第五十五話 エルとメル(下)

 エルの部屋でメルとエルが頭を寄せ合って手を繋いでいる。



「そぅそぅ、メル、そこで魔力を切り離して……」


「むぅ……う……」


「イメージを途切れさせないでぇ。形、範囲、の命令式を構築するんだ」


「んむむむ……」


「今のを繰り返して……魔力を練りながら唱えてみてぇ」


たえなる水よ……我が手より出て宙に留まり、凍てつく風にて丸く拳大に氷結せよ……」



 メルが上に向けた手のひらを凝視する。



「いいかんじぃ。そのまま表に押し出してごらん。

 さぁ、唱えてぇ」


「ッ……アイス!」



 メルが叫んだ。しんとする。二人はメルの掌を見つめるが何も起こらなかった。



「ええ〜なんでぇ!?」



 メルが肩を落とす。



「う〜ん……途中まではちゃんと出来てるのにねぇ……。

 体から出すときにどうしても消えちゃうねぇ〜」



 父親のメルへの評価は無関心から厄介に更に下がっていたが、二人はメルの魔法の特訓を続けていた。メルが続けたがったからだ。


 メルは魔法が大好きなエルの為に魔法をちゃんと使えるようになりたかった。

 この冬メルは他人の体に潜ることがなんとかできるようになったため、一番簡単なファイアーボールから順に試して行ってるのだが、どれも失敗に終わっていた。



「構築は全部できてるのにおかしぃなぁ〜」



 エルがメルから手を離し、リストにチェックを入れる。メルが魔法を練習する時、エルは万が一魔法の暴走事故が起こらないよう、必ずメルに潜って魔力の変化を仔細に観察していた。


