第26話 カラオケ②
結局、放課後まで俺とスヴェさんは二人きりになれなかった。
転校生、しかも外国からの留学生……まあ本当は異世界からの留学生なんだが、そのもの珍しさが手伝ってか、常に誰かがスヴェさんの側にいた。
授業が終わり、部活動に参加する生徒を除いた約10人程度が、カラオケに移動した。
すぐに曲を入れる者はおらず、まずはドリンクバーと簡単な食べ物を注文し、雑談が始まった。
「ふむ、このポテトとかいう奴美味いな。いくらでも食せる」
「えーっ? ポテトなんてどこでもあるでしょう?」
「妾の住むブラジルには無かった」
「ははは、スヴェさん面白ーい」
「ん? 妾が何か変な事申したか?」
どうやら今朝の『ブラジリアンジョーク』の効果か、ポテト食ったことない、も冗談だと処理されたようだ。
スヴェさんは1日にして、美人天然キャラとしての属性を確立し、女生徒たちの人気者になっていた。
まあ、すんなりと溶け込めたのは良いとして……なんだろうこの感じ。
自宅に招いた友人に、飼い猫が妙に懐いているような、そんな寂しさだ。
男子生徒の多くは、そんな美人天然キャラに直接話し掛けるのが躊躇われるのか、俺の周りに集まっていた。
そして偶然にも、女生徒の一人と男子生徒の一人の質問が被った。
「ねぇ、スヴェさんって彼氏とかいるの?」
「なあ、スヴェさんって恋人とかいそう?」
「あ、質問被ってるー!」
スヴェさんは、楽しげにするクラスメートをきょとんとした表情で眺めたのち、俺の方を向いた。
「彼氏……恋人か。おらぬなぁ」
「えー! いそうだけど」
「妾は恭一郎と結婚したいのじゃが、まだ色よい返事を貰っておらぬ」
「えー! こんな美人から告白されて返事しないなんて図々しい!」
「ふふ、もっと言ってやってくれ」
嫌な流れになったな……。
俺が曖昧に笑顔を浮かべ誤魔化していると、さらに女子の一人が追撃した。
「ねぇねぇ、恭一郎くんのどこが好きなの?」
「恭一郎が好き、というか恭一郎が作る飯が好きじゃ」
「ちょ、食べ物目当て、ウケる」
冗談だと思うだろ?
マジなんだぜ。
「ねぇ、そろそろ歌わない?」
この流れを断ち切るため、俺はみんなに提案した。
「あ、私歌いたい!」
女子の1人が曲を入れ、歌い始めた。
先陣を切っただけあり結構上手い。
その間に、他の女子たちも次々曲を入れていく。
最初の一人が歌い終わると、得点が表示された。
「92点かぁ、自己ベストにはだいぶ届かなかったな」
「ほう、得点が出るのか」
「そうだよー」
「ふむ、これは妾も挑戦せねばならぬな……ただ、曲を知らぬ」
「あ、じゃあこれ歌って欲しいかも! 聴いてみて!」
女生徒の一人がスマホで動画を再生しつつ、イヤホンをスヴェさんの耳に装着……しようとして。
「ひゃん」
スヴェさんが声を上げる。
「な、何?」
「すまぬ、妾はちと耳が敏感でな」
「そうなんだー」
「うむ。だというのに恭一郎ときたら……」
「あっ! スヴェさんそろそろ飲み物おかわりしないと! 一緒に行こう!」
半ば強引にスヴェさんの手を引っ張り、外に連れ出した。
「スヴェさん、あまり家での事は言わないで」
「ふふふ、わかった。でも妾がやめてと言ったのに、続けた恭一郎が悪いんじゃぞ?」
ぐぬぬ、それはそうなんだが。
ドリンクを注ぎながら、スヴェさんに注意する。
「もし歌うとしても、【スキル】は使わないでよ?」
「ふっ、妾を何だと思っておる。そんなものに頼らずとも高得点を取ってみせようぞ」
やっと言いたい事が言え、ホッとしながら部屋に戻る。
スヴェさんは改めてイヤホンを借り、動画を見ていた。
しばらくして――スヴェさんが言った。
「ふふふ、完全に覚えた」
「本当? じゃあ次歌ってよ」
「よかろう」
スヴェさんはマイクを握ると、俺に向かって言った。
「恭一郎、これで妾が100点を取ったら、大人しく結婚せい」
何だそれは。
「良いじゃん良いじゃん!」
「おもしれー」
生徒たちも囃し立てる。
何か断りにくい雰囲気が形成される中、スヴェさんはニヤリと挑発的に笑った。
何かを企んでいる、そんな表情……あっ。
よく考えたら、【スキル】を使われたとしても、俺にはわからなくね?
もしかしたら、曲を完璧に歌えるとか?
俺が思っている中、スヴェさんの歌声が部屋に響き始める――そして。
85点。
「あんだけ自信満々だったのに、めっちゃ普通ー」
「おかしいのぅ……これ、壊れてないか?」
めっちゃ普通だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます