第2話 接近

再会から数日後、彼女はまたあの池のほとりに立っていた。彼と再び会う約束などしていなかったが、自然と足が向かってしまう。それは、彼女にとっても、そして彼にとっても、言葉にできない感情を少しずつ認めるための場所のように思えた。


紅葉は一層深みを増し、赤や橙色が池の水面に映り込んでいる。風が吹くたびに葉が舞い落ち、その音が秋の静けさを際立たせていた。彼女はその風景を見つめながら、自分がこの場所に引き寄せられる理由を、心の奥で探していた。


「また来てたんだね。」


その声に振り返ると、彼がそこに立っていた。彼もまた、この場所に導かれるようにやってきたのだろうか。彼女は笑顔を浮かべ、静かに頷いた。


「ここ、やっぱり落ち着くから。あなたも、そう思ってるんでしょ?」


彼は少し照れたように肩をすくめた後、彼女の隣に立った。二人はまた、言葉少なに池を見つめていたが、その静かな時間の中で、心が確実に引き寄せられていくのを感じた。どこか切なさが漂う秋の景色が、二人の間の距離を縮めているようだった。


やがて、彼がそっと手を伸ばし、彼女の髪に触れた。その仕草があまりにも自然で、彼女は一瞬驚いたが、すぐに穏やかな気持ちでその手の温もりを感じた。


「この髪、昔と変わらないね。ふわっとしてて、触れると落ち着くんだ。」


彼の言葉に、彼女の胸が高鳴った。そんな細やかなところまで覚えていてくれたことが、嬉しくてたまらなかった。そして、その瞬間、彼に対する想いが止められなくなっていく自分を感じた。


彼女はそっと顔を上げ、彼と視線を交わした。池のほとりに揺れる紅葉が、二人の間を彩るかのように舞い落ちている。その中で、彼女はゆっくりと彼の方に歩み寄り、ほんのわずかの距離を残して立ち止まった。


「このままでいたい…ずっと。」


彼女が小さな声で呟くと、彼は優しい眼差しを浮かべ、彼女の手をしっかりと握りしめた。まるで紅葉の舞う秋風に包まれるように、二人はそっと唇を重ねた。葉がひらひらと舞い落ち、二人の間に儚い彩りを添えている。


その一瞬は永遠のように感じられ、二人は紅葉に包まれながら互いの存在に溺れていく。池のほとりの静寂と紅葉の美しさが、彼らの心を深くつなぎ合わせていた。


しかし、彼女は心の片隅で、この一瞬の美しさが儚く消え去るものであることを知っていた。それでも、今だけは秋の風景と共に彼と過ごせる時間を大切にしたいと願った。

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