第37話 浮島での文明開花
日本の歴史で明治時代といえば?
……って言われると、僕はやっぱり文明開花をすぐ思い出すんだけどね。
そもそも、文明と文化とどう違うんだっけ?と思った僕。
物知りナビゲーターのジュド先生によれば……
「文化」が各時代にわたって広範囲で、精神的所産を重視しているのに対し、「文明」は時代・地域とも限定され、経済・技術の進歩に重きを置くというのが一応の目安ですね。 『文化は精神的なもの』『文明は物質的なもの』と言えるでしょう」
だって。
後になって、なるほどなぁ、って思ったよ。その時は、まさか亜空間ワールドも同時に『文明開化』がされるなんて思ってもみなくてね……
「マスター、カフェ・オ・レをどうぞ」
カチャッとコーヒーカップに淹れたてのカフェ・オ・レを用意してくれた人化したジュド。
執事服と片眼鏡が似合うジュドの人型姿は、金色の目とシルバーブロンドが主体で茶色のメッシュが入った長髪を一つ縛りにして後ろに流した、かなーり顔の整った青年なんだけどさ。
「ジュド……自分でその姿を選んだの?」
「何を仰いますか。私は元々このような姿だったのですよ?」
……うん、ジュドよ。君は元々声だけじゃなかったかな?というか、マスターの目は誤魔化せないからね。
真顔でジッとジュドを見つめて沈黙する僕に、にっこり笑うジュド。
「マスターに似合う者として当然の姿なだけですよ。さ、皆さん起きてきたようですね。今日はどちらに向かいますか?」
「あ、うん。人間として過ごすのが今日は3人に覚えて欲しい事だから、こっちは風光の跡メンバーとフェルトさん達に任せようかな。僕は地上のアクア様とエアの様子を見に行こうと思うんだ」
「畏まりました。ではそのように手配致しましょう」
スッとお辞儀をして部屋を出て行くジュドは、確かに有能執事風だけど、正直言ってアレスタックス姿が長かったからなぁ……
「めちゃくちゃ違和感あるなぁ……」
一人呟いてズズッとカフェ・オ・レを飲む僕。
あ、僕がいるこの部屋は、浮島にある領主館の主寝室だよ。この領主館には主寝室の他に、応接室、温室、食堂、大広間、客室8部屋(ツインルーム)があるんだ。
当然寝室はベッドに変わっているけど、マットレスは大正時代にならないと普及されないからねぇ。今の領主館は畳ベッドの布団敷きって感じ。
でも寝心地は良いし、昨日はぐっすり。
下の様子も気になるから、僕はご飯を食べずに向かおうと思うけど、やっぱりみんなに一言言って行かないと。
戻って来たジュドにみんなの様子を聞くと、食堂で食事中という事で、カフェ・オ・レを飲み干して食堂に向かったらね……
「やっぱりソラも横になって寝るのは違和感あったかあ」
「力也兄、コガネもだったの?サクラも同じ何度も起きたりしていた」
食堂の扉を開けると、食堂の大テーブルの席に着いてサンドイッチを食べているみんなの姿あったんだ。
話題はソラ達の寝る時の姿勢みたいだね。
「クウガ、ねる。たりない?」
「カエデも?」
「あー……3人共気にすんな!コレっくらいじゃ俺ら潰れねえから。コガネも心配すんなって」
……どうやら人型で寝るというのも、大変だったみたいだなぁ。僕、空我さんが大丈夫って言うからソラお願いしたんだけど、悪い事したかなぁ……?
