第31話 ガチャ

 洋服以外も見て回ろう、という事で。

 俺とスヴェさんはショッピングモールにやって来た。


「ほう、この建物全体が市場のようになっておるのじゃな。多少スマホで予習はして来たが、実際に目の当たりにすると効率的な施設じゃ」


 スヴェさんは物珍しげに施設を見ていた。

 そして、そんなスヴェさん自身が周囲の注目の的だった。

 まあ、普通にしてたらただの美女だからな……。

 すれ違う人々は、男女問わず振り返る。

 俺も赤の他人なら、きっと振り返っただろう。


「洋服は荷物になるから後にするとして、何か見たい物ある?」

「うーむ、そう言われてもな。ここに何があるかを把握しているわけでは……むむ、あれは何じゃ?」


 スヴェさんが指を指したのは、玩具コーナーに設置されたガチャガチャだった。

 

「ああ。これはここにコインを入れてここを回転させると、中の玩具が出てくるんだよ。何が出るかはお楽しみだね」

「ふーん……む、魔王フィギュアだと?」


 スヴェさんが、魔王という単語に反応する。

 そのガチャは、有名なアニメ作品のキャラクターが入ったガチャガチャだった。


「ああ、アニメのキャラクターだよ」

「アニメ……なるほど、この世界の人間が創作した架空の魔王か」

「そうそう」


 と言ってそのまま通り過ぎようとしたが、スヴェさんは動かなかった。


「……やりたいの?」

「うむ。同じ魔王を冠する者として、些か気になるな」

「じゃあ……あまり無駄遣いはダメだけど、千円分やってみる?」


 このガチャガチャは1回二百円のタイプだ。

 併設された両替機で、お札を百円玉に崩してスヴェさんに渡した。


「ここに二枚入れて、これを回せばいいから」

「うむ!」


 スヴェさんは嬉しそうに百円玉をセットし、レバーを回した。


「おお! 出てきたぞ!」

「じゃあ、そのカプセルを開けてみて」

「うむ!」


 スヴェさんがカプセルを開ける。

 中からは、やる気の無さそうなオッサンが出てきた。


「……これが魔王か? 何やら覇気を感じぬが」

「えっとこれは……」


 一緒に入っていた紙を見る。


「これは、モブ兵士(3)だね」

「……つまり、雑魚か?」

「そうだね」

「解せぬ。妾は魔王が欲しいのじゃ」


 スヴェさんが追加でガチャガチャを回す。


「えっと、これはモブ兵士(2)だね」

「解せぬ!」


 ガチャガチャ!


「モブ兵士(2)だね」

「ふざけるな! 被っておるでは無いか!」


 ガチャガチャ!


「またモブ兵士(2)だね」

「この中にはモブ兵士しかおらぬのか!」


 ガチャガチャ!


「おっ、これは……」

「おお、ようやく魔王か!?」

「おめでとう、モブ兵士(1)だね」

「あああああああっ! 妾の配下にはモブしか来ぬのか!」


 スヴェさんがモブ兵士を握りしめる。

 まあ、ガチャなんてそんなもんよ。


「んじゃ、行こうか」


 俺は再び移動しようとするが……スヴェさんが動かない。


「恭一郎……もう千円じゃ!」

「ダメだって、無駄遣いは」

「次こそ出る気がするのじゃ! もう一回やれ、と妾の勘が囁いておる!」

「もー。じゃあ千円はダメだけど二百円ね」

「ケチケチするな!」

「次出るなら良いじゃん」

「むむ……仕方あるまい、それで手を打とう」


 スヴェさんは俺の手から、ひったくるように二百円を受け取ると、再度ガチャを回した。


「モブ兵士(3)だね」

「もぉおおおおおっ!?」


 スヴェさんはカプセルごとモブ兵士3を握り潰した。

 哀れ、モブ兵士……。


「恭一郎! 四の五の言わず、もう千円両替するよじゃ!」

「もうダメだって」

「ダメじゃない!」


 彼女が駄々をこねていると、小学生入りたてくらいの子供が声を掛けて来た。


「次、僕やっても良いですか……?」

「あ、ごめんねどーぞどーぞ」


 ガチャの前に陣取ったスヴェさんの手を引っ張り、少年に順番を譲る。

 彼は手の中に握り締めた二百円をガチャに投入した。


「あ……出た、やったー! 魔王アスタロトだ!」


 少年はアニメの主人公、魔王アスタロトを引き当てていた。

 それを見たスヴェさんが、俺に食って掛かる。


「ほらっ! 次に出たではないか! 恭一郎がグズグズするから!」


 いや、子供が嬉しそうだからいいだろ、と思っていると……少年がにっこり笑って言った。


「ありがとうお姉さん! お姉さんがいっぱいやってくれたおかげで、欲しかったのが引けました! 二百円しか無かったので嬉しいです!」


 少年の喜ぶ姿を見ながら、スヴェさんはふん、と鼻を鳴らしながら腰に手を当てて言った。


「礼には及ばんぞ、はっはっは」

「うん、本当にありがとうございました!」


 少年は嬉しそうに手を振りながら、俺達の前から去った。


 やがてその姿が見えなくなった頃、スヴェさんが言った。


「恭一郎、もう千円!」

「だからダメだって……」

「ヤダヤダヤダ! もう魔王が引けるとかの問題ではない! この機械と妾の勝負なのじゃ! せめてもう二百円! 二百円で良いから!」


 コイツ……絶対ギャンブルさせちゃダメなタイプだ。


「本当に、本当に最後だよ!」

「妾に二言はない!」


 それがすでに嘘なんだけど。

 仕方なく、もう二百円渡した。


 ガチャガチャ。


「で、出たぁ! 魔王じゃあ!」

「おお、おめでとう!」

「ふふん! どうじゃ、これが妾の実力よ!」


 スヴェさんはしばらく、勝利の余韻に浸るようにニヤニヤしていたが……何かに気付いたように、ボソリと呟いた。


「しかし……いざ手にしてみると、コレ別に、そこまで欲しくないのう……」


 まあガチャに限らず、出に入れた途端に冷めるって事はある。

 そのあるある、魔王でも当てはまるんだなぁ。



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