第40話 再出発までの数日間
ちょっとひと休憩をしたその後は、僕、待望のお風呂の時間!
和風別館のお風呂も、木の香りと木目が落ち着く源泉掛け流し風呂なんだけど、壁を全開放すると『竹の間』を眺め見る事も出来る露天風呂に変化するって聞いたからね。
お風呂に入りながら庭鑑賞なんて……!って感動した僕なんか、気に入ってすっごい長湯をしちゃったよ。
雪のちらつく手入れされた竹林の風景は、ピーンと張り詰めた空気と温泉が湯船に注がれる音に湯気が加わって本当に癒されるんだ。
「ほほう……!これもまた雅」
アクア様も気に入って僕と一緒に長湯してたんだけど、アクア様日本の言葉をよく使う様になったでしょう?
本やジュドから教わって、着々と覚えていってるんだよ。よっぽどこの日本の雰囲気を気に入ったんだねぇ。
そんなまったりしている僕らの一方で、サウナから賑やかに出て来た二人。
「アッチー!けど、これいいね!」
「でしょう!もっと熱く出来ますよ」
エアとフェルトさんは蒸気浴サウナで、体を真っ赤にするまで入っているんだ。今は水風呂に入って板間で休んでいるけど、また入るって言うんだから、もはや立派なサウナーだ。
因みに、ラルクさんとジュドは普通に入って、既に上がっているよ。この二人は、温泉よりも知識欲の方が勝ってね。今は多分、図書館に行ってると思うよ。
そうそう!亜空間ワールドがランクアップして、互いに異世界である日本の知識(明治時代までの書物)とフェンゼルの知識が集まった図書館が迎賓館にあるんだけど。
図書館の存在を知った時のラルクさんったらね。子供みたいにはしゃいで、意外な面が見えたなあ。
あ、アクア様も時間があれば本を読んでるよ。僕だって、フェルゼンの知識は取り入れないといけないし。
それに迎賓館の図書館は、意欲のあるセイクリッドジェリーマーメイド達にとっても魅力的な場所。そこで一日の大半を過ごす人ももう出ているんだって。
亜空間ワールド産日本人からも、文豪が生まれる日は近いかも……なんてね。
あ、ソラ達にも教育が必要だし、セイクリッドジェリーマーメイド達の中から教師役お願いしても良いかもね。
なんてボーっと考えていた僕を含めた四人が、満足するまで過ごしたお風呂の後はお楽しみの食事。
浴衣に着替えて食堂に入ると、今日は肉鍋の日らしい。味噌のいい匂いがする……!
予想通りのグレートディアやイエローボアの薄切り肉と野菜に豆腐が入った鍋に舌鼓を打ちつつ、この食堂で修行中のセイクリッドジェリーマーメイドの厨房 匠(チュウボウ タクミ)さんと厨房 美技(チュウボウ ミエ)さんご夫妻を紹介された僕達。
この二人、セイクリッドジェリーマーメイドの時からの夫婦なんだって。青い髪にオレンジの瞳の青年と赤い髪に黄色の瞳の女性が、コックの格好しているのは亜空間ワールドならではだね。
二人共腕も覚えも良いから、日々レパートリーが増えていってるし、これからの食事も楽しみなんだ!
そんな話をしながら僕らが賑やかに会話しつつ、山ほどあったお肉を完食したエアやアクア様も満足し、豪華な食事が終了。
それぞれに与えられた私室へと戻る途中にねーーー
「マスター、浮島で5人が名付けを希望しています。全員が食事を終えて広間に集まっているので、今少しお時間宜しいですか?」
どうやらジュドに、浮島にいる雅也さんから呼び出しがあったみたいなんだ。
うん、こう言うのは早い方がいいね。
という事でエアやアクア様に念話で概要を伝え、浮島の領主館大広間へ転移魔法で移動して来た僕とジュド。
「「「おかえりなさいませ」」」
大広間に着いた僕らを迎えてくれたのは、更に言葉がなめらかになっていたコガネ、サクラ、ソラの3人。
「へっへー!どうだ?淘汰、見違えただろ?」
「力也兄が自慢してどうする?」
「まあ、まあ、良いって楓。力也も根気よく付き合ったんだし。あ、勿論俺も協力したからな!」
「力也も空我も、ソラ達の能力が高かったからだって伝え忘れてるよ。あ、淘汰、夜に呼び出して悪いな」
ソラ達の成長を自慢気語る風光の跡メンバーだったけど、どうやら人化したホーリーハルピュイアも一度で物事を覚えていたらしいんだ。
だから、数時間離れただけでもこれだけ成長するんだね。……正直、すっごい羨ましいよね!!……良いなあ。
『早く』『同じ』『欲しい』『願う』『?』
「こーら、お前達。一応、淘汰は上司になるんだぞ?」
「あ、良いよ空我さん。と言うか、子供も一緒でいいの?」
「うん。その子については、本人が希望しているから大丈夫」
そう、子供もいたから僕つい確認しちゃった。子供の面倒を見ていた楓さん曰く、どうやら今回の5人は、夫婦二人に家族3人らしいんだ。
夫婦の二人は紫の翼の青年と水色の翼の女性。髪と翼の色は同じで、瞳はなんと二人共同じ茶色。
ん?ソラと同じ偵察隊にいたの?そりゃ、心強い。
家族の方は黄緑の翼と黒い瞳のお父さんと、クリーム色の翼と青の瞳のお母さんに、黄緑の翼に青い瞳の僕と同じくらいの男の子。
あれ?あの子、すっごい楽しそうに浮島で遊んでいた子だ!
