最強の悪魔と契約すれば、モブでも世界を変える事は出来ますか?

@Nier_o

第1話 旧世界より

長くて、長くて、果てしなくて――それでも、短いと錯覚を起こす。

まるで、夜空に一線を描き咲く花火のような……そんな綺麗で、儚い夢のような時間はある日突然唐突に、終わりを告げる。


「すまない。君の両親を助ける事が……出来ず」


振りしきる雨がうるさい程に喚く、我が家の玄関前で。

黒い長髪の背丈が高い女性が俯きながら、そう言った。


「どういう、……どうして」


そこで当時9歳の俺が知ったのは、どうしようもない悲しみと、理不尽な現実と。

――――そして、途方もない絶望だった。




***




「――きて」


一つ。

視界に一筋の光が差し込み、未だ完全に覚醒しない俺の耳が、朧気ながら少女の声を認識する。


「起きて」


二つ。

今度は、完全に少女が発した言葉を認識した。

しかし、体は思うように起き上がらない。


「んも~!!起きてってば!!」

「アベシッッッッ――!?!?」


少女の肩にかけていたであろうスクールバッグが、何の因果か俺の無防備な腹にクリーンヒットする。

それを受けて一気に覚醒へと至った俺の体は、思わず飛び起きた。


「痛っ!?何してるの日葵ひまりちゃん!!?暴力反対だよ道徳学び直した方が良いよ!!」


身を固め目に涙を浮かべながら、俺は目覚ましにしてはやけに暴力的な方法で起こしやがった凶悪な幼馴染――一ノ瀬いちのせ日葵ひまりなる少女に向かって必死に道徳を学び直すことをお勧めする。


「あっごめん!!私ってばうっかり……」

「うっかりって言葉で包むには流石に無理があるよ!!可愛い~ってなるんじゃなくて怖ッッってなるよ!!」


……とはいえ、悲しいかな、この日葵という少女はハッキリ言って滅茶苦茶美少女である為、人によっては「そんな所も可愛い!!」等という思考停止してんのかとでも疑ってしまう言葉で許容しちゃう奴も出るだろう。


どれ程美少女なんだい貴様と問われれば、すれ違った誰もが思わず振り返ってしまうであろう程に限りなく完璧な幼さが残る風貌と、雲のように白くふわっとした肩まで伸びた長髪に、どの宝石よりも煌めき輝く透き通った青色の瞳を持っている…………と、ここまで言えば彼女がどれだけ勝ち組なのかというのが伝わるだろう。


この暴力的な性格さえなければ……。


「んー?だぁれが暴力的で野蛮で到底女の子とは思えないゴミ女ですってー??」


刹那、何やらとてつもない狂気的なオーラを発しながら、日葵ちゃんが拳を握り笑顔を浮かべてくる。

これが、いまにも手が出る五秒前という奴なのだと悟るのにそう時間はかからなかった。


「ひ、ひぇ!?」


その時、人類は思い出した。

彼女の“異能力”が――知心テレパスと呼ばれる他者の心を読んだり言葉を送る事の出来る能力だったと。


「全く、最っ低だよ?まなくん」

「いや最低も何もそこまでボロクソには言ってないですけど!?」


彼女が、俺の名前――小黒真斗おぐろまなとの真の部分だけを取っただけの単純なあだ名を用いて俺にあらぬ濡れ衣を着せてくるので、キッパリとツッコミを入れておく。


「はいはい言い訳言い訳。さ、ほら。起きたならさっさと準備する!」

「分かりましたよ」


今日は土日祝日なんて人間にとっては神よりも崇めたい日なんてものでは到底なく、普通に高校の登校日。

俺は急いでベッドから立ち上がり、歯を磨きに下の階へと降りていくのだった。

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