第17話 ピザトーストと登校と
「すき焼きは、二日目のネギを食べる料理だ」なんて言葉があるらしい。
そんなの知った事ではない。
俺は一日目の肉が最高に好きだ。
というわけで、鍋に何も残さず迎えた朝。
今朝はピザトーストでも作ろう。
スヴェさんが週末に来て、明けて今日は学校だからな。
忙しい朝は手抜き料理だ。
ケチャップに少量のニンニク、マヨネーズを入れる。
かき混ぜてパンに塗り、とろけるチーズ、スライスしたサラミ、玉ねぎをトッピングして、トースターで焼く。
たったこれだけでぇー?
ピザトーストの完成だ!
カフェオレと一緒に居間に運び、取りあえず一度トイレに。
用を足して戻って来ると……。
「恭一郎、おはよう。これは旨いのぉ。この飲み物も妾好みじゃ」
スヴェさんが俺のピザトーストとカフェオレを飲み食いしてた。
「あーっ! 俺の朝メシが!」
「おお、お主のじゃったのか。てっきり妾の為に用意された物だと思っとったわ」
「もー、時間ないのに!」
「ん? まだ朝じゃろう?」
「俺は学校があるの! って……」
よく見ると、スヴェさんの角が片方変な方向を向いていた。
「スヴェさん、なんか角が明後日の方を向いているんだけど……?」
スヴェさんが一瞬ピクリと反応した、と思ったら……。
やがてその顔は見る見る朱に染まり、俺の視界を防ぐように、手のひらを向けて言った。
「ヤダっ! 寝癖恥ずかしい……恭一郎、見てはダメじゃ!」
角が寝癖ってなんだよ。
まあ、元が髪だからか……?
スヴェさんはそのまま、居間を逃げるように立ち去った。
変な事で時間を使ってしまった。
半分残ったピザトーストを噛り、カフェオレで流し込む。
ああ、もうちょっとゆっくり食べたかったんだが。
ちょっとしてスヴェさんが戻ってきた。
「どうじゃ恭一郎! この角なら文句あるまい!」
スヴェさんが寝癖を直した角を見せてくる。
いや、文句なんて元々無いんだけど。
「うん、いい感じだと思うよ」
「ふふーん、そうであろう」
「あとスヴェさん、俺は今日学校があるから……帰ってくるまであまり出歩かないで欲しいんだよね」
「ふむ、なぜじゃ?」
「なんかしそうだから」
「失礼な。妾は魔王じゃぞ?」
だからだよ。
「出歩いたら、今日のご飯無しね」
「ふっ。それは困る!」
素直だな。
「本当はもう少し色々言ってからにしたい所だけど、時間もギリギリだし、本当に頼むね?」
「ふっ、任せておけ。この家は妾がしっかりと守って見せよう」
不安だ。
不安しかないけど、行かなきゃ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよう!」
「おっす恭一郎!」
学校につき、学友たちと挨拶。
うん、魔王が同居する生活から、日常に復帰したという感覚がある。
「恭一郎くん! 今日こそ首を縦に振って貰えるまでここを動かんぞ!」
手を広げて行く手を阻む柔道部主将を……。
「エイッ!」
「うわぁあああああっ!」
ケガしないように投げつつ、道を開ける。
次に待ってたのは、剣道部主将だ。
「恭一郎! 頼む、次の大会だけでも!」
「だからダメだって、本当は技を他人に見せちゃだめなんだって、ウチの流派」
ホームルームが始まる前、いつもどおり柔道部の先輩からしつこく勧誘され、剣道部の主将から次の大会だけでも、と頼みこまれ、それを断るのも日常である。
着席し、ホームルームまでの時間をボーっと待って過ごそうとしていると、窓側にいる隣の席の女子から話掛けられた。
「台風やばくなかった?」
「やばかったよ、うち、じーちゃんが田んぼが気になるとか言って外に出ちゃうし」
「あー、そういうの止めないとね、何があるかわかんないもんね」
うん、あの時止める事が出来てたら……。
俺の日常は変わらなかったかも知れないな。
――と。
女子の背景、つまり窓の外をフワフワと通り過ぎる物体が目に入った。
ここは三階なのに、だ。
その物体は人に見えた。
頭に角が生えている。
ソイツは何かを探すように、キョロキョロと見回していたが――俺と目が合うと、パタパタと手を振った。
「はーい、始めるわよー」
同じタイミングでちょうど先生が入室し、ホームルームの開始を宣言する。
「先生! すみませんトイレッ!」
俺は注目を集めるために声を上げ、返事を待たず教室を飛び出した。
そのまま校舎の外に出て、下から叫ぶ。
「スヴェさーん!」
俺が呼ぶと、スヴェさんは空中からスイッーと降りて来た。
「なんじゃ恭一郎。お主がちゃんと勉学に励んているか見てやろうと思ったのに」
「あんたは間違いなく見られる側だよ!」
「失礼な。恭一郎以外には見えぬよう【隠蔽】のスキルを使用しておる。だから今も、お主は独り言を言ってるアブナイ奴にしか見えぬよ」
「それも困るんだよ! 大体出歩いたらメシ抜きって言ったろ!?」
「ふっ、恭一郎。妾は出歩いてなどおらぬ」
「どの口が……!」
「出飛んでおるのじゃ」
コイツうるせぇな!
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