第42話 深空のダンジョン攻略編 ②

 「おしっ!到ーー着!」


 しっかり補給を終えて、蒸気浮遊船からジャンプ一発で夜島へと辿りついた力也さん。


 僕が大型ライト玉を出して、夜島の崖っぷちと蒸気浮遊船の周りを照らしているから暗闇もなんのその。


 おかげで身体能力高いメンバー達は自力で上陸するため、折角立派な舷梯(タラップ)を出しても、それを使うのは僕とジュドとアクア様ぐらい。


 「乗っても揺れないし安全なのに……」


 「まあ、仕方あるまい。それだけ力が有り余っているんだろうて」


 「皆さん時間を持て余していましたし」


 最後まで蒸気浮遊船を楽しんで貰いたい僕としては、ちょっと不満で呟いちゃったけどさ。その分アクア様とジュドが降り心地を確かめるように、僕に続いて降りてきてくれている。


 光源である大型ライト玉は、僕が進むと一緒に動くらしい。僕はそれを三つ横に出しているから、僕の周りだけは昼間のように明るいんだ。


 ん?夜島で光を出していると、魔物に狙われるだろって?


 それがずっと夜島でいる魔物達は、この強い光が苦手なんだって。だから、逆に寄って来ないし結界も必要ないから楽なんだけど……


 「淘汰あー!光もっと弱くしてくれ!」


 「目が慣れて来た」


 「ライトなくても明るいんじゃね?」


 先発隊の雅也さんから、まさかの減光を頼まれた僕。


 どうやら先発隊の楓さんや空我さんも、光が無くても結構見えるらしい。力也さんに至っては、わざわざ暗いところを歩いているからなぁ。


 殺る気がすごい……!


 でもその風光の跡メンバーの後ろを、僕を中心に右にジュド、前方にエア、左にアクア様という陣形になり、魔力を開放しつつ歩いてくれているから、当然魔物は近寄って来れないんだよねぇ。


 だからこそ後方で警戒する筈のフェルトさんとラルクさんは、のんびり歩きながら植物を観察中だし。


 「お、見ろよラルク。これ紫に発光してるって事は、治癒草だろ?」

 

 「確かに……!貴重な治癒草がこんなに群生してるとは……!」


 驚きながらもジュドが浮島ごと取り込む予定も知っているから、二人共ただ陣形を崩さず歩いているだけ。


 だからだろうね。余りにも暇を持て余したエアが、誰よりも早く限界を口にしたんだよ。


 「あーもう!!!つまんない!アクア、魔力全部抑えようよ!」


 「まあ、我は構わんが。淘汰よ、少し皆に気晴らしをさせて良いか?」


 ダンジョンの魔物を敢えて呼び寄せたいエアの様子を見たアクア様は、ため息を吐きながら僕に提案してきたんだ。


 僕が見ると、先発隊も後ろを歩く二人も欠伸をしながら歩いているんだもん。


 ……このメンバーなら敢えて安全確保しなくても良いか、と思い了承を伝えて僕も大型ライト玉を消す。


 するとーーー


 うっすらと紫の光を放つ治癒草や赤の光を放つ毒草が地面を彩り、頭上の木々も実が淡い光を放ち、幻想的な景色を作り出していることがわかったんだ。


 へえ……!かえって光の無い方が綺麗だね。


 なんて呑気な考えの僕の一方で、光源を消した途端に「よっしゃ!」「これからが本番か!」「やっと出番……」「お、良いねぇ」と喜ぶ風光の跡メンバーや、「やっっほーー!!」とご機嫌に上空に飛び出すエア。


 フェルトさんラルクさんも笑いながら武器を構え出したりと、戦闘を歓迎する雰囲気になったんだ。


 これには僕が苦笑い。


 「みんな、そんなに戦いたいんだねぇ……」


 「マスターは私がお守りしますし」


 「我も居るからな」


 安全第一の僕からすると考えられないけどね。みんなが怪我をしないようにサポートに徹する事にした僕。


 それに、……ジュドもアクア様も過保護だよなぁ。僕も戦えるんだけど……なんて思っていても、皆の善意が嬉しいから言わないけどね。


 そうしていると、さっきまでの静かな森からザワザワと音が聞こえ出してきたんだ。

 

 「力也、左後方!楓、右前方5度!雅也は真上だ!」


 急に前方から斥候である空我さんの指示が聞こえてきたと思ったら、それぞれ一斉に動き出す風光の跡メンバー。


 力也さんは風魔法を伴った素早い動きで走り出し、楓さんはドンッと地面に何かを押し付けて、雅也さんは手元から光を放ちドサドサッと何かを撃ち落としたんだ。


 力也さんが何かを仕留めて担いで戻ってきた時、空我さんもまた影を鋭い触手に変えて何かを貫いていた。


 どうやら確かめて見ると、力也さんが持ってきたのは大型のブラックハイエナ一頭。楓さんは2mクラスの数匹のフェイクコヨーテを重力で捕獲し、空我さんと同様に急所を一撃で貫いていたんだ。


