第20話 回転寿司①

 結局昼メシは食いそびれた。

 スヴェさんには帰りに美味しいものを食べる事を条件に、一度帰って貰い、ねーちゃんの服に着替えてから来て貰うという流れに。

 その椅子を開放してあげて、と頼むと、狐先輩からは感謝された。


 じーちゃんに電話をして、夜ご飯は寿司を買って帰る事に。

 俺は先に店で食うけど。

 お店は庶民の味方、俺の大好きなハマろーだ。


 放課後、同じ高校に通っていたねーちゃんの遺物をタンスから発掘したらしく、スヴェさんはウチの制服姿で現れた。


「どうじゃ、この格好!」

「うん、似合ってるよ」

「ふふ、そうであろう」


 確かにスヴェさんは外見だけは良いので、クソ似合っていた。

 アニメに登場する、美人外国人留学生って感じだ。


「ただこの服、胸がちと苦しいのぅ」

「うん、それはあまり言わないであげて」

 

 着替えて来たスヴェさんと共にお店に向かうと……お店の前で、二人組の女子高生に話しかけられた。


「あの、すみません! その方、モデルさんか何かですか!?」

「あ、いや違います」

「あの、写真とか撮っちゃマズいですか?」

「あー、うん。SNSに上げられたりはちょっと」

「あ、そうですよね、すみません」


 失礼しました、と女子高生が立ち去ろうとすると、スヴェさんが今のやり取りについて聞いて来た。


「なんの話じゃ?」

「いや、スヴェさんの事を写真に撮りたいって」

「ふむ、写真とは翻訳魔法によると、精巧な肖像画のような物か。そこなおなご、なぜ妾の写真を撮りたいのじゃ?」


 話の水を向けられた女子高生は「そ、そこな?」とツッコミつつ、あの、えっと、と慌てながら理由を言った。


「見たことも無いくらい美人だったので、ヤバいと思って。この辺、外国の人珍しいし……」

「ふむ。つまり妾の美しさを後世に残したい、と?」

「わ、わらわ? こうせい?」


 スヴェさんの言葉に、女子高生たちは戸惑っていた。


「あ、ごめんねこの人、時代劇で日本語勉強したらしくて」

「そうなんですか?」

「良かろう、好きなだけ写真とやらを撮るが良い!」


 俺が説明していると、スヴェさんが突然許可を出した。


「ちょ、スヴェさん!」

「なんじゃ」

「ダメだって!」

「なぜじゃ?」


 ……まあ、なぜと言われると。

 地味に困るな。


「ふっ、確かに妾の美しさを独占したいという気持ちはわからんでもないがな。全く、恭一郎はい奴よのう」

「違っ……」

「ははは、本当にお侍さんみたいな話し方、ウケるんだけど。じゃあ良いですか?」

「うむ」

「じゃあ、一緒に撮りたいんで……お願いしても良いですか?」

「えっ?」


 有無を言わせて貰えず、女子高生にスマホを渡された。

 仕方なく、スリーショットを何枚か撮る。


「はい」

「ありがとう」

「SNSにアップしないでね」

「うん、わかった」


 まあ、個人的にって事なら……と俺が油断していると。


「SNSとはなんじゃ?」

「えっ、知らないんですか?」

「うむ、この国の文化には疎くてのう」

「マジで? えっと、沢山の人に今の写真を見てもらう方法なんですよ」

「おお、妾の美しさを広める、という事か。良かろう、どんどんやれ」

「本当に!? うわヤバい、嬉しい!」


 女子高生は早速スマホを操作し始めた。


「ちょちょちょちょちょーッ!」

「なんじゃ恭一郎、奇声を上げて」

「ダメだって!」

「ダメじゃない。妾の姿を広める許可を与えるべきは、妾じゃ」

「そーだそーだ!」


 クソ! 正論言いやがって!

 知らない女子高生たちも加勢し、分が悪い。

 ……まあ、まさかこれがバズったりしないだろうけどさ。



 その後、連絡先を聞いてくる女子高生たちを何とか撃退して、寿司屋に入店する。


 飯食う前に、疲れたよ……。


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