第8話 警察の人

「お邪魔します」


 じーちゃんが連れてきたのは、スーツ姿の女性だった。

 真面目そうなキリッとした美人で、なんとなく緊張してしまう。

 スヴェさんは……俺の頬を擦りながら美人さんをチラッと一瞥したのち、じーちゃんに向かって言った。


「おお来客か、賑やかじゃのう。その前に清一郎どの、恭一郎を妾の婿に迎えても構わんか?」

「そりゃまあ、ワシは構わんが」

「いや、構ってよじーちゃん!」


 俺はスヴェさんの手を引き剥がしながら、じーちゃんに食って掛かった。

 そんな俺にじーちゃんはどこ吹く風といった感じで答えてくる。


「ワシは、と言ったじゃろ? お前がイヤなら断りゃあええ。ただ、こんな別嬪さんを嫁に貰える機会なんて、お前の人生で二度とないぞ?」

「そんなのわかんないだろ!?」

「いや、断言してもええ。二度と、ない」


 真顔で孫を全否定しないで。


「ふふふ、楽しそうなお話をされていますね。私からも、少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」


 全然楽しそうと思ってなさそうな雰囲気で、スーツの女性が会話に入ってきた。

 女性がじーちゃんをチラッと見る。

 

「おお、この人は東京から来た警察の人みたいでなぁ、わざわざ昨日の台風の事を調べに来たらしい。台風を止めた人は家におるよ、と教えたら是非会いたいっていうもんじゃから連れてきたんじゃ」

「始めまして、清一郎さんから道中で聞きました。あなたが恭一郎くんね?」

「あ、はい……」


 警察?

 なんかヤバくないか? 

 スヴェさんが魔王で、台風を消したなんて与太話を信じるとは思えないが……普通に不法滞在者扱いだろうし、連行しようとしたら抵抗して暴れたりしないかな?


「そして、そちらが魔王……ええと、清一郎さんはスヴェさん、と仰ってましたが」

「うむ、妾はスヴェス=マルジューム=ガーニー。こちらの世界では単なる居候の身じゃが、元の世界では魔王であった」

「そうですか、ご丁寧にどうも。私は警視庁の灘鏡子と申します」


 ……あれ、なんかあっさり受け入れているな?

 どういうことだ?


「なんか道中でもこの人に色々説明されたんじゃが、ワシャよーわからん。恭一郎、お前が詳しく聞いておいてくれ」

「じーちゃんはどうするの?」

「ワシャ昼メシの準備をする。渡辺さんから貰ったあれも泥抜きが済んでるから、そろそろ食べ頃じゃ」


 じーちゃんはそう言うと、居間を出て行った。


「じゃあ、私からお話させて頂きます。座っても?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 灘さんは俺とスヴェさんの対面に座ると、説明を始めた。


「まず最初に。ここでの話は他言無用でお願いします」

「ほう、喧伝するとどうなるのじゃ?」


 スヴェさんの挑発めいた質問に、灘さんは肩を竦めながら答えた。


「さぁ? 良くない事が起こるんじゃないかしら」

「例えば?」

「私が敵に回る……とか、ですかね?」

「ほう……」


 そのまま、灘さんとスヴェさんが視線を交わす。

 特に睨み合っている、という感じではないが……凄い緊張感だ。

 しばらくして、スヴェさんはフッと笑った。


「良かろう。妾が後れを取るとは思えんが、お主の相手はそれなりに面倒くさそうじゃ」

「私も同感です」

「ふ、言いよるわ」


 良くわからんが……この灘さんって人ヤバい感じなの?


「まずスヴェスさん」

「スヴェさんでよい、あと敬語も不要じゃ」

「ありがとう。まずスヴェさん、我が国において、貴女の権利はある程度保証されています」

「えっ、そうなんですか? あっ、すいません話に入ってしまって」


 思わず出た俺の疑問に、灘さんは「良いのよ」と言いながら頷く。


「うん、日本政府の一部高官や、警察でも極一部の人間は、異世界の存在を把握してるの」

「そうなんですか」

「このスヴェさんの世界だけではなく、複数の異世界が確認されています」

「そ、そうなんですか、でも、どうやって?」

「スヴェさんのように異世界から来る人もいれば、異世界に『召喚』という形で呼び出され、その後戻ってきた人とかね。かくいう私もそうよ?」

「えっ、異世界に行ったことがある、って事ですか?」

「ええ」


 スヴェさんの存在が無ければ『イタイ女だな』で終わる話だが……。

 スヴェさんも昨日、徐福が来たとか言ってたし、マジなのか?


「なるほどのう、ではお主は『勇者』か?」

「その世界ではそう呼ばれてたわね。ちなみに、どの異世界でも召喚された人間は『勇者』という肩書で呼ばれる事は確認されてるわ」

「はぁー。なんか、ゲームみたいですね」


 俺の軽口に……灘さんは表情を変えずに答えた。


「うん、ゲームなのよ。女神が仕組んだゲーム」

「えっ?」

「どの異世界も世界観がかなり共通しているの。それこそ、良くゲームにあるような、中世ヨーロッパを彷彿とさせるような、ね」

「それを女神が?」

「うん。どの世界も『なんとなくヨーロッパっぽい』って所から、我々は異世界の事を『ナーロッパ』と呼んでるわ」


 ナーロッパ……なんか、ダサい呼び名だな?



 



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