 雅也さんは、空中飛行中のグレイモモンガ数匹を仕留め、指示を出した空我さんが倒した獲物集めて、僕の前に持ってきたんだよ。


 「はいよ、ジュドよろしくー」


 ドサドサドサッと出される獲物に、やっと此処がダンジョンだと僕は認識出来たけど……見事な連携だよねぇ。


 メンバーの動きに感心している僕の側に、今度は後ろからドサドサッと音が聞こえてきたから振り返ったらね。


 ラルクさんとフェルトさんが仕留めたであろう魔物も積み上がっていたんだ。


 「良いねぇ!この感じ、久しぶりだ!」


 「残念。フェルトに少し取られすぎましたね」


 襲われたはずなのにご機嫌になっているフェルトさんと、大型の梟を引き連れているラルクさんが、仕留めたブラックハイエナを僕らの周りに置いて行く。


 「うむ、我の出番はないの」


 「楽で良いですね」


 方やアクア様はちょっと出番がなくて寂しそうだったし、ジュドはサクサク亜空間ワールドに獲物を取り込む事が出来て満足そう。


 あれ?そういえばエアは何処行った?


 「僕が1番でっかいんじゃない?」


 探していると、僕の上空から現れたエアが持ってきたのは、3mクラスのブラックナイトワイバーン一が匹。


 「おお!エアやるなあ!」


 「アレすばしっこくて厄介なやつなのに……!」


 前方で現れる魔物を上手く討伐しつつもエアの獲物を褒める空我さんと楓さん。力也さんは更にやる気になって、空我さんに大きな獲物の生息所を聞いているし。


 ……まあ、みんなこうやって倒したかったんだから、もう好きにさせようとちょっと遠い目をした僕。


 うん、本当にこのメンバー過剰戦力だよ……!


 そんな感じで、僕とアクア様とジュドが動かなくても、十分な速さで進む事が出来た森の探索。


 だいたい真ん中に来たかな?ってところで、僕らは森を抜けて草原へと出てきたんだ。


 「ふああ!何これ!」


 「一気に寒くなったじゃねえか……!」


 白い息を吐いて手を擦り合わせる空我さんと、ブルッと震える体で腕をさする力也さん。


 僕は急いで全員の服と装備に、防寒と適温の付与魔法を掛けて行ったんだけど……


 「見てて寒いけど、アクア様とエアはコレ平気なんだ……!」


 「流石すぎる……!」


 1番寒そうな袴姿に軍服姿の二人は、構わないで良いんだって言われたよ。


 それよりとエアが教えてくれた情報の中で、此処がリュシオルとオーロラが出る場所らしいって事に喜んだのはこの二人。


 「おおお!本当に見れるんだな……!」


 「ならば、まずは空我に頼まないといけませんね!」


 ワクワクした表情のフェルトさんは僕らの側にピタッとつき、ラルクさんが風光の跡メンバーを僕らの側に呼び寄せてきた。


 どうしたんだろうと思ってたら、ラルクさんから話を聞いた空我さんが影魔法を唱えて、僕ら全体を包み込むドームを作成したんだ。


 「え?空我さん、何したの?」


 「俺達全員の気配を隠す【影同調】をかけた。淘汰、悪いがこのドームに継続付与魔法を掛けてくれないか?」


 この全員分の気配を消すにはちょっと魔力を使う、と明かした空我さんに僕はすぐ対応したんだけどね。


 しばらくその状態で黙っていると、地面から淡いクリーム色の光が一つ、二つと、徐々に数を増やして現れ始めたんだ!


 「ふっ!ぐっ……?!」


 『シーッ!もうちょっとだけ我慢!』


 光が集まり出した時の綺麗な光景に、思わず感嘆の声を出しそうになった僕。すると、エアから何かを聞いた空我さんが手で僕の口を塞ぎ、【影伝達】の念話で全員に声を出さないように伝えてきたんだ。


 そして、そのままエアから聞いた事を空我さんが説明してくれたんだけどね。


 『クリーム色のリュシオルは、偵察隊だってさ。見てろ……!このしばらく後に楽しみが待っているから……!』


 そう言って、僕の口を塞いだままの空我さんと一緒に僕も前を向いたらねーーーー


 この後、驚きの瞬間に立ち会えたんだ……!!

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