第28話 スマホデビュー
「えっ、スヴェさんスマホ持ってないの!?」
「うむ。妾は居候ゆえ、窓口は恭一郎じゃ」
学校でクラスメートの女子に連絡先を聞かれたスヴェさんは、勝手に俺を窓口に指名していた。
「えー、スマホ無いと不便じゃない?」
「今の所、不便は感じておらんなぁ。学校で新たな知識を得て、家では美味い飯を食える。充分じゃ」
欲望のハードルが低いな。
なんでこの人、魔王やってたんだろ……。
「だけど、分からない事とかも調べられるし、便利じゃん」
「ほう、そのような機能もあるのか」
「あと、動画とか見たり」
「ふむふむ」
スヴェさんが充分だと言っているのに、周囲からはスマホを持つメリットが次々と提示される。
スヴェさんは周りから、実際に英単語を調べたり、動画を見せながらの説明を聞いていると何度かふむふむと頷きながら興味ありげに眺めていた。
「まあ、便利な道具である事は分かった」
「絶対持った方がいいって!」
「考えておこう」
「だけど、料金かかるのだけがネックだよなぁ」
男子生徒のボヤキに、スヴェさんが反応する。
「ほう、金がかかるのか」
「そりゃそうだよ。俺なんて課金もしてるからバイトが大変でさぁ」
それはお前が悪いんだが。
まあ、親の金じゃなく自分で稼いだ金なら文句言われる筋合いもないだろうが。
――キーンコーンカーンコーン。
授業開始の鐘と共に、雑談は終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
家で俺がスマホをいじっていると――何やら視線を感じた。
スヴェさんが、俺のスマホをじっと見ている。
「……どうしたの?」
「ん? いや。恭一郎は暇さえあればずっとそれを見ておるな」
「あ、うん。漫画読んだり」
「漫画……ほう、物語か。それは良いな。お主の姉の残した物をいくつか読んでみたが、この世界の話を学ぶのに役に立ったぞ」
「あ、そうなんだ」
「じゃが、一つ良くわからん概念があったな」
「何?」
「『おもしれー女』とはなんじゃ?」
おめーだよ。
「えっとね、女子にモテる男ってのは、言い寄られ過ぎてちょっと頭がおかしくなっててさ。変な言動をする女の子が逆に気になる……みたいな感じ」
「ほう……説明を聞いてもサッパリわからん」
「まあ、わからなくて良いんじゃない? 普通の男は、普通の女の子が好きだよ」
「ふむ……そういう物か」
首を傾げながら呟くと、スヴェさんは居間を出ていった。
で、何となく思ったのだが。
スヴェさん、スマホ欲しいのかな?
なんか興味ありげだし……ただ、ヤッパリ金がかかるからなぁ。
ウチもそんなに余裕がある訳でもなし。
うーん……バイトしようかな?
それでスヴェさんにスマホを持たせるってのも一つの手だ。
何だかんだ便利だしな。
と俺が考えていると――。
メッセージアプリに連絡が来た。
灘さんからだ。
『今電話とかしても大丈夫?』
『大丈夫です』
返事をすると、すぐに着信があった。
「あ、恭一郎くんごめんね」
「いえ、どうしました?」
「あのね、色々手続きしてたんだけど。来訪者支援の為の補助金の説明忘れてたな、って」
「補助金?」
「うん。来訪者を保護してくれる家庭に、毎月補助金が出るの。ほら、食費やらなんやら、やっぱり掛かるでしょ? それで口座を教えて貰いたくて」
「えっ、凄いですね」
「うん。だいたい月15万円くらいなんだけど」
15万!
デカいし、地味にリアル!
そのまま口座番号を伝え、電話を切る。
しかし思わぬ収入だ。
スヴェさんにスマホを持たせるのも、これで可能だな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
週末、スヴェさんを誘い街へ向かう。
スマホの契約もあるから、じーちゃんにも付いてきて貰った。
「恭一郎、どこへ向かうのじゃ?」
「着いてのお楽しみ」
家電量販店のスマホコーナーで、色々と物色する。
「スヴェさん、このデザインどう思う?」
「よーわからん」
スヴェさんはあまり興味無さそうだった。
まあ、取りあえず俺が決めればいいか。
契約を終え、スヴェさんにスマホを渡す。
「なぜ妾にこれを……?」
「それ、スヴェさん用だよ。持ってて」
スヴェさんは、スマホと俺の顔の間で何度か視線を往復させると、恐る恐ると言った感じで聞いてきた。
「……良いのか? スマホとやらは毎月料金が掛かるのであろう?」
「心配しなくて良いよ、大丈夫だから」
まあ、補助金様々な訳だが。
しばらくすると――スヴェさんがいきなり抱きついてきた。
「ちょ、ちょっとスヴェさん!」
「妾は嬉しいぞ、恭一郎! 実はめちゃくちゃ欲しかったのじゃ!」
そのまま、スヴェさんは胸に、顔を擦り付けていた。
……。
ふっ、おもしれー女。
ちなみに。
スヴェさんはスマホで一晩中動画を見たせいで寝坊したので、翌日は1日取り上げたのだった。
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