第39話 拠点と予定と。

 「……はあ……!落ち着く……!」


 ん?来て早々、なんでいきなり落ち着いているんだって?


 だってねぇ……あんな西欧式建造物の裏側に、こんな和風の別館があるなんて誰が思う?


 「此処は、以前の面影がありますね」


 「ああ、俺もこの中庭を見ると安心するわ」


 ラルクさんとフェルトさんも、以前の家を知っているからやっぱり同じ感覚なんだね。


 とはいえ、この和風別館は以前の本館の倍以上の大きさだし、中庭だって大分違うんだよ。


 なんたって、中庭だけでも三つあるんだ、この和風別館!


 一つは、白い石が敷き詰められ竹が植えられている『竹林の間』。そしてもう一つは、大きな池の中を泳ぐ鯉?の様子を楽しめる『池の間』。最後に、今僕らがいる『小川の間』。


 「此処、散歩すると気持ちいいよー!」


 ん?小川に掛かるアーチ状の石橋の上で、散歩中のエアが立ち止まって庭を眺める僕らに手を振っているね。


 「うむ。コレもまた粋な……!」


 アクア様は庭に降り積もる雪化粧の風景を堪能しに、白い息を吐きながら散策しているみたい。


 僕といえば、日本庭園に軍服姿と袴姿の二人がいる事で、まるで日本にいるような気分になったんだけど……


 「……でも、やっぱり寒い!!」


 寒さに負けた僕は、すぐに縁側から暖かい室内へと逆戻りし、炬燵にスポッと入って暖を取る。


 「ほわーーー……あったかい……!」


 ジワジワ温まりつつ、18畳程の和室の真ん中にある立派な長炬燵から、ガラス障子越しに見える庭の景色もまた風流そのもの。


 それに亜空間ワールド産暖炉が、部屋を隅々まであっためてくれるんだ。因みに、暖炉の燃料は薪じゃなくて魔石暖房なんだ。


 ただ、暖炉といっても鉄製の扉付き。でも煙は無害なものだし、煙突の中が真っ黒になる事もないからすごいよねぇ。


 ついでにこたつも魔石暖房だから、安心安全。異世界様様だね。


 「やっぱり、コレあるといいもんだな」


 「ええ、帰ってきた感があります」


 外の外気で寒くなったであろうフェルトさんとラルクさんも、炬燵布団の中に足を入れて、座椅子の背もたれにゆったりと寄りかかってホッとしているみたいだね。


 そんな二人を眺めながら、実は駅の時から気になっていた事を質問する僕。


 「フェルトさん、ラルクさん。本当にギルド辞めちゃうんですか?」


 二人はニッと僕に笑顔を見せて「「当然」」と言うけど……


 「今は、後任が来るまでの中継ぎのようなものだ」


 「後、数日で来るみたいですから、そうなったら一度ヴェルダンに戻り引き継ぎが必要になりますけど」


 僕が心配する様な事は無い、と言い切る二人だからこそ、何かギルドに対して強みを持っていたんだろうと思って、これ以上突っ込むのは止めたんだけどさ。


 そうなると、今後の事について話を詰めていかないとね。


 「じゃ、フェルトさん達が合流するまで、僕らは亜空間ワールドで待機していますね」


 「ああ、そうしてくれると嬉しい。俺らもダンジョン攻略は一緒に行きたいからな」


 「久しぶりの責任無しの冒険です。正直、かなり楽しみなんですよ」


 そんなワクワクした表情を隠さない二人と僕が話をしていると、ガラっと障子を開けてエアとアクア様も戻って来た。


 「うーん、この庭もいい感じだった!」


 「うむ。三種類赴きがそれぞれで、見応えがあるの」


 どうやら、二人はすでに他の庭も見ていたんだね。池の間、竹の間も、マスターである僕の代わりに確かめてくれていたみたい。


 でもやっぱり寒かったのかな?いそいそと炬燵に入って座椅子に座り、慣れた様にチリンと魔導鈴を鳴らして女中を呼ぶアクア様と、お茶より甘味の要望を出すエア。


 完全に、マスターの僕より馴染んでいる……!君達、竜の姿に戻るつもりないね?


