第2話 裂界
(……羨ましいなぁ、異能力)
歯を磨き、制服を着て、日葵ちゃんが作ってくれていた朝食を食べ――俺達は高校までの道のりを肩を並べて歩いていた。
「羨ましいって、私の能力でもそう思うの?」
日葵ちゃんが、首をかしげながら問いかけてくる。
いや、ナチュラルに人の心の中読んでくるのやめてくださらないかな?
…………そんな言葉を吐き出さずに飲み込み、俺は口を開く。
「いや、まぁ……俺からしたら能力があるだけで崇め奉る存在だからな」
「じゃあもっと私に敬意を払ってみなさいよ敬意を。いつになったらアンタが私のお世話をしにきてくれるのかな~?」
「お世話って、日葵ちゃん自分の世話なんて朝飯前じゃないか……」
早起きで、家事も出来て、人当たりも愛想もよくて……こんな完璧超人に対して俺みたいな凡人がなにをどうやって世話すればいいというのだろうか。
「私だって甘えたい時もあるの~。いつか男見せてよね、まなくんも」
「いや~絶対無理っす」
男見せるって何?チンピラに絡まれた所を腕っぷしでかっこよく助け出すみたいな話?いやいや、そんな事をしてみろ、一瞬でぶっ飛ばされるぞ俺。
「大丈夫、まなくんなら絶対、マジで出来るって!!」
「その信頼はどこから出てくるの!?」
にこやかな笑みを浮かべながら、何故か俺に絶大な信頼を寄せてくる日葵ちゃんに、俺はツッコミを入れる。
「う~ん。私の心から?……あー、そういや私喉かわいたなー」
突拍子もなく、俺の方をチラチラと見ながらそんな言葉を言う日葵ちゃん。
「どうした急に」
そんな彼女に、俺はそう問いかける。
「むー。ここは男気出して「近くの公園にある自販機で何か買ってあげるよ」くらい言いなさいよねー」
「男気と同時に財布まで出すのかよ」
まぁ、普段から日葵ちゃんにはお世話になってるし、それくらい小安御用というものだが。
「分かったよ。150円のものから180円のものまでドンと来なさい!!」
胸を張りながら、俺は男気(だと思う)を全開にする。
「さっすがまなくん。さぁ行こう!!私達の自販機はすぐそこだ!!」
「うおっ!?」
突然俺の腕を引っ張り、公園へと向かって行く日葵ちゃんに俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
こういう所が不甲斐なさを醸し出させる所なんだろうなと、切実に思う。
――そうして2分とかけて、公園前に着いた俺達は、一歩。
歩道から公園内へと足を踏み入れたのだが――――。
「え……?」 「は……?」
目の前の光景に、俺と日葵ちゃんは自然と困惑の声を漏らしていた。
何故なら、俺達が今立っている場所は公園などという平和でほのぼのとしている場所とは程遠い――薄暗く荒廃した世界だったからだ。
「これは、裂界……?」
一早く言葉を発したのは、日葵ちゃんだった。
「嘘だろ!?一体何で!!」
そんな彼女の冷静な言葉とは真逆に、俺は焦りを隠せず言葉を発してしまった。
「落ち着いてまなくん。大丈夫、深呼吸して」
日葵ちゃんの優しい声色が、俺の耳に確かに届く。
どうして彼女は、こんな状況に陥っても冷静でいられるのだろうかと、素直にそう思う。
「冷静じゃないよ。ただ、焦ってもしょうがないから無理やり冷静になってるの」
俺の心を読んだのか、日葵ちゃんは言った。
「とりあえず、状況を整理しようと思うの。まず、私達が居るこの世界。多分、ここは
周囲の状況をぐるりと見渡し、当たりの様子を確認しながら彼女は言う。
「トリガーは公園に入った瞬間だから……。きっと、歩道と公園の境界がこの世界に繋がっていたんだと思う。裂界は場所と場所の境界を
俺も日葵ちゃんも、裂界には迷い込んでしまった経験は一切ない。
故に、こうして情報を整理するという判断を取るのは流石日葵ちゃんだと感心してしまう。
「そして、そんな裂界から脱出する方法は一つ。この世界を作りあげた主を倒す事。要するにだねまなくん――」
その刹那。
体中から腕が8本ほど不規則に生えている黒い体をした巨大な怪物が、地中をかき分け俺達を吟味するかのように姿を現した。
「私達じゃ何も出来ないから安全な場所を探さなきゃって事だよ!!」
「ですよねー!!」
そうして俺達の、命をかけた逃亡が始まるのだった。
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