第8話
「ねえ志帆、今度さ……」
一緒に遊びに行かない?
その誘いは最後まで言葉にすることはできなかった。
彼女から突然体当たりをくらったからだ。
あまりにも急な出来事で、おれは訳が分からずそのまま田んぼへと体を突っ込んだ。
「何を……⁉︎」
「わたしを……忘れないで……」
彼女の行動の意味がわからず、問いかけようとした矢先だった。
ドンっと鈍い音が鳴り、彼女の体は宙を舞い、おれが落ちたところよりもさらに奥の田んぼに落ちた。
目の前に飛び出してきたものはなんなのか。それを理解するまでに数秒。
それは、トラックだった。
貨物でも運べるのではないかと思えるほどのトラックがすごい勢いで彼女に追突したのだった。
次に、彼女がどこにいるのか探すのに数秒かかった。
何せ今の季節は秋のはじめ。稲刈りが終わっていない田んぼには稲が生えていて、彼女に落とされた場所からだとほとんど見えないに等しい。
地面にぶつけた時に傷んだ腰をさすりながら、立ち上がり、彼女の元へと向かう。
「志帆……!!」
彼女を抱き抱えるも、彼女は目を閉じたまま一向に開ける気配がない。
「志帆……!! 目を覚ましてくれよ‼︎ 志帆っ!!」
やがて、騒音に気づいた人たちが、救急車やら警察やらを呼ぶ声が聞こえ始める。
そこからのことはよく覚えていない。
気づいたら彼女とおれは救急車に運ばれていて、彼女の両親が泣き崩れていた。
おれは彼女に突き飛ばされた時に腰を痛めたくらいの軽傷だった。
だが彼女は手術後も意識が戻らず、いつ戻るかもわからないという。
翌日おれは退院することができたが、彼女の意識は戻らなかった。
昨晩聞いたことだが、昨日のトラックは居眠り運転だったらしい。
運転していた人に怪我はなく、今は警察署で取り調べを受けているとのことだ。
おれは学校でも空席になった教室をふと見つめてしまうことが癖になっていた。
クラスメイトや先生はそのことがわかっていて、何も触れない。
目の前で彼女をはねられ、辛いのはわかっているというように……
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