第18話
それにしても、今回は土俵の大きさはどれだけ必要だろうか。ガンギランの大きさだけ見ればザランと変わらないけれど、二足歩行だから縦に大きい。
とりあえず、山の斜面が削れて平らになっているところを全部覆うように結界を張った。高さは過去最大で三十メートルくらいはある。
「えええ、ちょっと待ってよ?!」
ガンギラン以外の巨人はさっさと歩いて土俵から出ていく。巨人の足なら数歩だが、俺の一張羅から飛び出したルビィは背中に羽を生やして飛んでいく。広いから土俵外に出るだけで一苦労だ。それにしても、アイツ飛べるくせに今まで鳥や俺に乗っかって移動していたのか。
「よーし、どっからでもかかってこい!」
俺は全員が土俵の外に出たことを確認してから構えた。型も何もないけれど、結局は足を開いて腰を落とす相撲らしい構えが一番迎え撃ちやすい。
流石に巨人が相手だと無防備ではいられない。ただ殴られただけでも身体がバラバラになりそうだ。でも、これはガンギランの実力を見るための勝負でもあるから、先手は打たない。俺は魔王なのでいつだって胸を貸す方なのだ。
ガンギランは相撲なんて初めて知ったはずなのに、本当に相撲を始める時のように腰を落として地面に手を付いた。
しかし、そこから動き出すのではなく、ガンギランの両手が地面に触れた瞬間、俺の足元から巨大な岩が生えてきた。
「土魔法か!!」
あっと今に俺の足元は鋭く尖った岩で覆われる。しかもそれがぐんぐん伸びてくるから、俺は空中に跳び上がって逃げるしかない。
想定外のスピードだ。巨人の外見から重さは警戒していたが、速さはまったく危険視していなかった。ガンギラン自身が動いていないところを見るに、おそらく速く動くことはできないのだろうが、それを魔法で補ってきたらしい。
だが、ガンギランの覇気のない表情を見ると、面倒臭いから動かず決着を付けようとしている節もありそうだ。
「こなくそっ……」
魔王相手にそんな横着はさせてやらん。
このまま逃げるだけでは質量で土俵の外へと押しやられてしまうから、俺は伸びてきた岩の棘の一本に降り立って、今しがた覚えた土魔法を早速使ってみた。
俺の方にばかり伸びていた岩が、一気にガンギランの方へも伸びていく。やっぱりあいつは横着していたようで、一歩も動かず岩壁を作って回避しようとしたが、想定が甘い。
「なにっ?!」
ガンギランが自分を守るために作った岩壁が、ガンギランの横面を殴るように伸びた。
俺はただ土魔法を使ったのではない。ガンギランの魔法を乗っ取って岩を操ったのだ。
だから、土魔法で出した岩壁で身を守ろうとしたガンギランの回避行動は悪手でしかない。
「どんなもんだい」
相手の魔法を俺のものにして利用する魔法、オーガたちとの相撲三昧の中で編み出した技だが、どうやらこれは俺しか使えない魔法らしい。
魔法オタクの黒魔導士たちが大興奮していたが、魔法とは使用者固有の術式になるため、例え自然魔力を利用していようと、同じ魔法を使えようと、発動した時点で他者が介入することはできないという。
でも、俺は世界の理を知る魔王なので、誰の魔力も操れるし、誰の魔法にも介入できるのだ。つくづくチート過ぎるとは思う。
ただ、他人の魔法は解析に時間がかかるから、誰でもすぐさま乗っ取れるわけじゃない。あと、光魔法だけは俺の埒外だから乗っ取れないと思う。魔界に光魔法の使い手がいないからまだわからないけど。
そんなわけで、自分を守るために出した岩壁にぶん殴られたガンギランは、俺の目論見通り土俵の外まで吹っ飛んでいった。
ドゴーンと尋常じゃない轟音と共にガンギランがぶつかった山肌が崩れる。土魔法で大岩を生やした土俵内も、水平だった地面がボコボコの切り立った岩場になっている。
巨人との相撲は地形が変わるから今後は控えよう。俺は一つ学んだ。
「俺の勝ちだな」
胸を張る俺に対して、ガンギランは土砂の中から立ち上がった。大きさからして頑丈さも信頼していたが、自分と同じくらいの大岩と衝突したというのに、ガンギランはほぼ無傷だった。ただ、立って埃を払うだけで土砂崩れが起こるように岩と土が舞い上がっている。
これ特に安全対策もなく相撲を初めてしまったが、もしかして、山の麓の方まで被害が及んでいるのではないだろうか。
俺は今更ながら心配になったが、谷底を見下ろしても遥か下過ぎて麓は見えないし、どうせいたとしても魔物だ。土石流で死ぬなら、もうそれは寿命だったということだ。
俺が念の為谷底に向かって合掌していると、ずっしーんと大地が揺れて俺の身体は一瞬浮いた。
よろめきながら振り返れば、ガンギランが膝を付いていた。跪くだけでも大地が揺れるのだから、巨人族が大人しい性格になるのは道理だったのだろう。
「わかった、俺たちは魔王に従う」
ガンギランは潔く負けを認めた。反抗するのが面倒臭いだけかもしれないが、オーガたちみたいに次から次へと勝負を挑んでくる巨人もいない。
巨人たち全員を相手にしていたら山がいくつも崩壊しそうだからよかった。俺は両腕を振り上げて勝利を宣言したが、相変わらず巨人たちの反応は薄かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます