第41話  深空のダンジョン攻略編 ①

 「時代は変わるもんだ」


 「こんな楽なダンジョン移動もあるんですね」


 ちょっと遠い目をしながらズズッと緑茶を啜るフェルトさんと、同意しつつカステラを口に含むラルクさん。


 そう、今僕らは『深空のダンジョン』を、久しぶりの本船に乗って進行中なんだ。


 「エアが居るのもあるが……今のところ退屈だがな」


 「えー?アクアだって魔力抑えてないじゃん」


 不満を呟くアクア様は安定の袴姿で緑茶を飲み、気合いの入ったエアは軍服姿が気に入ったのかずっとその格好のまま。


 正直、これでダンジョンを攻略中っていってもねぇ……


 船室で寛ぐ雰囲気は、まるで普段と変わらないからなぁ。


 何せ、フェルトさんもラルクさんも革製の防具とそれぞれ武器もしっかり装備しているのに、執事姿のままのジュドもいるからね。


 あ、僕も一応は装備しているよ。でも、そんな僕も炬燵で寛いでいるから人の事は言えないんだけどね。


 因みに、風光の跡メンバーは船首にある操舵室で操縦兼甲板で見回りしてくれているよ。


 レベルアップした本船である、蒸気浮遊船『天翔』でね。


 僕らの攻略の移動手段である本船も、明治時代になった途端に様変わりしていたんだ!


 へへっ!驚いたでしょう?


 そんな自慢の蒸気浮遊船『天翔』の外観イメージは、明治時代の重要文化財になっている3本マストシップ「明○丸」の小さい版って感じ。


 簡単に言うと、輸送船から旅客船になったんだよ!だからこそ、船内は更にグレードアップ!


 船の装備に加え、一等洋式船室が10部屋、一等和式船室が3部屋、食堂、和式応接室、洋式大広間、浴室、各室トイレ完備!


 内装は白と赤紫が基調のロイヤルな雰囲気で、迎賓館と同じくらいの豪華さなんだ。


 因みに、船の命名はアクア様。


 僕が安直に「浮遊船でいい?」って言ったら、すぐ「天翔る船、『天翔』はどうだ?」ってサラッと命名してくれたんだ。


 格好良いって全員一致で即決だったね。……命名で悩む僕の代わりに、アクア様ホーリーハルピュイアの命名もやってくれないかなぁ……


 なんて考えを読んだジュドが楽をしようとしてもダメだって、目線で訴えてきてるけどね。うんうん、わかってるって。


 そんな僕らがいるのは、和式応接室。12畳の畳の間に炬燵や蒸気暖房ストーブがあって、外の景色が見える大型窓あるから快適且つ開放感もあるんだよ。


 勿論、亜空間ワールドの入り口もこの部屋に繋げているから、どっちにいても良いんだけどさ。


 え?なんで、攻撃力のある軍船じゃないのかって?


 いやあ……エアとアクア様が揃っているだけで、攻撃力は既に過剰だし。それに僕やジュドだって戦えるし、Aランクの二人は居るわで、風光の跡メンバーが別の意味で焦ったらしくてさ。


 「ちょ、俺ら要らないんじゃね?」


 「言うな、空我。今更だ……!」


 「力也兄に同意。あそこと比較しちゃ駄目」


 「だな。俺らは俺らできっちり仕事果たして行こうぜ」


 聞き耳を立てていたジュド曰く、雅也さんが上手くチームの雰囲気まとめてくれたみたいで、ちょっと安心したんだ。


 もう僕にとって風光の跡メンバーは、この世界の家族同然だからね。居なくなられたら困るし!!


 家族といえばジュドとアクア様とエアもそうだけど、亜空間ワールドにいる住民たちも、既に僕にとってかけがえのない存在だからなぁ。


 そんなかけがえのない存在に加わったホーリーハルピュイアのソラがね、僕に次の島の情報くれたんだけど……


 「「夜島!?」」


 ソラから聞いた事を纏めた僕の説明を聞いて、同時に聞き返して来たフェルトさんとラルクさん。


 「うん。ソラによると、夜みたいにずっと暗いままではっきり見えない浮島だけど、月の様な明かりで育つ美味しい果実や薬草があるみたい。それに、この浮島限定の魔物がいるらしくて、ソラ達は友達だって言ってたんだけど……エア、わかる?」


 「ん?ああ、リュシオル達の事?」


 「ふむ。リュシオルとは珍しいの」


 「あれ?アクア様も知っているの?」


 「勿論だ。ダンジョンであれば、その属性に合わせたリュシオルが居るぞ。我のダンジョンは水属性のリュシオルだが、ここは光属性だったか?」


 「そうそう!綺麗だけど、暗闇にも溶け込むし気分屋だし。行っても会えない時も多いかなぁ」


 「エアの場合は、騒がしいからだ」


 「良いじゃん!綺麗だし可愛いんだから、集めたくなるでしょ?」


 「奴らは静かな場所を好む。エアに騒がれたら迷惑だろうて。まあ、今回のメンバーであれば、珍しいから様子を見に出てくる可能性は高いがな」


 お茶を飲みつつエアに「静かにしておれよ」と忠告するアクア様だったけど、「今度こそ捕まえるんだ!」とエアはお構いなし。


 そんな二人の会話に唖然とするフェルトさんとラルクさん。


 「ラルク……?リュシオルは幻の魔物だよなぁ……?」


 「ええ。……存在するかどうかも怪しいって言われてますが……?」


 唖然としていても、さすが元ギルマスと副ギルマス。一応魔物の情報は持っているんだね。


 「え?リュシオルって妖精族の一種?」


 「ああ。光を纏い、浄化と癒しをもたらす種族だな。大きさは自由自在。とはいえ大人の人間位が最大な筈だ」


 「エア様、オーロラの下でしか現れないのは本当ですか?」


 思わず、オーロラと妖精来た!と呑気に喜ぶ僕の前で、エアに持っている知識を確認するフェルトさんとラルクさん。


 それに対してエアが言うには、オーロラの下でしか現れないのはその種族の長だけという詳細も加わる。


 「あー、そのオーロラも最近出る回数が減って来ててさ。多分種族長に何かあったと思うんだけどねー」


 なんと、エアが捕まえる気満々だったのは種族の長。それもフェルトさん達に言わせると、スーパーレアな妖精なんだって。


 「うわあ……!絶対、会いたい!」


 「ほら、アクア。淘汰が会いたいって言ってるんだもん。協力してよ?」


 「ふむ……今回は仕方ないの」


 俄然興味を持った僕に、ニヤリと笑ってアクア様も巻き込むのに成功したエアは、フェルトさんとラルクさんも巻き込んで作戦会議を始めだした。


 ん?僕も協力するよ?……驚かせたいから駄目?うーん、じゃあ、楽しみにしとく。


 エアとそんな会話をしていた僕に、タイミングよく甲板へ行く事を提案してくれたジュド。


 メンバーの様子も見たいし、外の空気を吸いに言っても良いかもね。


 そう思った僕は、楽しそうに話し出すエアとアクア様とフェルトさん達に言伝をし、部屋を出て廊下の先にある甲板へと続く大階段を上がる。


 上がった先の甲板で丁度景色を見ていたのは、力也さんと空我さん


 「お、今呼びに行こうと思っていたんだ」


 「良いとこ来たなあ、淘汰」

 

 階段を上りきった僕らに気づいて、手招きと共に何かを教えるように船の先を指差していたんだけどね。


 「え?アレって……次の島への境目?」


 空我さんが指差す先は空間が歪み、昼の明るさが届かない真っ黒な空間が広がっている。


 「お?淘汰もソラ達に聞いたか?」


 驚かない僕に、力也さんがちょっと悔しそうに笑いつつ「よく見ていろよ?」と教えてくれたんだけどさ。


 ザアア……ッと聞こえてきた音と共に、僕らが乗った『天翔』が空間の歪みを通り過ぎるとーーー


 雲の上に浮かぶ島の更なる上にある星々と二つの月が照らす、静寂で圧倒される浮島の景色が目の前に広がっていたんだ。


 「すっごい……!一瞬にして夜になった……!」


 「なー、すげえよな!コガネがこの瞬間を見逃さないように勧めていた理由がわかるよな!」


 「すっげえ綺麗だもんなぁ」と感動する空我さんも、コガネにあれこれ聞いていたみたいだね。


「だけどよ。知らなけりゃ、絶対ブラックホールだと思って俺ら避けてたよな……」


「「言えてる!」」


 ポロッと呟いた力也さんの言葉に、共感する僕と空我さん。これは元地球人あるあるだね。


 こんな感じで異世界で感覚共有出来るのって、やっぱり嬉しいや。


 3人で笑っていると、いつの間にかエア達後ろに居たんだけどさ。


 フェルトさんラルクさんは、子供のように感情を表情に出して魅入っていたし、アクア様もエアに自慢されながらも綺麗だと頷いている。


 ジュドは浮島接岸までは自動にしたらしく、船首にある操舵室から腹ペコな楓さんと苦笑して食事を頼み込む雅也さんを連れて来ていた。


 隣の力也さんからもお腹の音が聞こえて来たし、まずはしっかり腹ごしらえかな?


 何が起こるかわからないダンジョンだもん。

 万全の体制で上陸しなきゃね!

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