紅葉と共に散る

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 再会

秋の風が心地よく吹く午後、彼女は子供の頃によく訪れた古びた神社に向かっていた。境内の奥に広がる池、そのほとりの紅葉が色づき始めるこの季節は、彼女にとって特別な場所だった。あの頃と変わらず静かで、誰もいない神社は、どこか遠い記憶の中で生き続けているようだった。


池にたどり着くと、見覚えのある後ろ姿が目に入った。彼女と同じく、あの頃の思い出を辿ってきたのだろうか――いとこの彼が、池のほとりに立ち、静かに紅葉を眺めている姿だった。何年も会っていなかったはずなのに、不思議と時間が止まっているような感覚に包まれる。彼女はそっと近づき、声をかけた。


「久しぶり、こんなところで会うなんて思わなかった」


彼は振り返り、驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに優しい微笑みを浮かべた。その笑顔を見た瞬間、彼女の胸の奥に隠していた何かがふと動き出すのを感じた。


「本当に久しぶりだね。覚えてる?ここで一緒に遊んだこと」


彼の問いかけに、彼女は懐かしさと共に頷いた。あの頃はただ楽しくて、無邪気に笑い合っていた。でも今は、大人になった自分たちの間に何かが漂っている。それはまるで、今にも紅葉が散り始める前の、一瞬の静けさのようだった。


二人は、並んで池のほとりを歩きながら、思い出話を始めた。何気ない会話が続く中、彼女はふと自分が少し緊張していることに気づいた。彼に対するこの感情が何なのか、言葉にするのが怖い気がした。


夕日が池に反射し、紅葉の影を揺らす頃、彼はそっと彼女の手に触れた。その瞬間、彼女の心臓が高鳴り、紅葉が風に舞い始める音が耳に響いた。触れられた手から、彼の温もりが伝わり、まるで自分たちだけの時間が流れているかのように感じられる。


彼もまた、彼女に対する特別な想いを隠しているのだろうか。紅葉が揺れる中で、二人は言葉を交わすことなく、ただ静かに隣に立っていた。しかし、その沈黙が、どれだけ深い感情を表しているのか、二人だけにはわかっていた。


夕暮れの空と共に、紅葉が深い赤に染まり始める。これから先に待っているものが何であれ、この瞬間の美しさと心の震えが、彼女の胸に刻まれていくのを感じた。


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