なんとなく見覚えのある子が来てくれたのが嬉しくて、つい笑顔でジッと見ていたら、ジュドに「マスター、皆待ってますよ?」って言われちゃったけどね。
うーん、しばらくは色で行こうかな?
「紫紺(シコン)、浅葱(アサギ)……それに、柳(ヤナギ)に山吹(ヤマブキ)と、君は葉(ヨウ)でどう?」
恋人二人は青年が紫紺、女性が浅葱。家族の方は父親が柳、母親が山吹、で子供は二人の色が混ざった葉にしてみたんだ。
元日本人メンバーは「成る程」とか「覚え易い」って納得してたけど、ソラ達は何故その名前になったかまだわからないから首を傾げていたけどね。
それでね。僕が指差して名前を付けて行くと、一人ずつ人化していくでしょう?
その点は抜かりなく、既に毛布を持って待機していたメンバー全員で順番に毛布に包んでサポートしてくれたんだよ。
因みに、浮島領主館にもセイクリッドジェリーマーメイドの補佐 一也(ホサ カズヤ)さんと補佐 二葉(ホサ フタバ)さんのご夫婦が入っているよ。
この二人は住み込みなんだって。有り難いよねぇ。
明日は、風光の跡メンバーとソラ達3人と補佐ご夫妻でこの5人を見てくれるから、僕とジュドは自宅である和風別館へと戻ったんだ。
そしてぐっすり眠った次の日からは、地上の街と浮島の街を移動しつつ、街の視察や住民への挨拶をして回った僕とジュドとアクア様。街の整備に改良、迎賓館での意見交換や職員把握に努めていたんだ。
亜空間ワールドの世界も、着実に近代化に向けて進んでいかないといけないからね。
フェルトさんとラルクさんは、ヴェルダンのギルドと亜空間ワールドを行き来しながら、色々ギルドから持ち込んだり身の回りの整理をしていたよ。
新しいギルド長と副ギルド長が来るまで、結構忙しそうにしていたけど、夜は亜空間ワールドでぐっすり眠れるから、疲れは残らなかったみたいだけどね。
その中、エアは単独行動。防衛という名の巡回と、一足先に『深空のダンジョン』からお気に入りのホーリーハルピュイアを連れてきたり、ホーリーハルピュイア達と一緒に遊んだりしていたみたい。
エアが1番気ままに過ごしていたかなぁ。まあ、亜空間ワールド内でも防衛面は問題全くないから大丈夫だし。
風光の跡メンバーは、ホーリーハルピュイア達の育成にかなり尽力してくれていたんだよ。だって、あの後にも少しずつ人数が増えていっているからね。
とはいえ現段階での人数は、ソラ達を含めてまだ15人。あれから7人しか増えてない。
エアが連れて来たホーリーハルピュイアの男性二人に女性一人と、女の子がいる四人家族が一組だね。
エアが連れて来たのは、特にエアの世話をしていた蛍光色の翼を持つ夕陽(ユウヒ)と朝日(アサヒ)の青年兄弟と、その母親の朱(アヤ)の3人。
家族の方は父親が大地(ダイチ)、母親が向日葵(ヒマワリ)、葉と同じくらいの姉妹の桃(モモ)と蜜柑(ミカン)。
名前で翼と髪の色大体分かるよね?とりあえず、美男美女に囲まれて目の保養にもなってるけど。
もっと来てくれないのかなぁ、ってエアに相談したらね。
「ホーリーハルピュイア達って、基本自由が好きだからね。ここでの生活は、彼らからするとちょっと堅苦しく見えるらしいよ」
そう言われて、確かに……!と納得した僕。まあ、無理強いはしたくないからなぁ。
エア曰く「一族全員で来たセイクリッドジェリーマーメイド達の方が珍しい」って言ってたし。
でも彼らは彼らで楽しんで生活しているから、僕としてはホッとしているんだ。
おっと、話を戻すね。
人化したホーリーハルピュイア達が一通り生活できるようになった数日後ーーー
ヴェルダンの方で引き継ぎを終えて、元気に戻って来たフェルトさんとラルクさん。
「よお!待たせたな!」
「エア様、今日からよろしくお願いします」
スッキリした顔で、本格的に亜空間ワールド入りした二人も含めて、ようやくダンジョン攻略班が揃ったんだ。
既にホーリーハルピュイア達の教育は、補佐夫妻や教師役のセイクリッドジェリーマーメイド達に引き継いでいるから、こちらも準備は万端!
さあ、また新たな素材を見つけに行くよ!
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