第19話 Do yuri best
「着きましたわ」
暫く歩いた後、美景は足を止めて言った。わたしが美景の視線を辿るとそこには看板が掲げられていた。
「『インターネットカフェ』……?」
インターネットカフェ。略してネカフェ。わたしは今までに利用した事は無かったがどのような施設なのかは知っている。その名の通りインターネットが利用出来る施設だ。それだけでなく置いてある漫画が読み放題。寛ぐ為のスペースが貸与される為宿泊に利用する者も居るという話を聞く。
「何? まずはここで一休みをして英気を養おうっていうの?」
「いや、この中で百合をしますわ」
「は?」
わたしの目が点になった。
「ここのネカフェは完全個室のネカフェですの。ですから百合をするにはもってこいですわ」
得意げな笑みを浮かべる美景。
対してわたしはどんどん自らの顔が熱くなってゆくのを感じていた。
「――ヘ、ヘンタイ! エッチなのはダメ! 死刑!! これがあんたの思惑か……! 人目に付かない所に連れ込んでいかがわしい事をしようっていう!」
わたしは貞操の危機を感じ、美景から距離を取った。
「あら、いけませんの?」
「ネカフェはネットをしたり漫画を読んだりする場所ですー! そういうエッチな事をする場所じゃないですー!」
「お堅いんですのね」
わたしの主張に対して眉を寄せる美景。
「結局わたしの身体が目当てだったんだ……! 神絵師になれるなんて甘い言葉で誘って、人を性欲のはけ口にするつもりなんだ……!」
「心配いりませんわ。ただ少し休憩するだけですの。何もしませんわよ。どうしましたの? お話聞きましょうか? あーうんうんそれは彼氏が悪いですわね。わたくしでしたらそんな思いはさせないのですけどね。てか『NINE』やってますの?」
「下心のフルコースじゃねえか」
「……というか、人目に付かない所でー、とか言っていますけどお姉さまは他人の目がある所で百合をしようっていうんですの? 公衆の面前で? 百合を?」
「うぐっ」
ジト目で言う美景。極めて的確な指摘だった。
「そういう、他人に見られながら……というプレイもありますけれど、初手からそれはあまりにもハードルが高いのではなくて?」
「いやもう全くもっておっしゃる通りです……!」
ぐうの音も出なかった。
「安心して下さいまし。わたくしはちゃんと段階を踏むタイプですから、最初はプラトニックな百合から行いますわよ」
「ほっ……なら良かった……ん? 『最初は』って事は段々とエッチな事をしていくっていう事じゃん!? やっぱりわたしの身体が目当てだったんだ! 最初だけ優しくして、それでこっちが心を許したらモノみたいに扱って、最後にはボロ雑巾みたいに捨てるんだ! そうやって今までに何人もの女を泣かせてきたんでしょ! 女はねぇ、モノじゃないんだよ! 一人の人間なんだよ! それなのに自分の欲望の為にその尊厳を踏み
「いいから早く店に入りません?」
うんざりした表情で言う美景。
「チッ! しょうがねえなあ」
「クソでけぇ舌打ちやめて下さいまし……百合の為なら何だってするってさっき言ってたじゃありませんの。こんな所で渋らないで下さいまし」
「まあお前の言う事も間違ってはいないな」
「何ですのその上から目線……」
わたしは神なんだからお前の上に目線があって当たり前だろ。
「とにかく……お互い百合の為に力を尽くそうではありませんの」
「分かってるよ。ちゃんとやるって」
「なら良いんですわ。そう――Do yuri bestですの」
「Do your bestみたいに言うな」
わたしはツッコミを入れながらネカフェの店舗内へと足を踏み入れた。
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