第10話 ぴこん

「その魔王がね、私を見た瞬間『犯し抜いて、生まれてきた事を後悔させてやる……いや、女に生まれた事を神に感謝するかもな? ガッハッハッハッラ』って言ってきたのよ、マジでカスでしょ?」

「魔王の風上にもおけん奴だな。一緒にされたくないのう」


 灘さんとスヴェさんはあのあと、異世界談義に花を咲かせていた。

 いやぁ、バトルにならなくて何よりだ。

 平和が一番。

 話の中身はカスみたいな内容だけど。


「おーい恭一郎。台所に来てくれー!」

「あ、はーい!」


 俺を呼ぶじーちゃんの声に従い、台所に行く。

 昼メシの準備をする、と言っていたが……泥抜きにも言及してたし、材料はもちろん……。


「恭一郎、渡辺さんから貰ったウナギを捌いておいた。あと、米も浸水完了じゃ。あとは任せてええか?」

「うん、いいよ」

「脂の乗ったええウナギじゃ、炭火で食いたいの」

「任せて」


 ここまでやって続きを俺にやらせるのは、昔の名残りだ。

 ウナギを捌くのはじーちゃん、焼くのはばーちゃんだったなぁ。


 まず最初にやるのは……ウナギの頭と骨を焼く。

 ここはちょっと手抜きして、ガスコンロを使用。


 香ばしい匂いがしてくる中、みりんと酒を鍋に用意して火にかけ、ウナギに串を打っていく。


 ウナギの頭や骨が焼けたら鍋に投入。

 砂糖と醤油をプラスし、弱火で煮詰めていく。

 ある程度煮詰まったら完成。

 少し冷ます間に米を炊きつつ、空いたコンロで炭を焼く。


「じーちゃん、タイマーなったら土鍋の火を消してくれない? 俺はウナギを焼いてくるから」

「うむ」


 庭に焼けた炭、串打ちしたウナギとタレを運ぶ。

 七輪に焼いた炭と、まだ使ってない炭を入れる。

 炭が炎を上げ始めたら、まずはウナギを軽く白焼きにしてから、タレに浸し、さらに焼いて……。


 よし、焼きは完成!

 あー、この匂いたまらんなぁ。


 台所に運び串を抜き、食べやすい大きさにカット。

 炊きたてご飯をよそい、ウナギの旨味や脂が溶け込んだタレをふりかけ、その上に切ったウナギを乗せ、さらにタレを追加!


 たったこれだけでぇー?


 自家製鰻丼完成だぁ!


 鰻丼四つを、居間に運ぶと……。


「やはり、魔王などとは分かり合えないかも知れませんねぇ?」

「ほほう、奇遇じゃな。妾もそう思っておった所じゃよ」


 俺がいない間に、二人がまた険悪になってる……。


「はっはっは、仲良く話している所すまんが飯にしよう。恭一郎が焼いたウナギじゃ! 旨いぞぉ!」


 じーちゃんは相変わらず空気を読まないが……それがありがたい。


「えっ? 私も? いいんですか?」


 灘さんは驚いた様子で聞いてきた。

 じーちゃんはニッコリと微笑んで頷く。


「もちろん。むしろ食って貰わんと」

「ありがとうございます。実は夜通し調査してたのでお腹が空いてたんです、それに、これは……すっごくいい匂い……」


 灘さんはゴクリと唾を飲み込んだあと「いただきます」と手を合わせてから箸を持った。

 そのままウナギをパクリと一口食べると……それが呼び水となったのか、すぐにご飯も一口食べてこら、興奮したように言った。


「うわぁ、美味しい、とっても美味しいです!」

「じゃろう?」

「はい、普段食べてるウナギってちょっと柔らかい感じですが、これは表面がパリッとしながら、中からじゅわって旨味が出てきて……タレも凄い美味しいです。このご飯も、普段食べているお米とは別次元というか……感動です」

「お店だと、蒸して柔らかくしてるんですよね。あれも美味しいんですけど、俺やじーちゃんはこのパリッとした焼き上がりが好きなんですよ」

「うむ、ワシはヤッパリこのパリッとしているのが好きじゃ」


 じーちゃんに続き、俺も一口食べる。

 うん、我ながらいい焼き加減だ。

 やっぱウナギってうめーよなぁ。


 ――と。


 スヴェさんはウナギをじっと見ながら、何かに耐えているような表情をしている。

 なんか、お預けくらってるペットみたいな感じだ。


「スヴェさん、どうしたの? ……あ、さっきおにぎり食べたばっかりだから食べれない?」

「いや、確かに腹はまだ減っておらん。だが、唾凄い、凄いんじゃあ。食べたくて仕方ないんじゃあ……」

「だったら」

「でも妾、これ、使えないし……」


 そう言うとスヴェさんは、箸を持って残念そうな表情を浮かべた。

 あ、そうか。


「ごめんごめん、ちょっと待ってて」


 スプーンを用意し、スヴェさんに渡すと……スヴェさんの表情がぱぁあああと輝いた。


「妾、これなら食べれる、食べれるぞ!」

「下のご飯と一緒に食べると美味しいよ」

「うむ!」


 スヴェさんはスプーンを使い、一口鰻丼状態にしてから口に運ぶ。


「う、美味ぁ……なんじゃこれ。パリパリ食感から滲み出る旨味と脂……昨日のバターとかいうやつよりもサラッとして上品じゃ。なによりもやはりこの米、このウナギとやらの強い味わいをしっかりと受け止め、まとめ上げておる……やはり米、米は全てを解決する……」


 ふふふ。

 そこに気づくとは、流石は魔王。

 まだ腹が減っていないハズのスヴェさんは、その

ままウナギを食べ進めながら、ボソリと呟いた。


「昨日まで食事なんて単なる義務だったというのに……腹が減っていなくても次を欲するなど、今までの妾からは考えられぬ。まるで恭一郎に、食によって支配されておるかのような心境じゃ」

「ははは、大袈裟な……ペットと飼い主じゃあるまいし」

「フッ。こんな食事ができるなら、ペットも幸せじゃろうなぁ」


 スヴェさんが鰻丼に賛辞を述べていると……。


 『ぴこん』


 ……ぴこん?

 なんか頭の中に、変な音が……。




『絆リンクLV.1が発動しました。あなたは種族:魔族、クラス:魔王、個体識別名:スヴェス=マルジューム=ガーニー(♀)のテイムに成功しました――』

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