第四十六話 リトの休日
日頃早起きのリトも休日は遅い。
目を覚ますとすでに日が高く、時計を見るともうお昼だった。
前はこんな事なかったのにな。
ベッドの上で体を起こして、大きく伸びをする。
ノーゼンブルグに来てからと言うものリトはよく食べ、よく寝るようになった。
魔法を使うようになったからだろうか。
ベッドから降りて机の上から定規と鉛筆を取った。壁に立つ。
背をつけて頭にまっすぐになるように定規を当てて、鉛筆で印をつけた。前回付けた印と比べる。
こんなに食べて寝てるのに一センチも変わらないなんて……詐欺だ。
ちなみに体重も増えてない。
そんな事を考えながら顔を洗って服を着替える。いつかアカツキの身長に並ぶのがリトの目標である。
少し寒いため暖房を付けるか悩んだが、どうせすぐ出るのでやめた。
リトはここに来てからの休日をほぼほぼ街中を練り歩くのに使っていた。
夜の巣に帰りたい気持ちもあるが、物を調達するのに必要な店や、道などのマッピングは急務だ。
オルガの変装薬を飲み、とりあえず朝食兼昼食を摂ってしまおうと食品店から卵を取り出した所で玄関のドアがノックされた。
「突撃隣の朝ごはん〜」
ドアを開けるとエルとメルがいた。
「もうお昼ですよ」
「隣でもないしね」
リトとメルがツッコミを入れる。
「どうしてここに?」
二人を招き入れながらリトが尋ねる。
「前レノを送ったことがあるでしょ?
だいぶ前にそれを話したんだけど、そしたらエルが今日行きたいって言って聞かなくて……。
部屋がわからなかったら諦めようって言ってたのに、前で大家さんらしき人と会っちゃったのよね」
メルがため息をつく。リトはとりあえず二人にお茶を淹れた。
「ここの前で掃除してらしたんだぁ。レノくんの友達だって言ったら心よぉく教えてくれたよぉ」
エルは早速嬉しそうにお茶に手を伸ばした。
「朝ごはんて言ったって本当に簡単なものしかないですよ?」
と言いながら卵を後二つ取り出した。
「ほんとに作ってくれるのぉ?嬉しいなぁ〜」
エルが手を叩いて喜んだ。
「あたし達っていつもは朝ご飯食べれないのよね。どっちも料理できないし、エルが遅いから」
メルも嬉しそうだ。
どうしよう本当に大したものがないのだが……。
「「何が出ても文句言いません」」
二人が余りにも真剣な顔をするので、リトは精一杯心を込めて目玉焼きを焼くことにした。
トーストの上にベーコンを敷いた半熟の目玉焼きを乗せていく。目玉焼きのトッピングはチーズと胡椒だ。
冷蔵棚から作り置きのドレッシングと適当な野菜を取り出して千切って器に盛った。
「手慣れてるわね」
「プロだよぉプロ!」
ひそひそと囁き合う二人がなんだかおかしかった。
「お待たせしました。心は込めました」
三人分の朝食を並べる。
テーブルが小さいのでキュウキュウだ。椅子はなんとか足りたが、皿はあった物をかき集めたからバラバラだし、なんと言ってもリトは目玉焼きが二人の口に合うかドキドキしだした。
皆んなで狭い食卓を囲んで手を合わせた。
「「「いただきます」」」
エルとメルが目玉焼きトーストに齧り付く。リトはそれを緊張の面持ちで見つめた。
「んんーーー!!!」
「お〜いしぃ〜!!レノくんお店開けるんじゃない?お店!」
二人の反応は劇的だった。
「お口に合ってよかったです」
リトはにっこりした。
「口に合うってもんじゃないわよ!何があってこんなに目玉焼きが美味しいの!?」
「レノくん料理上手なんだぁ。天才だよぉ!
団長にも負けないよぉ!」
二人は揃って猫目を細めながら絶賛した。
いつもは浮かべる表情が違いすぎて分からないが、こうして見てると二人の顔はそっくりだった。
微笑ましく思いながらリトも目玉焼きトーストを齧った。
「団長って?」
リトが問うと二人は顔を見合わせた。同時にこちらに向き直ると話しだした。トーストからは手を離さない。
「僕らはねぇ僕が十二歳の時に路頭に迷ってヨイヤミに助けられた後、ヴィルヘム様に僕の魔法の才能を見込まれて保護してもらったんだよぉ」
「で、その時からエルが成人するまでのお守り兼護衛をしてくれたのが団長なのよ」
「団長あれで意外と
そう言うと二人は再び目玉焼きトーストに集中した。リトはヤツラギの意外な一面を知った。
「ああ、美味しかったぁ。ごちそうさま」
サラダも綺麗に食べたエルがぺろりと指を舐める。一足先に食べ終えてお茶を飲んでたメルも
「本当に美味しかったわ。ありがとう」
と改めて礼を言うとにこっと笑った。
「そんなに喜んでもらえるなんて
二人にお茶のおかわりを注ぎながらリトも笑顔を返した。
「レノくんはお祖父さんと暮らしてた時からお料理してたのぉ?」
「はい。祖父は人に作ってもらったものを食べたがってたので……。
簡単に作れるものだけですが……」
リトの祖父は祖母が作った料理が大好きで自分でも出来るのに必ず作ってもらっていたらしい。
リトが幼い頃は祖父が作ってくれたりもしたが実は人が作る料理を恋しがっていたのだ。
それを知ってからリトは解呪の魔法の研究で自分の食事は忘れても祖父の食事は作っていた。
「へぇー偉いわね」
「素晴らしい才能をお祖父さんは開花させちゃったんだねぇ〜」
メルとエルは関心したように言った。
「さて、と。本題に入ろうかなぁ」
「朝ごはん食べに来たんじゃないんですか?」
エルが話を切り出すとリトは驚いた。
「あはは違うよぉ〜。僕らはね、レノくんに街を案内しようと思って来たんだ」
リトは更に驚いた。リトがマッピングに苦労しているのをどうして知っているのか。
「ほらレノくん引っ越して間もないでしょぉ?
