第9話 一触即発?
「で、スヴェさんは恐らくその『ナーロッパ世界』の一つで、ラスボスとして設定されていた魔王だろう、というのが我々の想定です」
「妾はそのゲームとやらにおいて、倒される存在として生を受けた、という事じゃな」
「そうなりますね。もちろん、勇者が返り討ちに遭う、という事もあるでしょうが……と、まあこのあたりはあまり本題ではありません。要は我々は貴方がたの存在は空想上のものではなく、実在している、と認識しているわけです」
「なるほどの。で、本題は?」
「貴方がた異世界からやってくる人々を、我々は『来訪者』と呼んでいます。そして我が国では、来訪者には一定の義務に同意していただく代わりに、一定の権利を付与しています」
「面倒くさそうじゃのう」
「簡単ですよ? この国の法律をできる限り守っていただく。その代わりに、この国の住人だと認めます。希望すれば我が国、日本への帰化も可能です」
えっ、日本国籍貰えんの?
他の移民とかに比べたら結構凄い……というか破格とも言える優遇じゃないか?
「なんか……凄いですね」
俺が簡略化した感想を呟くと、灘さんは微笑みながら頷いた。
「来訪者や、私のように異世界に行って帰ってきた人は特別な力を持っているのよ。それこそゲームのキャラクターみたいに、ね。国としてはそれらを有効活用したいの。それこそ世界では、特殊能力の保持者は激しい引き抜き合戦が行われているのよ」
「はぇー……じゃあ灘さんも魔法とか使えるんですか?」
「いくつかね。でも、人前で使うのは基本的に禁止されているのよ」
おお、使えるんだ。
しかもこの人『勇者』だったって事は、スヴェさんとは別の魔王を倒した経験もあるんだよな。
……待てよ。
じゃあもし、スヴェさんが向こうの条件に同意しなかったらどうなるんだ?
「……気に食わんのぉ」
俺の危惧を現実とするかのように、スヴェさんがボソリと呟いた。
それを受けて灘さんは……なんか目が輝いているというか、機嫌良さそうなんだけど?
「あら、ご不満ですか?」
「ああ、不満じゃ。どのような意図で生み出されたかどうかはともかく、妾は魔王じゃ。誰かに
スヴェさんが交渉決裂を匂わせても、灘さんは特に慌てた様子もない……どころか、どこか嬉しそうに見える。
「ですよねー? ぶっちゃけ私も普通の来訪者ならともかく、魔王と交渉なんて、ハナからそんな余地は無いと思ってました♪ だって、私が倒した奴なんてドクズそのものだったし。だけど警察官としては必要なんですよね──ちゃんと伝えた、って建前が」
二人はそれぞれ自分の考えを述べると、剣呑な笑みを浮かべ睨み合った。
……えっ?
何これ、もしかしてバトルが始まる感じ?
いや、ヤベーじゃん。
台風止める奴と、似たような奴を倒した事がある奴が、ここでバトルなんか始めたら、我が家は、つうか俺は無事じゃいられないんじゃ?
「ちょ、ちょっといいですか?」
「なんじゃ? 恭一郎」
「何? 恭一郎くん」
二人の視線が同時にこちらへと向く。
うっ、怖ぁ。
「あの、万が一なんですけど……お二人がここで戦うことになったりしたら、俺も無事じゃいられないと思うんですけど」
俺の危惧に、灘さんはにっこり微笑んで答えてくれた。
「大丈夫、全く心配無用よ」
そ、そうなの?
あ、あれか、なんか漫画とかでよく見る、観戦してるモブが結界で守られる的な、そういう術でもあるのだろうか?
あーいう感じなら、むしろちょっとバトルを見てみたい気も……。
「巻き込まれたら十中八九死ぬと思うけど、ちゃんと蘇生してあげるわ」
心配無用とは!?
『でぇじょうぶだ、蘇生できる』は、ちょっとサイコパスなんだよ!
死ぬ前提とか、今から入れる保険の内容がクソ過ぎる!
「妾は蘇生術は使えんなぁ。今はエリクサーも持っておらんしのう」
「ですって。だから恭一郎くん、私を応援してね?」
「ぬかせ、恭一郎は妾の婿じゃ。例え死すとも妾を応援するに決まっておる」
おらぬ!
全くおらぬでおじゃる!
俺を巻き込まないで!
そんな、運命の婿だっていうなら……そうだ!
「スヴェさん、俺と夫婦になりたいんですよね!?」
「うむ、妾にはそなたが必要じゃ。特に、女神が妾をかような目的で生み出したとなれば看過できぬ。くだらぬ楔を壊す為にも、そなたを我が伴侶とせねばならぬ」
「でもそれなら、国籍必要ですよ!?」
「……なに?」
「国籍が無いと、俺たちの世界というか、少なくとも俺は結婚できないんです! つまり、あなたの婿にはなれません!」
「いや、国の承認なんて不要じゃ。夫婦なんて共におって子を為せば……」
「いやぁ、それは事実上夫婦かも知れませんが、俺は夫婦とは思いません。少なくとも俺が思わないんだから、ダメです!」
「じゃが……」
「あー、さっきは必ずお主を手に入れるとか言ってたのに、妥協するんですね? 魔王の矜持とか言ってたのになー! 残念だなー!」
「むむ、妾を挑発しおって……しかし、一理あると言えばあるか……?」
俺が、この場でのバトルを避けてもらう為のゴリ押し理論を展開していると……。
「クスッ」
灘さんが笑った。
「恭一郎くん、あなた面白いわね。……なんかちょっと、アイツに似てるかも。ねぇ、スヴェさん、私からの提案なんだけど、いい?」
「なんじゃ?」
「しばらく恭一郎くんと過ごしてさ、貴女の矜持を多少曲げても私たちと共存したい、そんなふうに思って貰えたら、さっきの提案受け入れてもらえない?」
「ふむ……まあそのくらいは妥協してやろう。しばし猶予期間、という事じゃな」
「ありがとう。じゃあ恭一郎くん、スヴェさんの事しばらくお世話してあげてくれない?」
えっと、つまり。
コイツの面倒見るの、警察公認で押し付けられた……ってこと?
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