第36話 魔王ライダー

『絆リンクLV.2により、あなたは【魔王ライダー】となりました』


 ま、魔王ライダー?

 なんだそれは、サッパリわからんぞ。

 頬擦りから飛躍しすぎでは?

 しかも頬擦りの時は『自分の頬を叩く』みたいな使用方法の説明があったのに、今回は一切ない。

 なんなんだ、これは。


「では恭一郎、このあとはどうする?」


 スヴェさんは「もう入らない」と力説してたのに、最後にとアイスを食っていた。

 いや、肉食えよじゃあ。

 全く、……テイムの事も、なんとなくスヴェさんには言いづらいしなぁ。


「んー。あとはちょっとブラブラして帰るだけだね」

「そうか」


 会計を済ませ、店を後にしてからショッピングモールをブラついてから、いざ帰宅……となった時、スヴェさんが言ってきた。


「では恭一郎、乗ってくか?」

「……何に?」

「決まっておろう、妾に」


 いや……何が決まってるのよ。


「いやいいです。歩くから」

「ふむ、そうか」


 スヴェさんは答えると、何も無かったようにスタスタと歩く。

 そのまま、会話に若干の違和感を覚えながら帰宅した。


◆◇◆◇◆◇◆


「スヴェさん、お風呂溜まったよ」

「ん……恭一郎、先に入って良いぞ。妾はこのCMの後に発表される事に、只今興味津々じゃ」


 家に帰ってからはまったりとTVなどを見て過ごしていた。

 あれからスヴェさんが変わった事を言う様子も無い。


「んじゃ、俺から先に入るね」

「うむ……恭一郎、乗ってくか?」


 と思ったらまた変な事言ってる。


「……何に乗って、どこに?」

「妾に乗って、風呂に」

「いや、それだとスヴェさんが続き見れないから、いいよ」

「それもそうか、すまんな」


 そのまま、何事も無かったようにスヴェさんはTVを見続けている。

 うん、あれだ。

 これたぶん、あの【魔王ライダー】のせいだよな。


 ……もしかして俺が移動するたびに、「乗ってくか?」って聞かれんの?

 面倒くせぇな、おい。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「恭一郎! 納得いかんぞ!」

「わ、何その格好!」


 風呂上がりに、自分の部屋でまったりしていると……同じく入浴を終えたスヴェさんが、髪を濡らしたまま、バスタオルを身体に巻いただけの姿で俺の部屋に突撃して来た。


「格好なぞどうでも良い! 納得いかん!」

「な、何が」

「何で妾に乗らないの! 乗ってよ!」

「ええっ……」


 何だよこれ。

 あれか? もしかして頬擦りの後に寝るまで頭皮マッサージしなきゃならんみたいに、絆がLV.2だと乗らないといけないのか?


「恭一郎が乗ってくれぬと、妾、この世界を滅ぼしてしまいそうじゃ……」

「わかった! 乗る! 乗るから!」


 俺が「乗る」と宣言すると、スヴェさんの顔が「ぱぁああああ」と華やいだ。


「うむ! では早速乗ってくれい!」


 スヴェさんは嬉しそうに言うと、バスタオル姿の

まま、四つん這いになった。


「えっと……」

「ほら、背中に乗らんか」

「あっはい」


 スヴェさんは女性にしては背も高いが、流石に俺の方が体格は良い。

 罪悪感を覚えながら背中に腰をそっと下ろす。

 あまり体重をかけないようにしていると、スヴェさんが不満げに声を上げた。


「こら、しっかり乗らんか。足を浮かせい」

「……はい」


 ええい、ままよ。

 足を浮かせてみるが、スヴェさんはびくともしない。


「えっと、重くない?」

「ふん、軽々じゃ。してどうじゃ?」

「どうじゃって?」

「妾の乗り心地はどうじゃ?」

「うん、まあ、良いかな?」

「ふふふ、そうか」


 スヴェさんが満足そうに笑う。

 なんだコレ。

 しばらくそのままスヴェさんに跨っていると……彼女はまた不満げな声を発した。


「早う出発の合図をせんか」

「えっ? あ、うん、じゃあ出発ー」

「違う!」

「何が?」

「妾の、その、尻を叩かんか!」


 ……。

 この【魔王ライダー】とかいうスキル考えた奴、性格終わってるな。


「他の方法は?」

「あるわけ無かろう」


 仕方ない、のか?

 俺はスヴェさんのお尻あたりに視線を移す。

 バスタオルだけのその扇情的な姿に、自然と唾を飲み込む。

 あー! もう!

 俺はそっと、一瞬だけ触れるようにスヴェさんの尻をポンと叩いた。


「もっと強く!」


 あああああっ! もおおおおおっ!

 パン!

 今度は先ほどよりやや強めに叩くと、やっとスヴェさんが四つん這いで進み始めた。


 そのまましばらくスヴェさんに乗って、部屋の中をグルグルと移動する。

 しばらくして、スヴェさんは満足そうに言った。


「ふう、もう良いぞ」

「あっはい」


 俺がおりると、スヴェさんはすっと立ち上がって言った。


「では、髪を乾かさんとな」


 何事も無かったように、彼女は部屋を出ていく。

 俺は……彼女の尻を叩いた手をしばらく見ていたが……そのまま、その手で額を抑えながら嘆息し、思わず「何だったんだ……」と呟いてしまった。




 ――ちなみに、この「乗って欲しい欲?」みたいな奴は、一度解消されるとしばらく大丈夫みたいで、しばらくは「乗ってくか?」と聞かれる事は無かった。

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