第27話 最もフィジカルで、最もプリミティブで、最もフェティッシュなやり方
放課後。以前も来た駅の構内にてわたしは美景を待った。
ふと辺りを見回すと、それらしき人影がこちらに近寄ってくるのが見えた。金髪と制服。他人と見間違えようが無い。
「お疲れさまッス!
美景はわたしの前に来るなり突然そんな事を言って頭を下げた。九〇度のお辞儀だ。
「姉御! どうしやすか? カチコミッスか!? アイツらホント調子付いてッスからね! ここがアタシら
デカい声を辺りに響かせる美景。
「なんだお前……」
ヤンキーみたいな口調やめろって言ったくせにノってくるのかよ。
てか通行人がめっちゃこっち見て来るんだけど。こいつは恥ずかしくないのか? わたしは正直言ってこんなクソデカい声でアホみたいな事してるこいつに引いてる。皆さん、わたしはこの頭おかしい女とは無関係の人間です。なのでわたしをこいつと一緒にしないで下さい。
「姉御! タバコの火ィ要りやすか!?」
「まだ続けんのかよ」
「日和ってる奴いる? いねえよなあ!!?」
「少し黙れ」
わたしは美景の顔面にアイアンクローを決め、彼女のアホみたいな行いを止めさせた。
†
「二四〇〇円です」
「割り勘」
「チッ!」
ネカフェに来たわたしたちはカウンターで料金を払って部屋へと向かった。
後に部屋に入った美景が鍵を掛け、マットの上に腰を下ろした。わたしもドカッと座りあぐらをかく。
「最期に言い残すことは?」
わたしは美景を睨んで問うた。
「え……わたくし始末される流れですの? どうかお慈悲を……命だけはお助けを……! わたくしはまだお役に立てますもう少しだけ御猶予を戴けるならば、必ずお役に……! 金なら払いますわ! 靴とかも、全然舐めますので……!」
ぺこぺこと頭を下げ、命乞いをする美景。まあ今回は見逃してやるか。まだこいつには利用価値がある事だし。
「それじゃあ、単刀直入に聞くよ。どうすればわたしの百合をランキングに入れる事が出来る?」
わたしが問いを発すると美景は頭を上げた。
「そうですわね……お姉さまは一昨日わたくしと百合をした事で自らの能力が向上した事を感じたのでしょう?」
「うん……確かに感じた。だからいけると思ったんだけど、駄目だった」
わたしの握り拳が悔しさに震える。
「しかし、前進している事には違いないのですわ。でしたら、わたくしとの百合をこのまま繰り返してゆけば着実に成長を重ね、いずれ神絵師の域に至る事も出来ますわ。ランキングに入るのも、それほど遠い事というわけではないでしょう」
美景の言う事はもっともだった。
「でも――」
「でも、そんな悠長な事は言っていられない。今すぐにでも神絵師になりたい――ですわよね」
わたしの考えを見透かし、言おうと思っていた事を先に告げる美景。
「うん、そう。その通りだよ」
わたしは美景の方を真っ直ぐに見て告げる。すると、美景は笑みを浮かべた。そうこなくては、とでも言うかのように。
「でしたら、ギアを上げるとしましょうか」
「ギア?」
「ええ。初めは低いギアで走り始めて、速度が出てきたならギアを上げる。それが走り屋としての基本の基ですわ」
「それって、つまりどういう事なの」
わたしが問うと、美景の笑みは不敵で、それでいて妖艶なものになる。
「次の段階の百合をするという事ですわ。恋人繋ぎより上の百合を、ですの」
「恋人繋ぎより上――」
わたしの脈が速くなる。
恋人繋ぎ以上の事って、まさか。
「お姉さまにその覚悟があるのなら、最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきますわ」
固唾を飲む。ゴクリという音がはっきりと聴こえた。
「それでいて、最もオーソドックスな百合ですの」
わたしの視線は、ややこしい英単語を連発する美景の口元へと吸い寄せられる。
「それって――」
美景は小さく頷き、「ええ」と一言。そして告げる。
「――キスをするのですわ」
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