 医学方面にもちょっと手を出したエルは他人の魔力をある程度コントロール出来るのだ。魔力の暴走が起きた時はそれを使って止めるつもりだ。



「メル才能ないのかなぁ」


「何かとっかかりがあったら直ぐ出来るようになるよぉ」



 気落ちするメルをエルはのんびりとした声で元気づけた。






 冬の終わり月。イスタルリカ邸内は慌ただしかった。

 王都の中央貴族の来訪、その当日だからだ。


 目的はエルの品定め。イスタルリカ当主は中央貴族に取り入る、そのためにエルを仕込んでいたのだ。


 当のエルは部屋で謹慎を喰らい、魔封じを着けて閉じ込められていた。


 父親からその話を聞かされ、近いうちにメルと引き離される事を知ったエルは猛反発した。魔法を乱発し、机を蹴飛ばし、父親に掴みかかろうとした。


 取り押さえられたエルに父親は言った。


「中央貴族の前でそれをやるならメルヒラの命は無いと思え」と。エルには一番効く言葉だ。


 エルは歯を食いしばり、大人しくする他無かった。


 キィとドアが軋む音がして項垂れていたエルは顔を上げた。メルが素早く部屋に入って来て「しぃー」と口に人差し指を当てた。



「メル……どうやって?」



 エルが問うと、メルはにししと笑った。



「メル、こういうの得意なのよ。走ったり、壁を登ったり、隠れながら家の中を歩き回ったり……スペアキーの在処を知ったり」



 そう言うとジャラリと鍵束を幾つか取り出した」



 エルはメルの能力は魔法を使うより、そのまま身体能力を上げたりする方に向いていると常々思っていたことを思い出した。



「魔封じ外してあげる」



 と一本の鍵を掲げたメルをエルは止めた。



「勝手に外してたらバレちゃうよ。鍵だけ頂戴ちょうだい。何かの時に外せるように」



 エルがそう言うとメルは素直に頷いて鍵束の一つをエルに渡した。



「これ、お父様が持ってる枷の合鍵全部よ」


「ありがとう。僕からもメルに渡すものがあるんだ」



 エルは引き出しから指輪と耳飾りを取り出した。


 同じものをエルは着けている。


 そっとメルの耳に着け、指輪をはめさせる。メルはそれをマジマジと見た。



「僕とメルだけの通信具だよ。話すときは指輪に喋って、耳飾りから声が聞こえるんだよ。

 普通の通信具は耳飾りの音声が外にも聞こえるけどこれは敵味方判別盗み聞き防止の魔法がかけてある石が付いてるんだ。味方であるメルにしか聞こえないよ。

 短い距離でしか使えないけど通信塔を介さないでお話しできるんだ。屋敷の中なら必ずどこでも聞こえるよ。

 それとね、魔力を指輪に込めてみて」



 メルが苦労しながら魔力を込めた。



「これで一ヶ月くらいまでずっと繋がってる。僕のは一週間前テストで通してそのままだから三週間くらいかな。

 僕は今日部屋を出れないことになってるけど何かあったら直ぐ連絡するんだよ」



 とメルの頭を撫でた。メルは嬉しそうに頷くと部屋に入ってからずっと思っていた疑問を口にした。



「エル、今日、メガネどうしたの?」


「それが……今日の朝から見当たらないんだ」



 エルはそう言って眉毛を下げた。






「探して来てあげる」と部屋を出て鍵を閉めたメルは人の気配を読んで避けながらメガネを探した。


 多くの使用人や魔導人形が行き交う邸内を捜索するのは大変で遅々として進まなかった。


 そんな中玄関から外へとコソコソと向かう後ろ姿を見つけた。



「何をしてらっしゃるんですかお兄様?」



 後ろから声をかけるとエルの直ぐ上の兄はびくりと身をすくませたが、振り向くとメルだったため横柄おうへいな態度に戻った。



「ああ、ちょうどよかった。出来損ない。これなんだと思う?」



 と手を掲げて見せた。それはエルの丸メガネだった。



「返して!」



 メルが叫ぶ。兄はケラケラと笑い、手を高く掲げてメルを弄んだ。ちらりと門を見る。



「そんなに欲しけりゃ取ってこいよ!」



 とメガネを思い切り高く、門の方へ放り投げた。


 メルは思い切り駆けて跳躍した。


 バランスを崩しながらもメガネをキャッチし、そしてそのまま落下してドサリと何かに受け止められた。

 目を開けると柔和な顔の男性がメルを抱きとめていた。



「メルヒラ……何をしている?」



 玄関の側に控えていた父親が青筋を立ててこっちを見ていた。



「ご、ごめんなさい!」



 メルは男性に謝った。柔和な顔の男性はメルを地面に下ろすと微笑んだ。



「いいんだよ」


「子供が失礼をいたしまして誠に申し訳ございませんでした。後できつく言いますので……」



 父親が頭を深く下げる。メルはスカートのポケットにメガネを押し込んだ。



「気にしなくてもいい。子供のしたことだ」



 男性は父親に頭を上げるように言った。メルの前に屈み込む。



「君は……ふむ、魔力が高いんだね。エルリム君の妹かな?」



 メルは男性がエルを知っていることに驚いた。



「おじ様はエルリムお兄様の事を知ってるの?」


「ああ、今日はエルリム君に会いに来たんだよ」


「なんのために?」



 メルの胸に不安が過った。



「王都に連れて行くのに相応ふさわしいか見るためだよ」



 メルの目の前が真っ暗になった。






 ピキと足元から微かな音がする。



「……かないで……」


「ん?」



 メルの微かな声に男性が聞き返す。



「お願い……エルリムお兄様を連れてかないで」


「いや、それは多分無理なお願いだな」



 男性はすげなく断った。メルの胸中に絶望が渦巻く。



「じゃあイスタルリカ君、案内を頼むよ」



 男性は無情に体の向きを変え、父親に向き直った。玄関に向かって歩き出す。



「お願い……お願い……!エルを連れてかないで……!やめて……やめて!!!」



 瞬間、地面が凍りついた。ビキビキと音を立てて庭が、木が、門が、地面が分厚い氷に包まれる。


 玄関に足をかけようとしていた男性の足も凍りついた。メルが悲鳴を上げた。



『メル!メル!!落ち着くんだ!!!魔法を使っちゃいけない!!!』



 異変を感じ取ったエルがメルに必死に呼びかける。



「だめ!止まらないの!!」



 パキン、パキンと音を立てて氷は物凄い速さでさらに厚さを増し、砕けながら広がっていく。男性は既に顔の一部まで凍り付いている。男性の頬がピシッと微かに割れて血が滲んだ。


 その時、メルが押し倒された。


 氷が一瞬で溶けて消える父親が凍りつきながら枷をメルに嵌めたからだ。



「このっ!!!なんと言う事を!!!」



 と父親はメルを拳で殴りつけた。



「魔力の暴走……か……」



 男性がメルの頭元に立った。頬から血を流し、柔和な笑顔はそのままに、薄く開いた目は底冷えがする程冷たい。


 ポタリ、と服に血が落ちる。


 男性はハンカチを取り出して頬の血を拭った。



「今日は帰るよ。服が汚れてしまったからね」


「申し訳ございません!!誠に!誠に申し訳ございません!!!

