第22話 チートスキル

 帰宅後、じーちゃんに寿司を渡し俺は自分の部屋に戻った。

 今日出された宿題は数学だ。

 数学はあまり得意では無いが、教科書を見ながら何とか問題を解いていると……。

 バタン、と音を立てながらドアが開かれた。


「恭一郎、今宵はまた髪を洗ってくれ。自分で洗うのはちと面倒でのぅ」


 スヴェさんが俺の部屋に入って来る。


「えー。やだよ」


 本当はね?

 本当はもちろんウェルカムなんだけど。

 やっぱりその、無垢な女の子の肌を見るのは罪悪感というかね。


「ふむ。で、恭一郎は何をやってるんじゃ?」

「宿題だよ。結構量があるから」

「どれ、妾に見せてみい」


 スヴェさんが、ちょうど俺が詰まっている問題を見る。

 彼女はパッと問題を眺め、教科書と見比べると、式の一部を指差しながら言った。


「ここに、この公式を当てはめるのではないか?」

「えっ?」


 彼女が言った通り式を当てはめると……解けた。


「えっ? スヴェさん、勉強得意なの?」

「まあ、魔界で英才教育は受けておるが……これは初めて見る問題じゃな。ただ、スキルと翻訳魔法の効果でなんとなくわかる」


 す、すげぇ。

 これ、チートスキルって奴じゃないか?


「じゃ、じゃあこの問題は?」

「ふむ。問題単体だと意味がわからんな。これを解説しているテキストは無いのか?」

「えっと、これなんだけど」


 教科書の、該当の問題を解説している部分を開く。


「ああ、なら答えは−3/8じゃな」


 計算してみると……あってる。

 こわ。


「スヴェさん、九九とかは?」

「くくってなんじゃ?」


 九九は知らないんかい。


 ……しかし、灘さんが言ってた「スキル持ちは重宝される」というのもわかる気がする。

 スヴェさんは教科書をパラパラとめくりながら、ふんふんと頷いている。


「しかし人間の学問は高度で、面白いな。よし決めた!」

「何を?」


 あまりいい予感はしないが、一応聞いてみる。


「妾も、恭一郎と共に学校に通うぞ!」

「やめて」



◇◆◇◆◇◆



「……などと申しているのですが」

「んー。正直言えば引きこもってて欲しいけど。手続きはできるわ」


 灘さんに念の為確認の電話を入れると、入学自体はどうやらできるようだ。


「でも、なんか、マズく無いですかね?」

「心配はわかるけど。来訪者って意外と人間社会に溶け込んでるのよ。守秘義務があるから言えないんだけど、有名な歌手とかね」

「そ、そうなんですか……」

「スキルって強力だからねー」


 その凄さは、さっきまざまざと見せつけられたばかりだが。


「ただ、すぐ通うってのも問題だから、数週間、場合によっては数ヶ月は準備して欲しいのよね……そうだ、これからちょっとそちらにお伺いしてもいい?」

「あ、はい、それは」

「じゃあ、大体三十分後には行けると思うから待っててね」


 電話を切り、灘さんとのやり取りをスヴェさんに伝える。

 魔王様はやや不服な様子だった。


「うーむ。妾はすぐにでも通いたいのじゃが」

「ワガママ言わないでよ」


 スヴェさんを宥めていると、家のチャイムが鳴った。

 早いな。


「はーい」


 玄関を開けると、灘さんと……もう一人男の人が立っていた。


「こんばんは、恭一郎くん」

「こんばんは、わざわざすみません……えっと、こちらの方は?」

「うん、田辺さんって言うの。元高校教師なの。力になれると思うわ」

「田辺です。君が恭一郎くん? よろしくね」


 おお、元教師。

 確かにこれは力強いな。


「よろしくお願いします。元、ってことは今はその……特対って奴に?」

「うん、違法なアイテム売買や、教え子に手を出そうとしたのがバレて、私の友人にフルボッコにされたのよ」

「ちょ、灘さんそれ言わなくても……」


 前言撤回。

 不安しかない。

 俺の不安を察したのか、田辺(呼び捨て)は慌てて取り繕った。


「大丈夫! 今は完璧に改心したから!」


 ほんとにぃ?

 なんか不安しかないぞ……。


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