第43話 深空のダンジョン攻略編 ③

 ところで、オーロラが出てくる瞬間って見た事ある?


 僕が地球に居た頃オーロラを見たのは、全部TVの中。

 それも、夜空を鮮やかに彩るカーテンが既に現れた状態でしか見た事ないんだ。


 だからだろうね。

 僕の心がこんなにも揺れ動かされたのはーーーー




   ◇



 ポウッと地面から一つ光が生まれ、そしてまたポウッと一つの光が地面がら生み出される。


 始めはクリーム色の淡い光。


 それが、赤い光や青い光、そして緑や白の光を伴って徐々に現れ始めると、草原はあっという間に光に飲み込まれて行く。


 すると、光は徐々に形を作り始め、光は蝶の様な羽を持つ小さな人型へと変化をしーーー


 ……うわ!うわ!こうやってリュシオルが出てくるんだ!!!しかも、リュシオル達ってちゃんと服着てる!


 リュシオル達が姿を現す綺麗な様子に、興奮状態の僕。でも、僕が変なところに注目してるって思ったでしょ?

  

 いや、だってさ……セイクリッドジェリーマーメイドは布巻きつけてただけだし、ホーリーハルピュイアに至っては裸だよ?


 だから、リュシオル達が布で作った様な服を着ている事で、人間に近い文化を持っているって思ったんだ。


 エア……そりゃ逃げられるわけだよ。


 ちょっと残念な子目線をエアに向けていると、そんな僕の目線も気にしないエアは、何かに気付いたようにバッと上空を見上げたんだ。


 僕らもそれに釣られて上空を見上げるとーー


 ピカッと夜空の中心が光り出し、そこから空が破れたように一気に光が溢れ出したんだ!


 まるでその様は、グラデーションのカーテンが幾重にも幾重にも重なって夜空を隠すかのようだったんだよ……!


 その色合いは、地上に近づくにつれて赤から白色、白色から淡い緑へと変化する目を捉えて離さない鮮やかさ!


 ……なんて、なんて綺麗なんだ……!!


 僕が感動の余り言葉も出なかった異世界のオーロラは、ジュドによれば地球で言う『オーロラブレイクアップ』のようなんだって。


 異世界でまさか体験出来るとは思ってなかったよ……!


 そんな夜空に揺らめくカーテンから、スウッと現れた虹色の丸い小さな光。


 虹色かと思って見ていたら、地上のリュシオル達に近づくにつれて赤がだんだんと広がり、地上まで着く頃にはグラデーションがかかっているのはわずか一部だけの状態になっていたんだ。


 そして、気になるのはもう一つ。


 あれ?……人化しない?


 そうなんだ。他のリュシオル達が光を触っても、一向に変化しないんだよ?確かエアはあれがリュシオル達の長だって言ってたよねぇ?


 なんて思っていたら、リュシオル達の中からスウーーーッとその光が僕らのところに近づいてきたんだよ?


 しっかり気配隠しているのに……?


 思わず目線を合わせる僕らのもとに、着実に近づいてきた光の玉。


 その光の玉の周りを守る男性型リュシオル達を引き連れて、まるで見えているかのように【影同調】がかかっているドームの前でピタッと止まったんだ。


 そしたらなんと、ドームに向かって声をかけてきた光の玉。


 《大いなるエネルギーを持つ者よ……!どうか、我らを助けて欲しい……!》


 鈴のような音と共に聞こえてきた微かな声。僕は思わずジュドを振り返ると、僕をジッと見つめ返すジュドと目が合う。


 え?ジュドじゃなくて、僕に言ってんの?


 周りを見ても他に誰も驚いている様子もなく、むしろ僕がキョロキョロする事によって、逆に僕がみんなの注意を引いてしまったらしい。


 『淘汰?どうした?』


 気になった空我さんが【影伝達】で聞いてきたから、僕と同調出来るか念話で聞いてみたんだ。


 すると空我さんが手を僕の肩に置いて頷いてくれたから、僕は勇気を出して光の玉へ語りかける事にした。


 「どういう事か説明をお願いします」


 すると、光の玉は点滅しながら応えてくれたんだ。


 《我らは魔力を糧に生きる者……長きに渡り、歴代の一族の長はその魔力を多く作り出す者へと自らを捧げ物にし、一族を守ってきた……》


 空我さんの【影同調】が上手くいったんだろうね。みんなが一斉にバッと、僕から光の玉へと視線を向けたんだ。


 そして、リュシオル一族に起こった出来事をゆっくり語り出した長によると……


 昔、安定した魔力を供給出来る代わりに、一族の長が自らダンジョンに取り込まれる契約を結んだ初代の長。


 その初代の長の契約によって、棲家と安定した魔力の供給が長い間保たれてきたんだって。


 ……その安全と安定は、歴代の長達の犠牲が伴ったけどね。


 でも、最近になってダンジョンがリュシオル達に魔力を供給するのを拒み、長のみならず一族を捧げるようにと圧をかけるようになったらしいんだ。


 そんな事は出来ないと断絶の立場を取ったものの、ダンジョンから逃げ出す事も出来ず、長が魔力で作り出したオーロラが出ている間、一族の為に自らの命を削ってまで分配していたんだって。


