第33話 キッズコーナー②

 ノリノリのスヴェさんを連れ、受付へ。

 一時間六百円か、まあそんなもんなんだろうけど結構するな。

 保護者は、椅子に座って見てるだけなら無料みたいだ。

 スヴェさんは早速トランポリンに向かおうとしたが……。


「おっと、落としたらマズいから持っておれ」


 俺にスマホを渡してきた。

 そのまま、準備は整ったとばかりにトランポリンに突撃する。

 

「恭一郎、見ておれ!」


 魔王幼女版が、トランポリンの上ではしゃいでいる。

 彼女に倒されたであろう猛者達が見たら、どんな心境になるのだろう。


「おお、これは面白いのう。愉快愉快」


 スヴェさんはそのまま、お尻から着地したり、うつ伏せで着地したりを繰り返していたが……やがてそれでは飽き足らなくなったのか、やや高度が増してきた。


「ふっ、このトランポリンとやらにも慣れて来たな……では、行くぞ!」


 スヴェさんは高く跳ねると、膝を額に付けるような姿勢から、宙返りを繰り出した。

 周囲から「おおーっ」と小さな歓声が上がる。

 その内の一人が、驚いた様子で声を上げた。


「あ、あれは! 一回宙返りパイク姿勢! こんな小さな子供が!」


 なんか、バトル漫画の解説役みたいな人がたまたま居合わせた。

 トランポリンガチ勢助かる。


「ふっふっふ、次はこれじゃ!」


 スヴェさんは叫ぶと、前方に三回転周りながら、身体を捻って反対向きに着地した。


「あ、あれはパイクトリフィスアウト! あの子は何者だ!?」


 お前も何者だよ。

 スヴェさんが技を繰り出す事に、ガチ勢のオッサンは驚愕の声を上げる。

 二人でキッズルームの注目を散々集めたのち、スヴェさんはやがて回転しながらトランポリンの外に着地した。


「ふっ、まあ妾にかかればざっとこんなもんよ」


 キッズルーム内に、パチパチと拍手が木霊する。

 まあもう、俺も目立つなとか無粋な事は言わない。

 魔法とか使わなければ、ある程度好きにやって貰いたい。


 目立ちまくったスヴェさんの周りに、子供達が集まる。

 その内の一人が、彼女をボールプールに誘っていた。

 そのまま、スヴェさんに興味を持ったらしい子供達5人くらいに囲まれる。


「よしお主ら! 妾に向けてボールを投げてみぃ!」


 スヴェさんの掛け声に、子供達は次々とボールを投げる。

 その全てを、スヴェさんが躱していく。


「スゲー! 当たらねー!」

「わはは、どんどんこい!」


 楽しそうだな、子供相手に。


 ……もしかしたら、友達と遊ぶ経験とかあまり無かったのかな?

 ならまあ、良いか。


 何かしでかしそう、という感じでもないし。

 今の内に俺はトイレにでも行こう。


◇◆◇◆◇◆◇



 あれ?

 用を足して戻ってくると、スヴェさんがいない。


 そんなに長く離れたわけじゃないのに……もしかして、邪魔しないようにと声を掛けなかったのがマズかったか?

 スマホも預かりっぱなしだし、参ったな。


 探すとなると、ここは広いし結構面倒だぞ、と――。


『ピンポンパンポン』


 館内アナウンスが響いた。

 嫌な予感。


『迷子のご案内です。恭一郎さまー、お連れの、まっ……ゴホ』


 女性は咳き込むように一旦区切ったあと、続きをアナウンスした。


『ま、魔界からいらしたスヴェスちゃんをお預かりしております、お近くの係員にお尋ね下さい』


 ……。

 よし、まずはウチの住所を覚えてもらおう。

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