第32話 キッズコーナー①

 ガチャガチャに満足した(?)スヴェさんと共に、ショッピングセンターを歩く。

 週末という事もあり、家族連れが多い。


「スヴェさんお腹空いてる? お昼になるとここ混むんだよね」

「ふむ、では先に食事にするか」


 二人でイートインに行く。

 イートインは結構充実していて、ここ目当てにくる客も多い。


「色々あって目移りするのう……むっ、たこ焼き? つまりタコを焼いておるのか?」

「タコは焼いていると言えば焼いているね。美味いよ」

「美味いと申したか。ならば食わねばならんな」 


 こっちの世界に来てすぐは「食事なんてエネルギーを取り込む為の物」なんて言ってたスヴェさんも、すっかり食事の楽しさに目覚めてしまった。


「トッピングどれにする? オススメはこのネギマヨだけど」

「まずは基本の、シンプルな奴にしておこう」


 という事で、スヴェさんには普通の、俺はネギマヨトッピングを注文し、席に運ぶ。


「では、たこ焼きとやらを食してみようか」

「あっ」


 スヴェさんが、考えなしに口に運ぶと……すぐに「はほぉ」と奇声を上げた。


「あひゅい! ハッホッ、ひょういひろ、これ、ひゃひゅい」

「そう、中がトロトロで熱いんだよね」


 魔王スヴェスはたこ焼きを囓った。

 口内に20ダメージ、といったところか。


「れも、ハッホッ、うま、ハッハッホッ」


 ハフハフしている間に慣れてきたのか、スヴェさんが笑顔に変わる。

 やがてタコもモニュモニュと噛んだあと、ゴクンと飲み下した。


「美味いな……この、ソースとトロトロが相まって……あと、中に入ってるタコも良いアクセントじゃ」

「うん、美味いよね。ここのはタコもデカいし」


 俺も自分のネギマヨを食べる。

 ハッホッ、わかっていても熱いのがたこ焼きだ。

 二人でハフハフ言いながら、たこ焼きを食べ進める。

 スヴェさんが先に完食し、俺は残り一つ。

 ただ、彼女は俺のたこ焼きを凝視していた。

 ……仕方ないな。


 俺はスッと皿をスヴェさんに向けて押し出した。


「ネギマヨ食べてみる?」

「よ、良いのか……? それはお前の最後の一つじゃろ?」

「いいよ。スヴェさんにネギマヨの美味さを知って貰いたいし」

「では、遠慮なくいただこう」


 スヴェさんがネギマヨたこ焼きを食べる。


「おお、これは……酸味とシャキっとした食感がプラスされ、なんとも言えん美味じゃ。妾も次回はネギマヨにしよう」

「美味いよね」


 二人で皿を片付け、食事を終える。

 イートインコーナーを離れ、そのまま歩いていると、スヴェさんが俺の袖を引っ張った。


「恭一郎、いつもすまんな」

「……? 何が?」

「さっきのたこ焼きもそうじゃが、妾はお主の優しさにいつも助けられておる」

「いや、そういうの、改めて言われると、照れるよ」

「言わねば、伝わらん物もある」


 悟ったような笑みを浮かべ、スヴェさんが袖から手を離す。

 何か気恥ずかしい物を感じながら、そのまま歩く。

 こういう場合、俺も何か言った方が良いのか?


「あの……」

「きょ、恭一郎! あの楽しそうなものは何じゃ!」


 スヴェさんはさっきまでの雰囲気をブチ壊すように、トランポリンの上で跳ねる少年を指差した。


「トランポリンだね。床? がゴムになっててああやって跳ねるんだよ」

「妾も! あれやりたい!」

「いや、スヴェさんは無理」

「何じゃと! 妾はいざとなったら宙に浮けるのじゃぞ!」

「いや、こんな所で浮かれても困るし、そうじゃなく」


 俺はキッズコーナーの入り口を指差した。

 そこには、対象年齢6歳まで、と記載されている。


「な、なんじゃと……」

「ね? だからダメ」

「ぐぬぬ……」


 本当にぐぬぬって言うんだなぁ。


 そういえば、スヴェさんって何歳なんだろ。

 ……なんか「数百歳」とか返ってきそうだから聞くのはよしておくか。

 スヴェさんはしばらく楽しそうに跳ねる子供の姿を、まるで仇の如く見ていたが……やがてハッとした表情を浮かべた。


「そうじゃ! 流石妾!」

「何が?」

「恭一郎、ここで待っておれ!」


 スヴェさんはそう言うと、パタパタと音を立てて物陰に走り去ったと思ったら、すぐに戻って来た。

 ……小さくなって。


「どうじゃ! 変身の術じゃ!」


 ご丁寧に、服まで縮んでいた。

 何処から見ても幼女だ。


「これなら、あの関門をパスできよう……流石妾じゃろ?」

「まあ、うん」


 スヴェさんは俺の適当な追従に満足そうに笑みを浮かべたあと、キッズコーナーの入り口をビシッと指差しながら言った。


「フッフッフ、では参ろうか……対象年齢の向こう側へと、の……」


 どんな言い回しだよ。

 あとそれ、本当なら普通にルール違反だからね?

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