第12話 憂いの定例会議
「全員揃ったか? それじゃ朝のミーティングを始めるぞ」
朝10時。僕ら第三課のメンバーは会議室に集まっていた。
毎週月曜日は定例会議として、上層部からの伝達事項や近々のトピックス、各自の行動予定などを共有している。
「んじゃ田中。お前の今週のスケジュールは?」
「はい、お客さんに行きたいんですが予定は入ってません!」
「アホか! なんかネタないのか?」
「すみません! あ、そういえば先週製品サンプルが欲しいってメール来てました」
「なら在庫があればすぐ取り寄せて客に持ってけよ」
「はい、わかりました! 了解です!」
「高橋。悪いけど田中のフォローをしてやってくれ」
「かしこまりました」
僕はこの定例会議が苦手だ。
こうしてみんなの前で自分が出来ていないところ、ダメなところをバシバシと指摘される。
新入社員の頃はまだ良かったけど、四年目にもなると些細な事で怒られることに恥ずかしさを覚えてしまう。
「他なんかあるか? なければミーティングを終わるぞ」
(それでも今回はTo Doをなるべく消化するって夢咲と話したんだ)
「あの……」
「おっ、なんだ川崎。お前が発言なんて珍しいな」
「はい、すみません」
「なんだ、もったいぶらずに言ってみろ」
「……あの、この前のクレームの件で客先からうちへの発注を減らすと言われていて、来月の売上が未達になりそうです」
(絶対怒られる。なにやってんだアホとか、さっさと注文取り返してこいとか……)
「わかった。ちなみに影響額はざっくりいくらだ」
「えっと……わかりません」
「バカ野郎。そういうのはちゃんと事前に計算しとけ」
(うわ、やっぱり怒られた)
「まぁでもお前にしては珍しく悪いニュースを事前に報告したな。是非ともこれからもそうしてくれ」
(え? もしかして褒められてる?)
「川崎、この会議終わったら二人で打ち合わせするぞ。とりあえず内容はまとめなくていいからまずは状況整理だ。パソコンとプロジェクターだけあればいい」
「は、はい。わかりました」
こうして僕は苦手な課長と二人きりのドキドキ・密室ミーティングをすることになったのだった。
途中あれやこれやめちゃくちゃ指摘とダメ出しを受けたけど、最終的に課長が一緒に客先に交渉に行ってくれることになった。
もしもあの場で何も言わずに一人で抱え続けてたらきっともっと大事になっていたかもしれない。
この先の結果がどうなるかはまだわからないけど、とりあえず少し気が楽になったのは確かだった。
(それにしても朝から疲れたな……)
そして不幸にも会議が昼食の時間に食い込んでしまったため、その日のお昼は課長と二人でランチになってしまった。
(オッサンとランチデートとかやめてくれよ。絶対向こうも望んでないって……)
そう思うも案外課長はニコニコしながらサバの塩焼き定食を食べていた。
「そういえばお前って彼女とかいないのか?」
何を聞き始めるんだこのオッサンは。いい歳した男二人が恋バナなんて。
「いえ、いませんよ。僕こんなんですし彼女とかは全然」
「なんだ、今日はちょっと雰囲気が違ったから何か自信でもついたのかと思ったんだが。お前は色々と考えすぎなとこがあるからな」
「はぁ。そうですかね」
「でも今朝みたいにまず行動してから考えるってのも場合によっちゃアリだぞ。むしろお前は今はそれくらいでちょうどいい」
僕は唐揚げの脇にあるレタスを口に入れて咀嚼しながら課長の言葉に耳を傾ける。
「悪いニュースは早く知れば知るほど取れる対策の選択肢も広がる。でも俺達管理職は全てを把握できているわけじゃないから、こうしてお前たちみたいな実務担当から積極的に言ってもらえるのは助かるんだよ」
そういうものなのか。僕はてっきり色々とまとめてから言わなきゃと思って、どうしても報告とかそういうのは遅くなっちゃてたな。
「上にいけばもっと情報を精査してから報告する必要も出てくるが、お前は何かあったら遠慮せずにすぐ言ってこい。必要なアクションや情報はさっきみたいに一緒に作業して決めりゃいいから」
こうして課長に言われて初めて僕が必要だと思ってることと、課長が求めてるものが違っていたことに気が付いた。
課長は「もちろん出来るならお前自身で頑張れるところまで頑張れ」とも言ってた。そのバランスが本当に難しいから困ってるんだけどな。
まぁそれでもこうしてちょっとだけでも相談しやすく感じれるようになったのは大きいな。
そう思いながら気付けば残り一つになった唐揚げを頬張り、しばらくして定食屋を後にした。課長はしれっと僕の分まで一緒に払ってくれて、会議長引いちまったし悪かったなといって財布を取り出そうとした僕を制止した。
こういうところがうちの会社を一言では悪いと言えない所以なんだよな。
ウー。ウウー。
(ん、メッセージ? 誰だろう?)
《先輩お疲れ様ですっ!》
《午前中大変だったみたいですけど大丈夫でしたか?》
夢咲だった。
なんで僕の仕事の状況をほぼリアルタイムに知ってるんだ!?
やっぱり神か幽霊の類なのか?
〈お疲れさん〉
〈怒られたりはしたけどなんとかいい方向にいきそうかも〉
〈それにしても何で夢咲が知ってるの?〉
《ほんとですか? それは良かったです!》
《なんとなく大変になる予感がして連絡してみたんです》
《そしたら見事にビンゴでした!》
なんだ、そういうことか。
結局僕のことが心配でこうして聞いてくれたのか。
まぁ確かにあのTo Do見たら爆発寸前の案件とか結構書いてあったもんな。
(ヤバ、別の案件も早く処理しなくちゃ……)
〈ありがとう。To Do役に立ってるよ〉
〈午後も何とか頑張ってみる〉
そう夢咲に返信して僕は急いで会社へと戻った。
そうだ、他にも優先度高い案件があったんだ。
あぁ、なんかこれ案外クセになりそう。
それにしても昼休みに
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