。黎明の騎士団でも短剣使いが居るだろう。仕込んでもらって来い」


「エドワードが教えてくれるんじゃないのか?」



 アルはエドワードに教わる気だったようだ。



「もちろんこっちに帰って来たら俺が相手にしてやるが、俺の本領は浮遊ナイフだからな。先に本場で習った方がいいぞ」


「そっか」



 先程の戦いを見ていたからか少し残念そうだった。



「ルナはどうだ?」


「う〜ん」



 ルナはあれやこれや武器を取り上げては振ってみてイマイチしっくりこない様子で戻している。



「増強」のせいか自分の身長ほどもある武器をブンブンと振っているので末恐ろしい。



「これ゛は」



 リトはヤツラギが使うのに似たアームソードを指した。


 握ると手の甲から肘辺りまでを刃が覆う形の武器だ。内側に握り手があり、先端も刃になっている。

 もちろんこれもアダンマイト合金だが先程の様子からしてルナなら大丈夫ではないだろうか。

 デコピン砲とも相性が良さそうだし。



 ルナはアームソードを握ってシュッシュと振ってみた。



「うん!」



 どうやら気に入ったようだ。



「動きやすいしいい感じ!これにする!リト、ありがとう!」



 ルナはにっこりした。

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