第40話 3段お重

 翌日の朝、クラスに異変があった。

 異変というと大袈裟だが、逢川さんは髪型こそいつもと同じたが、眼鏡を外して登校してきた。

 クラスに『ざわ……』とした、小さな喧騒が起こる。


「詩音、おはよう!」


 そんな逢川さんに、スヴェさんは挨拶する。


「おはようスヴェスさん」

「スヴェさんと呼べい! ハッハッハ」


 何がおかしいのかは良くわからないが、スヴェさんは笑っていた。

 逢川さんも少しにっこりしたあと、視線を俺に移しながら言った。


「恭一郎くんも、おはよう」

「おはよう」


 挨拶が済むと、逢川さんは自分の席に移動した。

 すると入れ替わるように男子生徒の1人、立川が逢川さんの背中を見ながら、小声で話し掛けてくる。


「何お前、逢川さんと仲良いの?」

「いや」


 席に着いた逢川さんは、周りの女生徒から「眼鏡無い可愛い」などと言われている。

 はて、それはどうだろう。


 確かに眼鏡無しも悪くない。

 ただ、眼鏡ありがそれに劣っているかと言われたら、そこは好みだろう。


「ビックリしたよ、逢川さんが誰かに挨拶してんの初めて見たから」

「人と話すのが苦手みたいよ。まあ、それこそあんまり他人に俺が言う事でも無いのかも知れないけど」


 なんとなくだが……クラスメートの言葉に頷いている逢川さんは、頑張っているように見えた。


◇◆◇◆◇◆◇


 昼休み。

 今日は弁当を持ってきていない。

 かといって、購買にも行かなくてよい。


「お口に合うと良いんだけど」


 俺とスヴェさん、逢川さんで中庭に集合した。

 昨日、スヴェさんと逢川さんは、早速LINEの遣り取りをしたらしい。

 その時に、なんでも昨日の唐揚げの御礼がしたいとの事で、今日は逢川さんが弁当を作ってきてくれる、という事みたいだ。

 まあ二人で遣り取りして、俺に伝えられたのは決定事項なため、遠慮の余地すら無かったのだが。


 弁当が入っていると思しきものは、風呂敷に包まれた結構大きな箱だ。

 風呂敷が解かれ、姿を見せたのは3段お重だった。


「ほう、綺麗な箱だな」

「うん、おばあちゃんの嫁入り道具なんだって。なんか有名な職人さんが作った物みたい」


 そんなもん、学校の弁当箱に使う代物なのか……?

 なんか凄い食いもん出てきそう。


「あまり期待しないでね」


 そう言いながら、逢川さんが蓋を開ける。

 たまごサンドがみっちり詰まっていた。

 そのまま、逢川さんは1段目のお重を外して横に置く。

 二段目には、たまごサンドがみっちり詰まっていた。

 3段目も、はいたまごサンドー!


「私、一番自信あるのがたまごサンドで」


 そう言うと逢川さんは、お重を一つずつみんなの前に置く。


「そ、そうなんだ」

「うむ、美味そうじゃな。いただこう」


 スヴェさんがたまごサンドを口に運ぶ。

 実はスヴェさんは既に、コンビニのたまごサンドを体験済みだ。

 最近はコンビニのもレベル高いからな。


「うっ、うっまあ! 何じゃこれは! これは妾の知るたまごサンドでは無い!」


 そ、そんなに?

 ちょっと興味出てきたぞ。


「じゃあ俺もいただきます」


 たまごサンドを一口齧ると……衝撃が走った。


「う、美味、いや、美味すぎ」

「良かった」

「ねぇ、これどうやって作ってるの?」

「えっと、まずは小麦粉を」

「ちょっと待って、どこから?」

「たまごサンドに合う、パンを焼く所からだけど……」

「そこから!?」


 その後、逢川さんに詳しく聞くと……。

 パンはもちろん、マヨネーズもおいそれとは手に入らない酢や油、塩も特殊な製法で作られた逸品を使った手造りで、薄っすら塗られたバターも高級ホテル仕様の、これ誰が買うんだ? と俺がスーパーで常々思ってた奴らしい。


「本当はね、バターも手造りしたかったんだけど……そこはちょっと手抜きしちゃった。ごめんなさい」

「いや……ごめんその違いわかるほど舌に自信無いから大丈夫」


 なんだろう。

 唐揚げ食べて貰ったの、ちょっと恥ずかしいぞ?



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