第27話 和風カルボナーラうどん

 歓迎会を終えた帰り道、じーちゃんからスマホにメッセージが飛んできた。


『村の寄り合いに出てくるから、飯はいらん』


 あー……ご近所さんとの飲み会か。

 じーちゃんうわばみだから、酒飲むと長いんだよなぁ。


「どうしたのじゃ? 恭一郎」

「じーちゃんご近所さんと飲むから、ご飯いらないって」

「ふむ……妾もポテトとやらをちと食べ過ぎで、そこまで腹は減っておらぬなぁ」

「俺もたこ焼き食べちゃったし、今日は簡単な物にしようか」


 スーパーでブロックベーコンを購入し、帰宅。

 夜、念の為まだ家庭教師をしてくれている田辺と、引率の灘さんがやって来た。

 田辺の授業を終えた頃には、ちょっと小腹が空いてきた。


「スヴェさんどう? お腹減ってる?」

「ふっ、今は胃袋にゆとりを感じておる」

「んじゃ、作るね。あ、手抜きで簡単な物なんですけど、灘さんと田辺……先生も食べます?」

「食べるー! 恭一郎くんの料理おいしーもん!」

「何で毎回、そこスペースが……手間でなければ頂こうかな」

「はい、作ってきますね」


 では、料理開始だ。

 まずは湯を沸かしつつ、沸くまでの間にベーコンを切る。

 俺は厚切りが好きなので、毎回ブロックで購入している。

 次にネギと玉ねぎをみじん切り。

 ネギの青い部分は別にしておく。


 湯が沸騰したら、買い置きしてある乾麺のうどんを投入。

 本当は四人分は多いが、まあ手抜きだし。

 茹で時間は六分、これが勝負だ。

 ついでに食パンもトースターへ。

 タイマーをセットし、次の工程へ。


 ベーコンを炒め、全面に焦げ目を付けたらネギと玉ねぎ、フライパンにオリーブオイルとバターを投入。


 全体に軽く火が通ったら、牛乳を入れる。

 まあ、本当は生クリームらしいけど、俺は牛乳で代用している。


 沸々と火が通ったら、一旦火を止め塩と、少量の麺つゆを入れる。

 麺つゆって便利だよなぁ。


 次に卵をボールに四個割り、粉チーズを投入。

 卵黄だけがセオリーらしいが、白身だけ残るのが好きじゃないので俺は全卵。

 かき混ぜて卵液を作った頃に、ちょうどタイマーが鳴った。

 フライパンにうどんを投入し、ちょっと茹で汁を入れ、次に卵液。

 卵液を熱々うどんで温めるイメージだ。

 とろみが足りなければちょっとフライパンを温めなおすが、今日は大丈夫そう。


 仕上げにネギの青い奴と、刻み海苔を振りかける。


 たったこれだけでぇー?


 恭一郎風、和風カルボナーラwithトーストの完成だ!


「今日は米無しですが、どうぞ」


 テーブルにうどんとトーストを並べる。

 あとは欠かせない胡椒のミル。


「うわぁ、美味しそう。いただきまーす!」

「恭一郎くんありがとう、いただくよ」

「おお、初のメニューじゃな、どれ……」

「あ、胡椒ガリガリかけるのがオススメです」


 言われるがまま、三人は胡椒をガリガリと振りかけてから、うどんを食べ始めた。


「おいっしー! 何この濃厚ソース、市販の奴?」

「俺のお手製です。なんせ卵の質が良いですからね」


 灘さんの質問に、謙遜しながら答える。


「うん、ちょっと濃い目の味付けだけど、それがパスタよりも太いうどんに絡み合ってていいね」

「お好みで、トーストをソースに付けても美味しいです」


 田辺もうどんを美味そうに啜る。


「ああ、妾これ好きじゃ。この塩辛い肉も良いが、この海苔とネギが良い仕事をしておる。では、妾もトーストとやらにソースを付けてみよう……モグモグ……うむ、これは焼きそばパンより好きかもしれんな」


 スヴェさんにも好評だ……ってか、今まで不評だった事ないけど。


 全員食べ終わり、用意した茶を飲んでいると、田辺が「そうだ」と何かを思い出したように言い始めた。


「僕ね、しばらく君たちの学校に赴任する事になったんだ」

「えっ? 大丈夫なんですか?」

「うん、僕の仕事は基本的に来訪者とのコミュニケーションだから、普段は結構暇なんだよ」

「いや、そうじゃなく。素行面というか」

「……君は僕を何だと思っているんだい?」

「えっと、言葉を選ばずに言えば、女生徒を手籠めにしようとしたクズ、ですけど……」

「おおい!」

「何よ、合ってるじゃん」


 灘さんのツッコミに、田辺はぐぬぬと押し黙った。


「でも大丈夫。私がちゃんと『教育』しておくから」

「はい、お願いします」


 しかし、警察組織の人が学校に来るなんて、まるでアニメみたいだな、などと俺が思っていると。

 

「――どうやら、そろそろハッキリせねばならぬ時が来たようじゃ」


 しばらく黙っていたスヴェさんが口を開いた。

 ハッキリって、また灘さんとどっちが強いか、みたいな事?


「何を?」

「これを見よ、恭一郎」


 スヴェさんはすっと、うどんの皿を指差した。


「えっと、それが何?」

「まだソースが残っておろう?」

「あ、うん」

「このまま食べようかとも思ったが……やはりトーストをもう一枚用意せよ」

「そんなのは悩まんでいいから、さっさとハッキリしとけ!」

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