第3話 知らない人

 ソニーとマックスは、今日も朝から日課である2軒に行き、今はドーナツを食べた後なのでご機嫌だ。


 最近の寒さから、いつもの修道院の白いチュニック型の服の上に、同じような茶色いチュニック型の服を重ね着し、さらにその上から裾まであるフード付きの外套をすっぽり被り、ソニーとマックスは、よたよたと空の籠を持って歩いていた。


 そのスミス家からの帰り道、森の中で悲鳴を聞いた。


「お兄ちゃん、何?」

 マックスが、しがみついて来た。


「静かに!」

 ソニーは、急いで道をそれ、森の中に入って身を屈めた。


 ブラザーキンブルから、最近、物騒なので危険を感じたら森に隠れて、その場をやり過ごすように言われていた。


「お兄ちゃん、怖い……。」

 マックスが、抱きついて来た重さに負け、ソニーは膝をついてマックス共々地べたに倒れ込んだ。


 男達の怒号のような声が、少し遠くで聞こえる。


「マックス、少し遠いみたいだから、ここで静かにしてよう。」

 ソニーは、マックスを抱きしめたまま地べたに座り込んだ。

 マックスは、耳を塞いでいる。


 誰かが走って来る。


 ソニーは、木の葉の間から道を覗いてみた。


 女の子が走って来る。ひとりで。


「こっち!」

 ソニーは、木の葉の間から頭を出した。


 彼女は、小さく叫んだが、すぐにソニー達のところに、飛び込むように倒れ込んで来た。




 馬に乗った男達が通り過ぎていった。


 しかし、すぐさま馬の嘶きが響き渡り、先ほど通った男達が戻って来て、ソニー達が隠れている直ぐ側で、馬に乗ったまま辺りを見回している。



「どこへ行った!子供なら、そんなに遠くに行ってないはずだ。」

 男の怒号に、ソニー達は、慌てて身を縮めて3人で固まった。



 鋭い、空気を切り裂くような音が聞こえ、馬に乗った男がひとり、地面に倒れ込んだ。


 ソニーは、思わず小さな悲鳴を上げた。


 馬に乗った男達が、次々に地面に倒れ込んだ。

 皆、矢が刺さって倒れている。



 また、誰かが走って来る。


 ソニーは、泣きそうだった。

 マックスは、寝ているかのように耳を塞いでソニーに顔を押し付けていて、女の子も、ソニーにしがみついていた。


「リリィ!」

 走って来る男が、叫んでいる。


「トーマス!」

 女の子が、急に顔を上げ走って行く。

 ソニーが、木の葉の間から見ると、女の子は、数人の人達に囲まれていた。


 大丈夫なんだろうか?

 ソニーは、そのまま静かに見ていた。



 女の子が、ソニー達がいる方を指差している。


 女の子が走って来た。


「ありがとう。もう大丈夫よ。」

 女の子の声に、ソニーはやっと安堵の息を吐いた。

 良く見ると、女の子は高そうな服を着ていた。


 ……追い剥ぎだろうか。


 ソニーは、マックスの手を耳から外させた。


「お兄ちゃん、もう大丈夫?」

 マックスは、愚図るようにソニーにしがみついて立ち上がった。

 知らない人達に、マックスは怖がってソニーの後ろに隠れた。


「修道院の子か、良く頑張ったな。」

 男は、大きな声で話しかけ、同じように大きな手でソニーの頭を撫でた。

 ガタイの良い中年の男だった。


「追い剥ぎ?」

 ソニーは、何が起きたのか聞いた。


「……まぁ、そんなとこだな。」

 男は、何か歯切れの悪い答えをして、それ以上の話しを拒むように、修道院まで送ろうと言い出した。



 ソニーとマックスは、初めて馬に乗った。

 女の子は、リリィと言い、ソニーの頭を撫でた男は、トーマス・リープと言った。



 トーマス・リープの馬に乗せてもらい、ふたりは上機嫌で修道院に着いた。

 ブラザーキンブルが走って来て、ソニーとマックスを馬から降ろしてくれた。


「ソニー、マックス、ふたりとも怪我は無いか?」


「うん、大丈夫だよ。」

「大丈夫だよ。」

 ふたりとも、馬に乗せてもらったことで、さっきまでの恐怖を忘れてしまったようだった。


 ブラザーキンブルは、ほっとしてふたりの頭を撫でた。

 修道院では、この町の警備をする者から、追い剥ぎが出たとすでに話しを聞いていたので、大勢の者達がソニーとマックスの無事を喜んだ。


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