 どうか……どうか挽回の機会をお与え下さい!!」



 父親がメルから離れて土下座した。メルは地面に倒れたまま呆然としている。



「ふむ……反省を行動で示してもらおうか。

 そうだな……君が報告に上げていた新魔法。あれの成果を見せてもらおうか。

 ちょうどいい素材もいるし、あの方もお喜びになる」



 男性の視線はじっとメルに注がれた。



「はっ!直ぐに!!」



 父親が直ぐに使用人に指示を出し男性を中へ案内した。メルは引きずられるようにして連れて行かれた。



「メル!!!」



 玄関ホールに一行が入って、男性が着替えと手当のために案内されて行った後、エルが階段を駆け下りてきた。



「なぜ部屋から出ている!!!」



 父親が怒鳴りつけるがエルは無視して杖を振った。炎の柱がメルを引きずっていた魔導人形に命中する。


 魔導人形が壊れて崩れ落ちるとエルはメルの周りに風の壁を張った。


 続けて杖を振って雷の矢を放つ。杖を取り出した父親がそれを風の壁で防いだ。壁に紫電が散る。


 父親は風の壁を張ったまま音速の風の刃を放った。エルはギリギリで転がって避けた。頬が切れて血が流れ出る。



「ウォーター!」



 転がりながら杖を振り叫ぶ。辺りにどっと水が溢れてエルとメルを除いた全てが水浸しになる。



「エレクトロ!!」


「ウィンド」



 エルの呪文に被せるように父親が唱えた。風が四角く空間を切り取る。一拍遅れてエルを中心に黄色い火花が駆け巡った。


 立ち上がったエルに再び風の刃が襲いかかった。エルが跳んで避けた瞬間氷の矢が現れてエルを取り巻いた。



「シールド!」



 四方八方から放たれた矢を咄嗟に防ぐ。

 盾に逸らされた矢が当たる先から床が凍りつき、エルは足を滑らせた。


 体勢を崩したエルに矢が降り注ぐ。


 気がついた時にはエルは服を床に縫い止められて身動き出来なくなっていた。父親がコツコツと足音を響かせて近づいてきてエルから杖をもぎ取った。



「返せ!!」



 エルは藻搔いたが敢えなく使用人と魔導人形に押さえつけられた。腕に枷が嵌められる。父親はそれを見届けて氷を消した。



「離せ!!メル!しっかりしろ!!」


「エ、エル……」



 メルがようやく我に返った。



「連れていけ。部屋の扉を溶接して閉じこめろ」



 怒りの滲んだ低い声で命じてエルの杖を側に控えていた家令に渡す。家令はポーチに杖を仕舞った。



「それと地下に何人か例の術を扱える奴を寄越せ」



 父親はメルを引きずる使用人と魔導人形を連れて歩いて行った。



「くそっ!離せっ!!離せーーーーっ!!!」



 部屋へと運ばれて行くエルの声が虚しく響いた。






 枷をつけられたまま部屋のベッドの柱に括り付けられたエルは通信具に耳を澄ませた。


 今は足音の響く音しか聞こえない。


 足を全力で伸ばして机を引き寄せ、上に置いてあったナイフを取った。縄を切って魔封じの鍵を外しすぐにドアに飛びついたがすでに開かなくなっていた。



「くそっ!地を焼く業火よ我が手中より出でて扉を破壊せよ!灼熱の業火!!」



 素早く唱えて炎の柱を扉にぶつけたが炎が消えても扉は無傷だった。エルの部屋は対魔法仕様だからだ。



 メルが新魔法の実験台にされようとしている。きっと禄なものではない。



 エルは辺りを見回した。ふと、秋の中月の誕生日に贈られた二体の魔導人形が目に入る。


 父親から贈られた物など使う気になれず、起動しないまま放置していたのだ。


 魔導人形の扱い方、起動方法、仕組みなどは全て頭に入っている。


 エルは紙に走り書きを始めた。






「ナクリエレイジ!!」



 エルが最後の一節を叫ぶと魔導人形周辺にバリバリという激しい紫電が走った。魔力を大きく消費した感覚があるが、まだ余裕がある。


 魔導人形はカッと目を見開き、ビクビクと痙攣しながら動き出した。



 良かった……成功だ。



 エルはそれを邪魔しないように壁際に張り付いた。腰には必要なものを入れたポーチが着いている。


 その時、通信具が音を拾った。



『ね、ねぇ……何をするの?』



 魔導人形が壁をぶち破った。エルはその穴から飛び出した。



 魔力感知を最大まで上げて視界を補いながら自分の暴走させた魔導人形以外の動くものを片端から炎撃や雷撃で倒して屋敷中を駆け抜ける。



『記憶を破壊する。完全に消去するんだ。心配いらない。どうせ何も分からなくなる』



 途中通りかかった部屋を確認しては杖を探し回る。



 キリがない。時間もない。



『エ、エル……エル!こわい……たすけて……!』



 怯えたメルの声。



「待ってろメル。直ぐに行く!」



 焦る思いを押し殺しエルは答えた。

 少し考えて地下室から然程離れていない部屋に駆け入り、部屋に出来うる限り最大の防御力を上げる魔法を掛けた。


 扉を少し開けて手を突き出す。



「疾風よ業炎と渦巻き集約せよ!眼前一帯を吹き飛ばせ!」



 魔力が高まり、エルの服がはためく。



「轟爆裂破」



 エルの手の先に人の頭の大きさ位の白い炎が現れ、旋風によって小指の爪程に収縮し、放たれる。エルはドアを閉め、床に伏せて耳を塞いで口を開けた。


 次の瞬間、鼓膜を突き破るような轟音と天地がひっくり返るような衝撃が屋敷中を揺るがした。


 耳がガンガン鳴る中、辛うじて通信具から父親の声を拾う。



『……少し様子を見て参ります。少々お待ちを。

 行け。それと、準備が出来次第取り掛かれ』



 エルは衝撃の余波によろめきながら半壊した部屋から出た。

 部屋の外は地下へ続く階段を残して大きく吹き飛んでいた。残された壁や屋根が巨大な瓦礫と化して崩れ落ちてくる。


 エルは瓦礫の山に身を潜めて地下の入り口を見つめて素早く呪文を唱え始めた。



「業炎よ疾風と混ざり合い雷と化して地下室の入り口一帯に降り注げ」



 階段から家令を先頭に騎士が数名、魔導人形と共に飛び出してくる。



「ボルト!!!」


『いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』



 エルの呪文と同時にメルの絶叫が通信具から響き渡り、地下室の入り口周辺を雷が埋め尽くした。






「っメル!!?」



 眩い光に目を細め、衝撃に耐えながら通信具に向かって叫ぶ。


 答えはない。


 返ってくるのは苦痛に満ちたメルの悲鳴だけだ。



『あうああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


「メル!!!くそっ!!!」



 メルの悶え苦しむ声がエルの耳を貫く。

 エルは感電して身動きの取れない家令に駆け寄り、ポーチから杖を取り返した。



『どうした?何かあったのか?』



 家令の通信具から父親の声が聞こえた。エルは家令達を飛び越えて地下の入り口に飛び込んだ。



『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああううううううう!!!!!」



 一足に跳んで踊り場まで降りる。メルの苦悶する声が通信具から鳴り響いた。


 階段を跳んで着地の前に杖を振る。突然降って湧いたエルに対応出来ない魔導人形を雷の矢でガラクタに変えた。扉に飛びつく。


 開かない。



『あうぁ…………』



 突如メルの叫びがぷつりと切れた。



「ぶち壊せっ!!!!!」



 エルは感情によって膨れ上がった魔力に任せて碌な呪文も唱えずに雷を纏った炎の柱で入り口周辺を吹き飛ばした。


 魔法耐性のある扉と周辺の壁が吹き飛ぶ。時間が緩やかに感じる程瞬きの間にメルの姿が目に入る。杖を二度振って叫んだ。



「迅雷轟落!!!!!」



 轟雷が地下室を埋め尽くした。



「メル!!!」



 杖の一振りでメルを球体状に包んでいた風の魔法を消し去りながら駆け寄った。倒れ伏していたメルを抱き起こす。



「メル!メル!!」



 エルの呼びかけに返事はない。



「エル……リ、ム……貴、様……!」



 形も残さない筈の雷撃を感電だけで済ませたのは流石と言うべきか。



 父親が僅かに身動ぎしてエルを睨みつけた。側には男性が一人倒れ伏していた。エルはそれらを一瞥してメルに向き直った。


 メルの体は糸の切れた人形のようにだらりと力が抜け失禁した跡もある。

 涙に濡れた目は見開かれたまま虚空を見つめて動かない。


 エルはメルの胸に耳を当てた。


 動いている。死んだわけではない。



「メル!!!」



 肩を揺すって頬を叩く。


 メルの首がグラグラと揺れた。口からツゥとよだれが伝たう



 一体何をされたんだろう。



 小さな体を抱きしめる。


 エルは涙を堪えて杖を握りしめると宙に光る文字を刻み始めた。


 エルが秘密裏に研究を進め、いつかメルと二人で使ってここから逃げ出すためにために考えていた魔法。


 足元に光る線を引いていく。


 全人類が昔から求めて止まないが、そのほとんどが危険を伴い失敗に終わっている魔法。


 複雑な術式と図形を描き上げた。光が二人を取り巻き、螺旋を描いていく。


 バタバタと階段から足音が聞こえた。上階から多数の騎士や魔法使いが現れた。魔法使いが杖を振る前にエルは呪文を唱え終えていた。



「テレポーテーション」



 瞬間、取り巻いていた術式が眩く光り、二人の姿は描き消えた。






 ——「その後僕らはチルズウルフの巣のど真ん中。

 吹雪のノーゼンブルグ地方に放り出された。そこをアカツキに拾われて、オルガにメルを治療してもらいながら二年間、夜の巣で過ごしたんだ。


 その頃の夜の巣は子供は多いわ、大人組はほとんど出稼ぎに出てるわ、空間は狭いわでてんやわんやだったよ。


 因みにしばらくしてからだけどまたテレポートレーションが使えないか実験したけど今に至るまで発動すら出来てない。


 子供達に混じって遊んだり、勉強を教えたりして過ごした夜の巣での日々は僕に癒しを与えてくれた。


 夜の巣のために僕が出来る事を探してた時ヴィルヘム様から研究所に来ないかって話を受けて行くことにしたんだ。


 治療を終えたメルを連れてね。メルは脳全体にダメージを受けて生命維持機能以外全てを停止した状態だったんだ。それをオルガが治してくれた。


 夜の巣を出て一ヶ月くらい団長の護衛、家事付きで過ごした後メルが意識を取り戻した。オルガの予測通り記憶は全て失って、赤ん坊と同じように話すことも、食べることも、立つこともなにもかも一からのスタートだった。


 意識を取り戻してからのメルの成長スピードは目覚ましかったよ。あっという間に一通りの知識を身に付けて、団長に稽古を付けてもらうようになるくらいに。メルが十五歳の時に騎士団に入って今に至るって感じかな。


 迷ったけどメルには記憶と夜の巣の事は秘密にする事にしたんだ。メルは隠し事が下手だから。


 伸び伸びと明るく表の道を歩いて欲しいと思って」



 そう言ってエルは話を終えた。


 リトは何も言わずに泣いていた。エルの気持ちを思うとたまらなかった。


 エルはいつものようにふにゃりと顔を崩してリトの涙を拭った。



「君は優しいねぇ。

 でも今、僕らは一緒に居られて、美味しいもの食べて、笑って自由に喋って……メルは知らないけど沢山の家族に見守られてる。

 これ以上ない程幸せなんだよぉ」



 リトは涙を流しながらコクリと頷いた。






 ====================


 お読みくださりありがとうございます。

 これにて第三章完結です。


 エルとメルの過去は作者も書いていて辛いものがありました。

 今、二人は幸せです。メルが秘密を知るのはもう少し先の事……。



 物語はまだ続きます。



 第四章は通常運転をしつつ終盤物語が大きく動き出します。


 アカツキの秘密、教会の真の目的、そして黒幕の存在……。


 どうぞこれからもお楽しみください。



 そしてまずは感謝を。

 いつも応援や、応援コメント、評価などありがとうございます!

 とても力になっております!


 次にちょっとしたお願いを。

「面白いな」、「続きが気になるな」と思ったらフォローや評価、レビューを書いていただけると大変嬉しく思います!

 できるだけたくさんの人にこの物語を読んで欲しいと思っておりますのでどうかお願いいたします┏○ペコ

 モチベにも直結しますのでコメントも時折でもよろしいのでいただけると幸せます(* ˊ꒳ˋ*)



 では第四章を引き続きお楽しみください。

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