第3話 紅葉と共に散る
また秋の一日が訪れ、二人は再び池のほとりで向き合っていた。紅葉は最も美しい瞬間を迎え、鮮やかな赤や橙色の葉が池の周りを彩り、風が吹くたびに葉が舞い上がる。その光景は、まるで永遠に続く夢の中にいるかのような錯覚を抱かせるほどだった。
二人は言葉少なに、ただ紅葉を見つめていた。けれど、その沈黙の中にこそ、互いの心が深く響き合っていることを感じ取っていた。目の前の美しさが、まるで彼らの関係の儚さを象徴しているかのように映る。彼女はふと、彼と過ごす時間がこの秋の終わりと共に消えてしまうのではないかと不安になった。
「…このままずっと、一緒にいられたらいいのに。」
彼女の声は、秋の風に乗って静かに彼の耳に届いた。彼は少し切なげに微笑みながら、彼女の手をそっと握り返した。
「そうだね。でも、僕たちは――」
その先の言葉を彼は口にすることができなかった。ただ、二人の間にある見えない壁が、互いの心の中で静かに存在していることを感じていた。いとこ同士という関係が、どれだけ深い絆であっても越えられない境界線を引いているのだと。
だが、彼もまた彼女も、この瞬間だけはその壁を忘れたいと願った。風が吹くたびに舞い散る紅葉が、二人の周りを包み込み、時間が止まったかのような感覚に陥る。燃えるような赤色に染まった葉が次々と舞い落ち、彼らの世界を一瞬の美しさで満たしていた。
「紅葉が散る前に…君を感じていたい。」
彼は小さな声でそう告げると、彼女を優しく抱き寄せた。彼女も彼の腕の中に身を委ね、紅葉の香りと彼の温もりに包まれながら、二人は互いに溺れるように唇を重ねた。その一瞬は、秋の紅葉の美しさと共に彼らだけの永遠のように感じられた。
二人は有頂天となり、すべてを忘れて紅葉の中で互いを求め合った。まるで、今にも消えてしまう儚い命を確かめるかのように、必死に互いの存在を感じ合う。秋風が吹き、紅葉がさらに激しく舞い落ちる中、二人は紅葉の美しさに溶け込んでいくようだった。
やがて、紅葉が散り終えると、二人の熱も少しずつ冷めていく。風が止み、あたりは静寂に包まれる。彼はゆっくりと彼女の手を離し、彼女もまた、静かにその手を見つめていた。
「さよなら…」
彼女は心の中で呟きながらも、その言葉を口にすることはできなかった。二人の間には、もう何も残されていなかったが、それでも互いの心には深い思い出が刻まれていた。
最後の一枚の葉が風に舞い、池の水面に静かに落ちる。それはまるで、二人の短くも美しい愛が、秋の終わりと共に散り消えていくかのようだった。
紅葉と共に散る 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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