第6話 笑う人
ソニーとマックスは、台所でミートパイを頂いている。
ブラザーキンブルとスミス家の奥様は、居間で話し中だ。
スミス家の奥様は、酷く疲れている顔をしていた。
「何だか、深刻そうな雰囲気だな。」
ソニーは、心配そうな言葉とは裏腹に顔を綻ばせてミートパイを食べている。
修道院では、肉料理は出ない。
ただ、食べては駄目とはされていない、特別な時の特別な料理だった。
「お前達、重いけど帰りに葡萄を持っていきな。奥様から用意しとくように言われたからね。……先にちょっと食べて行くなら裏の貯蔵庫にあるから、一房持ってきな。」
台所を任されているサマンサおばさんに言われるとソニーとマックスは、急いで勝手口から出て行った。
「今日は、子供だけじゃなく、修道士が来てる。あの俗世から修道院に入った変わり者だ。」
男の声に、ソニーとマックスはびっくりしたが、二人共、ミートパイを口いっぱいに放り込んで来たので叫ぶ事無く建物の陰に隠れられた。
「お祖母様ったら、何を話しているのかしら。まさか私達の事、気が付いたんじゃないかしら?」
二人の声は知っていた。奥様の孫達だ。
「気が付くもんか、もうすぐ、みんなが集結する。俺達がリシャール王の時代を終わらせるんだ。そしたら俺はあの人の側近、お前は、あの人の息子の嫁だ。こんな田舎さっさと出て行ける。……しかし、昨日の夜には、同士達が来る予定だったのに、まだ着かないのか!」
女は、ベラベラと大きな声で話すなと怒りながら、ソニーとマックスが隠れている場所から遠ざかって行く。
男もまた謝りながら、女の後を追って、二人は見えなくなった。
ソニーとマックスは、やっと葡萄を取りに行けると静かに貯蔵庫に入った。
帰り道、ブラザーキンブルは、スミス家の奥様の話しを考えながら歩いていた。
「ふたり共、ここからなら先に修道院に戻れるな?私は、ちょっとスミス家の奥様に頼まれた用があるから町に寄っていく。」
ソニーとマックスは、お腹がいっぱいなので満足そうに頷いた。
「スミス家の奥様の用って何だろうね。」
ソニーは、葡萄が入った籠を抱えながら、ブラザーキンブルの事を考えた。
「ブラザーキンブルとスミス家の奥様のことは、ブラザーカーチスには言わないほうがいいね。また、素っ頓狂な声をあげるぞ。」
二人は、ブラザーカーチスの素っ頓狂な声を真似して大笑いした。
「でも、何であんな声を出したのかな?スミス家の奥様と、仲良く話しているのを見て、誰かがブラザーキンブルは、沢山の女を知っているって言っただけなのに。」
ソニーが、不思議そうに呟く。
「僕も沢山女の人を知っているよ。」
マックスが、手を広げた。
「僕だって知っているさ!宿泊施設にいる女の人は、みんな知っている。」
ソニーも負けじと手を広げた。
「男の人を知っていると言っても、素っ頓狂な声を出すのかな?」
ソニーとマックスは、またブラザーカーチスの素っ頓狂な声を真似して大笑いしていた。
二人は、スミス家の貯蔵庫の前の孫達の会話をすっかり忘れていた。
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