落ち着いてきたら案内しようと思って待ってたんだよぉ。あ、今更だけど今日予定あった?」
リトは首を振った。
「ちょうど色々調べてるとこだったので助かりました。よろしくお願いします」
「そっかぁちょうどナイスタイミングだったんだねぇ。
よかったよかった。じゃぁ行こっかぁ」
そう言ってエルはお茶を飲み干した。
三人で連れ立って通りを歩く。
「あ、ここの路地にちょっと入ってぇ」
狭い路地に縦に並んで入る。少し進むとドアの横に小さな看板が見えた。
「ここはねぇ、ちょっと穴場の薬草屋さんだよぉ。変わった薬の材料が売ってあるんだ。
こぉんにちはぁ〜」
エルは説明すると中に入っていった。リトも後に続く。
薄暗い店内に入ると薬草の匂いに包まれた。
「トーヤさん、こちら僕の可愛い可愛い
エルの言葉に細長いキセルを吹かしていたトーヤが顔を上げる。小さな丸サングラスを掛けていて目は見えない。
「ふぅんエルの弟子ねぇ……」
「レノです。よろしくお願いします」
頭を下げたリトにトーヤはふぅーと煙を吹きかけた。
「……よろしくな」
店から出るとエルがふにゃりと笑った。
「いやぁよかったねぇ。トーヤさんレノくんのこと気に入ったみたい」
「あれで?」
メルが思わずといった感じで聞く。リトも同感だった。
「そうだよぉ。トーヤさん気に入った人に自分のキセルの煙吹きかけるんだ。あの人は体にいい薬草を吹かしてるからねぇ」
そうだったのか。
「じゃぁ次はこっちいくわよ」
メルがそう言って元の通りに出る。
「こっちの四番通りに出るの」
と路地に入って別の通りへ出る。
「この通りは食品を扱う店が固まってるわ。ほら、あそこ」
と通り向かいを示す。
「あれが肉屋よ。グラム単位で買えるわ。言ったら卵も売ってくれるのよ。
こっちは八百屋。市場で野菜仕入れて売ってくれてるから、朝、遠い市場まで行かなくていいわ」
すぐ横にあった軒先にひさしのついた店にはイキイキとした野菜が並んでいた。
「ちょっとこっち」
と少し広めの路地に入る少し進むと両開きの扉が大きく開け放たれた店があった。
「ここは装備品を置いてるわ。レジスタブルの革鎧とかね。
ここの防具は性能がかなりいいわよ。あたしも使ってるし、ちょっと値が張るけど、買うことをおすすめするわ」
レジスタブルとはブラッドブルの上位種で、肉は極上の味、骨はスープに、角は薬に余すとこなく使える魔物だ。
その中でも特に革は、衝撃吸収、斬撃耐性、魔法耐性を備える優れものだ。当然狩るのも大変なので値段は高い。
リトはここも脳内マップにメモをした。
「こっちこっちぃ〜」
とエルが手招きする。しばらく着いて進むと小さな看板の店の前にでた。
「ここはねぇ、中古の家具屋さんだよぉ。
レノくんの部屋、本棚以外最低限の物しか無かったでしょぉ?
裏にね、大きく開く扉があるから運び出すのも楽なんだ。大きな荷車も貸してもらえるしねぇ」
「あ、ここの隣は一見店に見えないけど魔法薬を売ってるわ。ポーションから汚れ落としまで。効くわよ。」
とこんな調子で次々に案内してくれてリトの生活圏内脳内マップはあっという間に埋まっていった。
「さて、今日はこれぐらいかなぁ。暗くなって来ちゃったから残りはまた今度ねぇ。
ちょっと詰め詰めで説明したし、分かんなくなっちゃったらまた聞いてね」
「二人ともありがとうございます」
エルとメルがにっこりする。
「お礼はまた今度ご飯食べさせてくれたら……ってあたぁっ」
エルがうんうんと頷きながら言うとメルに頭を叩かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます