第44話 深空のダンジョン攻略編 ④

 ジュドの言葉を1番に理解したのは、やっぱりこの人。


 「ふむ。ジュドよ、それはもしや亜空間ワールドがまたレベルアップすれば良いと言う事かの?」


 「アクア様、流石ですね。とはいえ、マスターにも頑張って貰わないといけません。これからのランクアップには魔障石だけではなくマスターが経験していく事が、亜空間ワールドの成長に繋がります」


 ……ん?なんか話の方向性が変わってきたような?でも、ジュドもアクア様もランクアップを言うって事は……?


 「えっと、ジュド?ちょっと確認させて。今は無理でも、ランクアップするとリュシオル達一族全員を助ける可能性があるって事?」

 

 僕がジュドにした質問に、リュシオル達がハッと息を飲んだ音が聞こえてきた。


 ……そりゃ、そうだよね。誰かを犠牲にする生き方は、誰一人望んでいないんだもん。


 「その通りです、マスター。ですが、その為にはその可能性を信じて、長も含めリュシオル一族が提案を受け入れて頂く事が必要です」


 ジュドがそのままリュシオル一族に提案した事は、まとめるとこんな感じだったんだ。


 ・長は、亜空間ワールド内で休眠状態になって貰い、ランクアップ時に従属契約をする。


 ・リュシオル達は、長より先に僕と従属契約に入る事。


 この二点だけなんだけど……いきなり現れた僕を信じて自分達を委ねる決断は、正直言って無理でしょ。


 だから更に噛み砕いてジュドはこう説明していたんだ。


 長の状態はかなりボロボロらしいから、亜空間ワールドの中で回復しながら休眠していてもらうんだって。


 その上で、長の身体の完全な回復に必要なのは、ランクアップ時の強力な力らしい。


 その時に、長は長としての力は無くなるけれど、責任からの自由とリュシオル個人として生きる幸せは掴めるそうだよ。


 そしてその間、リュシオル達は魔力で糧を得る生活から、僕の眷属になって食物から糧を得る生活へと移行して貰うんだって。


 長が安心して休眠する為にも、リュシオル達が希望を抱いて生活する為にも必要なのは、僕への従属。


 だけど、契約にあたっては既に痛い目にあっているリュシオル達だからこそ、今二の足を踏んでいる状態なんだ。


 「だったら、まずは亜空間ワールドに招待するといい」


 「その地で生活する住民達の様子を見ると、決断の助けになるでしょうし」


 その様子を黙って見ていたフェルトさんとラルクさんが、リュシオル達をまず亜空間ワールドにつれて行く事を推奨してくれたんだ。


 そして、その案にすぐ乗ったのが風光の跡メンバー達。


 「あ、いいじゃん!それなら俺達だって案内出来るし!」


 「空我は食べ物だけだろ?浮島でソラ達に会える方が良いよ」


 「雅也、わかってないな。まずはゆったり過ごさせる方が良いだろ!俺は天然温泉郷を勧めるね!」


 「力也兄が行きたいだけでしょ?」


 どの店につれて行くか、何を食べさせるか、どこに泊まらせるかと、もう全員をつれて行く事を前提に話を勧めるメンバーに、オロオロし始めたリュシオル達。


 その様子にちょっと反省したであろうエアも乗ってきたんだ。


 「あのさ、もう追い回す事はしないからさ。亜空間ワールドに来てみなよ。そこの住民はほぼ僕らの眷属だった魔物達なんだ。だから良い判断材料になると思うよ」


 エアの殊勝な態度に、目を細めて喜んだアクア様。アクア様もまた優しい言葉でリュシオル達に語りかけてくれたんだ。


 「そうだの。今の亜空間ワールドの住民の大半は、我のダンジョンにおった、元はセイクリッドジェリーマーメイド達だ。……お主らの気持ちも汲んでくれるだろうて」


 おかげで、ザワザワと相談し始めたリュシオル達。


 僕といえば、長に気になっていた事を確認してみたんだ。


 「長とリュシオル達に許される時間は、後どれくらいありますか?」


 《……我はおそらく持って数日であろう。一族の皆も数日ならば魔力が持つ筈。……だがしかし、どうするのだ?我らはこの浮島から出る事は叶わぬぞ?》


 どうやら僕らがどうやってダンジョンに来ているのか長もわかっていないんだね。


 「その点は問題ありません。だってこの浮島からで出なくても、僕の亜空間ワールドには行けますよ」


 だから僕は、実際に亜空間ワールドの入り口を開いて見せたんだ。


 それも最初は雅也さんが言っていた様に、顔見知りのソラ達に会わせたいと思って、領主館前に入り口を繋げてみたんだけどね。


 あちらは昼時だったのか、かなりの明るさに僕も一瞬目を閉じちゃった。そしたらみんなも同じだったみたい。……あ、ごめんって。


 ともかく、リュシオル達を安心させる為に、僕が先に亜空間ワールドに入って見せたんだ。


 その上で長やリュシオル達を中に呼んだんだけど、やっぱり勇気がいるみたいでね。


 夜島に残っている風光の跡メンバーが「大丈夫だって」「やってみろって」と勧めても、長も含めてなかなか足を踏み出してくれなくてさ。


 参ったなぁ、と思っていたら……


 「主?どうしたんです?」


 ヒョコッと領主館の窓から顔を出すソラを見つけて、コガネとサクラを連れて降りてきて貰うようにお願いした僕。


 ソラ達はホーリーハルピュイア達の中でも成長が早いみたいで、もうしっかり会話が出来るって聞いてたからね。


 それに元セイクリッドジェリーマーメイドの補佐夫妻からも仕事を学んで、既に下の街への行き来も任せられるくらいなんだよ。

 

 「主、今日は夜島ではなかったか?」


 「まあ、コガネったら。普通に話し過ぎですよ?あら、でも入り口の向こう側は夜島なのね」


 ん?どうやら執事服姿のコガネとメイド服姿のサクラが、もう僕らの側に到着していたんだね。


 アレ?ソラどこ行った?


 僕がソラを探していると、亜空間ワールドに戻ったエアとアクア様に近づいて既に事情を聞いていたソラ。


 まあ、ソラじゃなくてもいっかと思った僕は、とりあえず事情をコガネ達にも話してみたんだ。


 すると「成る程」と納得したコガネが、スタスタと亜空間ワールドの入り口を潜って夜島へと移動して行ったんだ。


 そして、人化した姿からポンッとホーリーハルピュイアの姿に戻り、リュシオル達の長の前に行き一礼をしたコガネ。


 たったそれだけの行為をしただけなのに、以前のコガネを知っていたと思われる長が驚きの声をあげた。


 《なんと……!これがホーリーハルピュイアだと言うのか……!?いや、だがこの気配は確かに……!》


 長が驚きの声をあげると、同じように驚いたリュシオル達もザワザワと騒ぎ始め、「偽物では?」という疑念の声まで上がってきたぐらいなんだよ。


 当然その声も聞こえたんだろうね。コガネがホーリーハルピュイアの姿のまま「リュシオル達よ!聞いてくれ!」と注目を集めてから語り出したんだ。


 「我らの元の姿を知っているのであれば、私がこのように話すのも敬意を表すのも、ましてや人化する能力すら得ている事に驚くのも無理はないだろう。


 たった数日……たった数日だけで、我らは此処まで変化を遂げた。


 だが、我が一族は基本的に自由な故に、此処まで変化を遂げた仲間は、数にして15程しかいない。残りは未だ以前の姿のまま、ダンジョンで気楽に生活をしている。


 だが、変わったからこそ気付けた事がある。だからあえて言わせて貰おう。


 リュシオル一族よ。其方達は何を迷う?


 知性があり追い詰められた生活の中、この亜空間ワールドでの生活程欲しいものはないだろうに。


 長よ、一族を率いる其方に聞こう。


 一族を背負う重責はわかるが、其方はどうしたいのだ?生きたいのか、滅びたいのか?


 ……私は真っ先に願い出たぞ。そして群れの大半は未だそのままだが、群れの責任者としてこの決断に後悔はない。


 我らがいるこの亜空間ワールドに待つのは、ただ平安のみ。そして生きる事を楽しむとはどう言う事かを、主が教えてくれるのだ。


 だからこそ堂々と言える。この機会を逃すな、と。


 ……思いを語れるようになって、つい長く語り過ぎたようだ。私が言いたいのは以上だ」


 言い終わると、ポンッと人化をして戻ってきたコガネ。


 着衣したままの人化も出来るようになっていた事に僕も驚いたけど、雅也さん達も驚いていたって事は本当にコガネ達が努力を続けているって事なんだよね。


 ちょっと誇らしくなってコガネにサムズアップをすると、照れ笑いを返して僕の後ろへと移動して待機してくれている。


 僕の後ろで待機していたサクラも、コガネの言葉が誇らしかったんだろうね。コガネに抱きついて迎えていたからなぁ。


そんな僕らの一連の様子を見て、最初に動き出したのはやっぱり長だったんだ。 


《……ならば、行こう。我はまだ知らぬ事があるらしい……!》


 スウゥゥゥ……っと光の玉のまま亜空間ワールドの入り口を潜り、亜空間ワールドに入った長。


 すると、光の玉だと思ったその中に亜空間ワールドの光が降り注ぎ、長の姿がはっきり見えたんだけどね。


 長は、小さな小さな一歳程の子供の姿だったんだ。


 「なんと……!久しく見ておらぬと、此処まで小さくなっておったとは……!!」


 僕が思うに、魔力不足で幼くなった自らの姿に悲しいのか、はたまた見れるようになった事に喜んでいいのか、長もわからなくなったんじゃないかなぁ?


 自らを抱きしめるように身体を屈めて、ポロポロポロポロと涙を流して泣き始めちゃったんだ。


 その長をフワッと柔らかなタオルに包み込んで休ませてあげたのが、補佐夫人。どうやらソラが、補佐夫人を呼んで来たんだね。


 「大丈夫ですよ。安心していらっしゃい」


 補佐夫人の柔らかな雰囲気と優しい声が決め手となり、リュシオル達が一人、また一人と動き出したんだ。


 亜空間ワールドの扉を潜ってダンジョンから脱出出来る事を知った彼らは、喜びの声をあげて仲間を呼び、長を抱える補佐夫人の周りを飛び回る。


 夜島にいたリュシオル一族が全員移動してきたのを確認して、風光の跡メンバーも亜空間ワールドに戻り、最後にジュドが夜島を亜空間ワールドに取りこみ本船と共に戻ってきた時ーーーー


 ダンジョンの中では、リポップした夜島に一人の存在があった事を、リュシオル達と一緒に喜んでいたこの時の僕らは、まだ気づいていなかったんだよね……


ーーーーーーーー


あ、日付変わってた……∑(゚Д゚)

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