 でも、幾ら他のリュシオル達より魔力が膨大でも、長にも限りがあるわけで……


 どうやらそれもあと僅か……!って時に、ダンジョンに異質な力を持った僕が入ってきたのがわかったそうだよ。


 様子を見ていると、ダンジョンから魔物のみならず、浮島まで取り込むその膨大で魅力的な力に一縷の望みをかけた長は、この島に僕らが到着するのを待っていたみたいなんだ。


 何より……


 《我が一族であるリュシオルの長となる者は、生まれた時からその身を犠牲にする事が決められておる。故に、一族の為ならば致しかたないとはいえ……我はもうこの様な役割を、子孫に残す事など望んでおらぬ。我で、最後にしたいのだ……!》


 切ない声で語る、長の切実な気持ちを聞いちゃったらねえ……!


 「淘汰あああああ!頼むううううう!長をリュシオル達の力になってやってくれええええ!!」


 「うええええ!?」


 どうしようか、とジュドに確認しようと動き出す前に、号泣した力也さんによって、ガッコンガッコン脳をシェイクされた僕。


 気持ち悪くなってくる前に、ジュドが救出してくれれたから良かったけどさ……


 「悪い……!淘汰。力也はこの手の話が弱いんだ」


 「でも、久々すぎて止めるの遅くなった」


 ガッツリ雅也さんと楓さんに抑えられながらも、うおおおんと泣く力也さんの口に「これでも食っとけ」と饅頭を押し込む空我さん。


 メンバーに取り押さえられて大人しくなってくれた力也さんだけど、ここまで騒いじゃったら気配を消す意味が無くなったし、空我さんにドームを解除してもらったんだ。


 そしたらいきなり現れた僕らの存在に、不思議そうにしていたその他大勢のリュシオル達が、なぜか一斉に僕らから離れてしまったんだ。


 長とその周りにいるリュシオル達は離れなかったけど、長の周りにいるリュシオル達が警戒しちゃって、ちょっとピリピリした雰囲気になっちゃった。


 「エアよ。お主がいるからだろうて」


 「えー!?僕のせい?だって遊んでいただけだよ?僕」


 「ブルーエアドラゴンに向かってこられたら、そら怖いわな」


 「ええ、心中お察しします」


 エアの今までの所業がこうなったというアクア様に、全く反省の色がないエア。フェルトさんとラルクさんまで、リュシオル達に同情しているし。


 《……何故ブルーエアドラゴンが其方にいるのか……!?》


 長まで警戒しているから、僕が前に出て説明したんだけどね。


 今は僕と契約しているから、もうそちらに迷惑はかけない事をなんとか約束すると、ようやく長だけは警戒を解いてくれたけど。


 《やはり、ドラゴン以上の膨大な力があったか……!!ならば、時間が無い……!どうか我の命と引き換えに、一族を守っていただけぬか?》


 長の必死の嘆願に僕はジュドを見ると、ジュドは僕の予想に反して首を横に振ったんだ。


 「マスター、流石に今の亜空間ワールドでは、長の状態まで改善は出来ませんよ?ですが、安心下さい。我がマスターの世界で皆様が快適にお過ごし出来る事はお約束致します」


 《そうか……!!ならば、すぐにでも!!》


 ジュドの言葉に乗り気の長が前に進みだすと、一斉に長の前に壁を作るリュシオル達。


 「我々は長と共にある!」

 「長だけ犠牲になるのはもう沢山だ!」

 「長が生涯を終えるしか無いのなら、追随するまで!」

 「だが、子供達は頼みたい……!どうか、長の代わりに俺の命を取ってくれ!」

 「私の命も!」

 「いや、俺の方が力がある!」

 「私達を!」……!


 目の前で繰り広げられる互いを思いやる心に、力也さんのみならず風光の跡メンバーも貰い泣きし始め、僕もなんとかならないかとハラハラしていると……


 「ですから、今の長を今の亜空間ワールドでは助けられませんよ?と言っているじゃないですか」


 なんて、意味あり気な事を話すジュドに、一同ピタッっと止まったんだ。


 え?ジュド、それってどういう事?

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