第18話 タバコ

「取りあえず、出飛ぶのも禁止! あと家を守るとか言ってたけどあれは嘘かよ!」

「見損なうでない、妾は嘘などつかぬ。ちゃんと守っておるぞ?」

学校ここにいるのに、どうやって!」

「ほれ」


 スヴェさんが手を振ると、空中にモニターのような物が出現した。

 画面? にはウチの庭が映し出さている。

 だって……庭に、三メートルくらいの土の巨人が鎮座しているんだもん。


「戦闘用ゴーレム『ジェノサイド君』じゃ。悪しき心を持つ侵入者と判定したら、ワンパンで肉塊へと変えてくれよう」

「うわぁあああ! すぐに撤去しろぉおおっ!」

「なんじゃ、せっかく創ったというのに。まあ壊すのは勿体ないから、取りあえず機能だけは停止してやろう」


 画面内の土の巨人の目から、光点が消える。

 どうやら機能が停止? したみたいだ。


「全く、じーちゃんになんて説明すれば」

「清一郎どのなら、『おお、格好ええのう』と言うておったが」


 じーちゃん……。

 物事に動じな過ぎだよ。


「で、家に戻る気は?」

「ない。妾は散策しまくりたい」

「はあ……とにかく、出てきちゃったもんはしょーがないから、その【隠蔽】とやら使って、あんまり目立たないでね? 俺は授業に戻るから」

「ふっ、妾はただ在るだけで耳目を引きつけるからのう。それは約束できんなぁ」

「せめて、せめて魔法は使わないで。あと魔王だって名乗っちゃだめよ?」

「ふむ……まあよかろう。ところで恭一郎、妾を少し案内してくれぬか?」

「ダメだよ!」

「なぜじゃ?」

「授業をサボる事になるだろ」

「サボれば良いではないか」

「絶対ダメなの!」

「ほう。人間の学生は授業をサボったらダメなのか」

「そうだよ! じゃあ、俺は教室に戻るから」

「うむ。勉学に励めよ?」

「わかってるよ!」


 スヴェさんから譲歩を引き出し、教室に戻る事にする。

 とても不安だが……。


 校舎に戻ると、ちょうど5人組の集団に出くわした。

 今時珍しいヤンキーたちだ。


「おうおう優等生の恭一郎くん、サボりか? 珍しいな」

「あー、そんなんじゃないです。ちょっと急いでますんで、すみません」


 5人組で一番気が弱いと噂の先輩が絡んできた。

 まあ百キロオーバーで図体だけはデカいので、それなりにパワーはありそうだが。


「おい、そんな奴に構うな。いくぞ」

「あっ、はい。いいか恭一郎、ちょっと武術だか何だか齧ってるかしらねーけど、調子に乗るなよ?」

「はい」


 番長(笑)の毒島先輩が、虎の威を借る狐くんを嗜める。

 狐くんの注意に素直に返事をすると、彼らは屋上に向かっていった。


 めんどくさいなぁ、もう。

 そのまま教室に戻ると……。


「おっ、恭一郎長かったな! うんこか!?」

「そうだよ、いっぱい出た」

「ははははは」


 何が楽しいんだよ、もう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「毒島さん、いいんですか? アイツのあの態度」

「別に。文句あるなら山下、お前がやれば?」

「あー、いや、その。なんか毒島さんよりアイツの方が強い、とか言う奴もいるし」

「言わせとけよ、そんなん。それともお前、自分でやる度胸も無いのに、俺にけしかけてんの?」

「そ、そーいう訳じゃ」

「じゃあ黙ってろ」

「はい……」


 実際、そういった噂が流れているのは毒島も知っていた。

 ただ、万が一恭一郎をシメようとして返り討ちにでも遭おうもんなら、この学校での立場は崩壊する。

 そんなリスクを冒す必要はない。


 屋上で5人、タバコを吹かしていると……。


「お主ら、何をサボっておるのじゃ」

「ああん? うるせ……ぇ?」


 突然声を掛けられた。

 珍妙な姿をした女だ。

 革製のセクシーな服に身を包み、頭には角が生えている。


「人間の学生は授業をサボってはいかんのだろう?」

「いや、あんた誰?」

「ふっ、妾は魔……っと、スヴェス=マルジューム=ガーニーじゃ。スヴェさんと呼ぶがいい」


 なんだこの頭がおかしい女……。

 毒島が混乱していると、山下が女に食ってかかった。


「ああん? 何だお前、変なカッコしやがって! 俺達が授業サボっても、お前に関係ねーだろ!」

「ゴホッ、その臭い煙を発する物を消せ。不愉快じゃ」

「はぁぁぁ? うるせぇよ」


 山下はタバコをすーっと吸い込み、女の顔に煙を吹きかけた。

 ――次の瞬間。


「い、いだだだだだだっ!」


 奇妙な光景だった。

 女は身長170cmほどで、細身。

 にもかかわらず、身長180cm、体重100kgオーバーの山下を、ヒョイっと首を掴み片手で持ち上げてしまったのだ。


「遺言を言え。家族に伝わるように計らってやろう」

「いだだだだっ! 首、首がもげる!」

「ほう、首がもげる、と伝えれば良いか?」

「ち、違う、す、すいませんでした! 許して下さい!」

「ふむ」


 女が手を離すと、山下がドサッと地面に落ちた。


「まあ良かろう。あまりやり過ぎると恭一郎が怒りそうじゃからな」


 恭一郎?

 この女、あいつの知り合い、か?


 毒島が考えていると、女はこちらを向いた。


「お主ら……聞こえなかったのか?」

「えっと、何、を」


 答えながら、声が震えるのを自覚していると……女はゴミでも見るような視線で、冷たく命じて来た。


「その不愉快な煙が発する代物を……消せ」

「は、はい」


 四人は慌てて、タバコの火を消した。


 



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