 そう思う僕だけど、この広い屋敷や洋館に一人は辛いし、みんなが居てくれると嬉しいけどさ。


 「お待たせ致しました。マスターとエア様には、バニラアイスクリームを。アクア様には緑茶と苺大福を。フェルトとラルクにはワインをお持ち致しました」


 スッと襖が開いて、カラカラと台車を押して入って来たのは、言わずと知れたジュド。


 ……ジュド、楽しんでるなぁ。別に、台車に乗せてこなくてもすぐ出せるだろうに。


 人化を1番楽しんでいるであろうジュドは、それぞれが欲しいものを瞬時に把握して用意して来たらしい。


 ん?寒くないのかって?いやいや……あったかい部屋でのアイスは別格でしょう!


 エアは昨日食べてからハマったらしいし、アクア様は和菓子から揺るがない。


 フェルトさん達は、酒好きだからワインくらいはジュースの様なものだし、亜空間ワールド産ワインはデザートワインだからね。……僕は、残念ながらまだ飲めないけどさ。


 コトン、コトン……とそれぞれに給仕し終わったジュドも、暖炉の前の椅子に腰掛けホットワインを一口飲む頃には、全員がそれぞれ自分に用意された物を楽しみながら会話していたんだ。


 勿論、会話の内容はこの拠点の事。


 ジュドやエアやアクア様によると、洋館の方は来客や住民達との会合や行事に使うらしく、和風別館は僕達のみ(エアやアクア様、フェルトさん、ラルクさん、風光の跡メンバー)使う予定なんだって。


 ……なんか、明治時代の皇族みたいだね……って言ったら「マスターの趣味は考慮してますからね。元々迎賓館として作ったので、地球の日本史とは違いますよ」とジュドにあっさり言われたけどさ。


 ま、まあともかく、僕の趣味全開の和様折衷風別館は、応接室/大広間/客室×10/男女別大浴場は勿論、トイレは洋式だし、お風呂にサウナは残しているそうだ。


 迎賓館については、それはもう広大過ぎて後でしっかり見学が必要みたいだね。部屋の名前多すぎて、覚えられなかったよ……!


 「皆さんそれぞれ部署がありますから、自分の部署を覚えて下さいね」


 説明がてらジュドに指示をされ、僕以外のメンバーは思い出したように頷いているけど。


 え?いつの間に……!?


 驚いたのは僕だけで、みんな迎賓館に入った時にそれぞれの役割を理解していたんだって……!


 聞いてみたらね。ジュドは財務、アクア様は総務、エアとフェルトさんとラルクさんは防衛、此処にいない風光の跡メンバーは外務を担ってもらうみたい。


 「ジュド、僕は?」


 「マスターは、すべてに決定権がありますからね。言うならば内務ってところですね」


 なんて言われた僕だけど、フォローはジュドがしてくれるし、そんなに大変な事はないって。ホッとしたよ……!


 それに、ソラ達が慣れて来たら、郵政や広報を担ってもらう予定らしいよ。異世界の情報と亜空間ワールドの最新情報を、亜空間ワールドの住民が知る為にね。


 うん。人化出来るようになったホーリーハルピュイア達なら、確かに適任だけど……まだ、3人だしなぁ。


 「マスター。更に5人程、浮島では動きがあったようですよ」


 ジュドから浮島の様子を聞くと、散歩中のソラ達の様子を見てから、気持ちが変わったホーリーハルピュイア達が動いたらしい。


 と、言う事は……?


 「名付けからは逃れられませんよ?マスター」


 あああああ!やっぱり!!


 なんて一幕もあったけど、まだまだ住民も少ないし、亜空間ワールド自体も範囲が狭いからこそまだジュドが余裕で出来るみたいだから、今はみんな知識を蓄えて欲しいんだって。


 浮島に戻ってからは頭が痛いけど……とりあえずは亜空間ワールドの拡張や収集が最優先なのは変わらない。


 「じゃ、フェルト達が亜空間ワールド入りしたら、『深空のダンジョン』の探索が優先だね」


 「エア様の言う通り、まずはホーリーハルピュイア達の有志を集めねばなりません。それに、浮島にもプリマスランドレッド(鶏の魔物)がいる様ですから、なんとしても捕獲したいですし」


 ジュドの言葉に「「プリマスランドレッド(鶏の魔物)!!」」と驚くフェルトさんとラルクさん。


 俄然やる気を出して、更に早くこちらに来れないか、と二人で話し込んじゃった。


 エアやアクア様は、ジュドに役割の事で色々質問しているし。


 だんだん亜空間ワールドも動き出して来たって感じ。

 うん!僕も頑張ろう!


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 ひええ!大遅刻してすみません!

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