第21話 回転寿司②
さて、気を取り直して入店。
食事時は並びも出る人気店ハマろーだが、まだ十六時半という事もあり店内は閑散としていた。
「ほう、ここがお主の言う寿司屋、か」
「いわゆる大衆店だけどね」
「ふむ、ならば味はそこまで期待できぬか」
「そんなことないよ。ハマろーに限らずチェーン店が安価に商品を提供できるのは、大量仕入れと効率化された流通網とか色々理由はあるからね」
「ふむ。ちなみに寿司とはなんじゃ?」
「おにぎりにちょっと似てるかな? だけど、俺が一番好きな料理だよ。早速頼もうか」
テーブルに設置されてある注文用のタブレットを持ち上げ、『フェア』の欄をタップする。
色々オススメが並ぶ中、一つの商品が目に止まった。
「あ、スヴェさんこれ見て」
「ん?」
「これ、カツオ。ほら、鰹節の話をしただろ? あれの元になってるヤツ」
「ほう、そのままでも食えるのか」
「うん、食べてみる?」
「うむ」
じーちゃんも「今年のカツオは旨い!」って言ってたな。
よし、二皿注文しよう。
他にあおさの味噌汁も注文し、お茶を淹れる。
「ほう、そこから湯が出るのか」
「うん、便利だろ?」
お茶を淹れ終わったタイミングで「間もなく商品が届きます」とアナウンスが流れる。
ベルトコンベアが稼働し、寿司が届いた。
「な、なんじゃこれは」
「早いでしょ?」
「それもあるが……自動で商品が届くとは」
「ふふふ、これが我が国の誇る技術ですよ」
「……で、回転は?」
「ん?」
「別に、回転はしておらぬではないか」
「ああ、昔は回ってたんだよ。今は注文して届くスタイルだね」
「おかしいじゃろう、ならば『回転してた寿司』じゃろ」
「寿司は握りたてが一番だから、早速食べよう」
「うむ」
「ちょっと待ってね」
俺がハマろーの好きな点は、醤油が選べる所だ。
取りあえず今回は、オーソドックスな「出汁醤油」をチョイス。
スヴェさんと俺の分、それぞれにチョチョイと振りかける。
「なんじゃ、この黒い水は」
「醤油だよ、あー、焼きおにぎりとかに塗ってた奴。俺達の国の料理、和食って言うんだけど、基本の調味料だね」
「ふむ。ではあの塩味はこれか」
「そそ。んじゃいただきまーす」
パクリ。
うん、やっぱり旨いなぁ寿司は。
このカツオ、脂も乗ってるのにくどくない。
カツオが持つ爽やかな酸味と、上に乗った生姜が相まって最高だ。
俺が食べているのを、なぜかスヴェさんはじっと見ている。
「ん? 食べないの?」
「いや、これ生じゃろ? 妾は血の味があまり好きではない」
魔王装束の時は、血を吸う悪魔みたいな姿のクセに。
「ちゃんと血抜きの処理をしてるから、大丈夫だよ」
「そうか、しかし拍子抜けだな。ただ切った魚を米の上に乗せただけ、とはな」
ブツブツ文句言いながら、スヴェさんが寿司を口に運ぶ。
しばらく「モグモグ」と咀嚼していたが……ゴクンと飲み込むと、スヴェさんは黙りこくった。
「どう?」
「なんじゃこれは……美味すぎるぞ……」
「でしょ?」
「うむ。この上に乗っている魚と米のバランスといい、噛む事に交わり合う味といい、全てが計算されているように感じる……これが……寿司……恐ろしい料理じゃ」
「ふふふ、そうでしょそうでしょ」
しかし、寿司を食ったらあの翻訳魔法の暴走が起きるかと思ったけど。
あれはあの時だけなのかな。
次に味噌汁が届く。
味が濃かったら、お茶用のお湯で薄めるという裏技を披露しつつ、スヴェさんと俺は寿司を食いまくった。
「この炙りチーズサーモンとやらも美味い!」
「でしょ?」
「このエンガワとかいう奴は、コリコリじゅわーじゃ!」
「うんうん」
「おお、このトロとかいう奴、噛まずとも良いぞ……もう一皿頼むのじゃ、恭一郎!」
「ちょっと高いから、もう一皿だけね」
あらかた寿司を食べ終わり、デザートへ。
「この、ミルフィーユとかいう奴、べらぼうに美味いではないか……」
スイーツを食べて幸せそうに微笑む姿は、魔王と言えど年頃の女の子に見える。
話し方はちょっとおっさんみたいだけど。
べらぼうて。
そしてじーちゃんのお土産分も注文し、お会計へ。
……安さが自慢の回転寿司ではあるが、そこそこの料金が発生していた。
◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、美味かったのう」
帰り道、スヴェさんは満足そうに腹をさすった。
仕草もちょっとおっさん臭いな。
「しかし、シンプルながらあの味わい。衝撃的じゃったわ」
「どれが美味かった?」
「うむ。一つに絞るのはちと難しいが……あえて決めるとするならば、そうじゃな……」
スヴェさんは額に指を当て、目を閉じて考え込んでいたが……やがて何かに気付いたように、ふっと目を開いた。
「どれも衝撃的じゃったが……恭一郎が妾の為に握ってくれたおにぎりを食べた時の衝撃には、どれもちと敵わんかな」
そう言って、嬉しそうに笑った。
……。
も、もう、この魔王ったらー!
飼い主の喜ばせ方わかってるんだからー!
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