第25話 カラオケ①

 1時間目の授業は英語だった。

 スヴェさんが教師に指名され音読すると、クラスから拍手が起きた。

 満更でもなさそうだった。


 休み時間を迎えると、スヴェさんの周りには人集りが出来ていた。


「ねぇ、スヴェスさんって、何か芸能の仕事とかしてるの!?」

「いんや、最近は恭一郎の家で食っちゃ寝しとる。あと皆の者、妾の事はスヴェさんと呼ぶが良い」

「話し方ウケんだけど!」

「時代劇を見て日本語を学んだからのう、どうやら偏っておるみたいじゃ」


 事前の打ち合わせ通りに説明するスヴェさんを見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 一方、俺は男共から追及を受けていた。


「お前、なんであんな可愛い娘と一緒に住んでるんだよ!」

「じーちゃんが拾って来たんだよ」

「変な嘘つくな!」


 まあ、そうなるよね。

 俺が適当にあしらっていると、女子の一人が提案した。


「ねぇねぇ、スヴェさんの歓迎会しない?」

「あー、良いかも! カラオケとかどう?」

「カラオケとはなんじゃ?」


 翻訳魔法でもわからなかったのか、スヴェさんが女生徒に聞く。

 まあ、元々異世界にはないだろうしな、カラオケ。


「えっ! カラオケ知らないの? みんなで好きな歌唄ったりする所だよ!」

「ほう、祭りのようなものか?」

「それはちょっと大袈裟だけど、めっちゃ楽しいよ!」

「なるほど、楽しいならば行かぬ、という選択肢は無いのう」

「おっけー! 参加できる人は放課後参加で!」


 止める間もなく、カラオケ行きが決まってしまった。

 そこで俺は思い出してしまった。


『来訪者の中には、歌手なんかもいる――』という、灘さんの発言を。


 いや、これマズくないか?

 もしかして、スヴェさんがスキルで人智を超えたような歌声を披露したりしないか?

 それでクラスメートが動画とかアップして、変にバズってしまうとか。

 いや、我ながら考え過ぎだとは思うけど。


 俺が思考を巡らせている間に、2時間目の授業が始まってしまった。

 俺は隣のスヴェさんに、コッソリ話し掛けた。


「スヴェさん」

「ん?」

「スヴェさんって、なんか歌に関するスキル持ってたりしない?」

「? 持っとるが」

「どんな?」

「【死へのいざないの唄】じゃ。全て歌い切ると、聴いた相手は死ぬ」

「ちょ、それ絶対歌っちゃダメ!」

「心配するな、決まった歌詞で、何より三十分はかかる。そんなものに頼らずとも妾は最強じゃ」

「他には!?」

「まあ、いくつかあるが」

「いくつもあるの!? 他には!」


 俺が聞き出そうとすると……。


「おーい恭一郎、私語はやめろよー!」


 先生に注意されてしまった。

 クラスメートからクスクスと笑いが漏れる。


 ……今の俺は、もしかしたら訪れるかも知れない破局から、君たちを守ろうとしているのだが?

 まあ、取りあえず休み時間まで待つか……。


 2時間目が終わり、次の授業までの間に聞こうとしたが、やはり人集りのせいで聞けず。

 3時間目の授業が開始。

 よし、ここでこっそりと聞こう。


「ねぇ、スヴェさん……」

「こら恭一郎。さっき注意されたのを忘れたか? 授業中の私語は厳禁じゃ」


 この魔王真面目!



◇◆◇◆◇◆◇◆


 昼休み、ここならゆっくり聞けるだろう。

 そう思ってスヴェさんに聞こうとするも。


「スヴェさーん! 一緒にお昼しよう!」

「うむ、親睦を深めようではないか」

「あ、お弁当? じゃあそれ持って一緒に中庭で食べよ!」


 女子達に誘われ、スヴェさんが連れて行かれる。

 ヤバい。


「ちょ、スヴェさんちょっと話が」

「ん? あとにせい。なんなら家でも構わぬだろう?」


 スヴェさんはそのまま、俺が作った弁当を胸に抱え、女子たちと移動しようとする。


「いや、ちょっと待ってってば」


 俺が呼び止めると、スヴェさんは振り返りつつ、溜め息をつきながら言った。


「こら恭一郎。少しは妾離れいたせ」

「あはははは、妾離れとかウケる」


 スヴェさんの言葉に、周囲から笑いが起きる。

 ぐぬぬ。

 なんだその奇っ怪な用語は。


 結局スヴェさんは、そのままみんなと一緒に教室をあとにした。


 

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