「お、淘汰!はよ!」
入り口で突っ立ってる僕を見つけた力也さんが挨拶をしてくれると、皆が気付いて挨拶を交わしてくれたんだ。ソラ達も真似して挨拶してくれたのがなんか面白い。
うん、ソラ達も服をちゃんと着てくれているし、頑張って真似しようとしているし、大丈夫そうだね。
全体の明るい雰囲気に少しホッとした僕も席に座り、みんなに今日の予定を聞くと……
「淘汰は下の街行くんだろ?俺らはコガネ達が人化に慣れる為に、この浮島の街を見て周るわ」
「ここもかなり広いだろ?それに喫茶店や商店街も稼働しているみたいだし、庭も綺麗だからなぁ」
「下は雪降ってても、上は晴れてるから気持ちいいし」
「サクラ達は任せて」
頼もしい風光の跡メンバーにかなり馴染んだのか、笑顔のソラ達にも頷かれ安心して任せる事にした僕が席を立つと、フェルトさんラルクさんが僕を呼び止める。
「俺達は居なくても大丈夫らしいから、一緒に行っていいか?下の様子も気になるしな」
「ギルドの方も何かあったらジュドに教えて貰うようにしてますから、一緒の方が都合良いですからね」
それならと一緒に席を立つ二人に僕も頷き、ジュドも含めて四人で行動する事になったんだ。
そうそう、浮島から地上への移動も一晩経って変わったんだよ。文明開花に伴って、浮島に新たな施設が加わったんだ。
「へえ、コレが『駅』ってやつか……!」
「黒い鉱石の塊は移動する乗り物ですか?」
実は、領主館を出るとすぐにあるのが、なんと浮島駅。そこには浮島駅専用列車があって、空島の成分を入れた線路が地上と浮島を繋いでいるんだ!
フェルトさんは初めて見る駅舎を興味深そうに見上げ、ラルクさんは駅舎越しでも見える異世界版蒸気機関車が気になるみたいだね。
因みにジュドによると、駅舎と言っても待合室とトイレくらいの簡易なもので、後は改札口とホームというシンプルなものなんだって。
それよりも僕は異世界版蒸気機関車が気になってね。
「ジュド、機関室には入れるの?」
「入れますよ。基本、巡航船と一緒ですから自動で動きますし、車掌気分も味わいたい方の為に準備してますし」
準備万端のジュドが僕を案内した機関室には、紐が天井から伸びていて、出発の合図が出せるようになっているみたい。
それを聞いたフェルトさんやラルクさん。折角の二両編成の客車があるにも関わらず、二人も機関室に乗り込んで来ちゃった。
「へえ……!これはまた、色々分からん仕様になってるなぁ」
男性が機関室のメーターや設備に興味がいくのは、異世界でも変わらないんだね。二人共、ジュドの説明に食い入るように聞き入っているんだもん。
僕は石炭の代わりにある白い石が気になって鑑定してみたら、何と『雲炭』だって!?
浮島では雲が加工出来るのは教えていたよね?それを燃料にして動き、蒸気の代わりに煙突から出るのは気体化した雲だっていうんだ。
蒸気機関車のあるあるで、真っ黒煤だらけになるのかと思ったら、こちらでは無害無臭の再利用可能って言うエコな雲炭が燃料なんだ。
流石は、亜空間ワールド!……うん、常識って何だろうね?
そうこうしていたら、プシュウーーーー!!ッと煙突から気体化した雲が出てきたんだ。
「出発時間ですね。マスター、出発の合図をお願いします」
ジュドがまず最初はマスターから、と気を利かせてくれたおかげで、ワクワクしながら僕が紐を引っ張ると……
ポーーー!!という汽笛と同じ音が鳴り響き、ガタンッと列車が動き出す。
「「「動いたっ!」」」
いや、そりゃ動くだろって思うでしょう?
フェルトさんとラルクさんにとっては目新しいものだし、僕にとっては初めての機会だからね。3人一緒に声が出ちゃったんだよ。
そして、シュッシュッシュッ……と動き出す異世界版蒸気機関車から見える景色は、圧巻。
チラチラと雪が降る中、上空から見える澄んだ湖にぽっかり浮かぶ食料島。湖畔列車が既に稼働している姿や、屋形船が街に戻る姿も目に入ってくる。
何より、列車の中から見えてくる地上の街がうっすら雪を被っていて、煉瓦作りの洋館が立ち並ぶ街や白く美しい駅が、僕をノスタルジックな気分へと誘う。
「あ、そういえば、アクア様にも何か変化ってあったんですか?」
そんな中、近づく湖を見てふと思い出したであろうラルクさんがジュドに質問をしたんだ。
……そういえば、ホーリーハルピュイアが従属して変化したからには、元々従魔になっていたアクア様とエアも変化したかもしれないよなぁ……
僕が今更ながらに気がつくと、それに気付いたジュドが「アクア様とエアが泣きますよ」と苦笑しながら教えてくれた二人の様子は……
「え?エアが大きくなって、アクア様が若返っているって?」
「はい。二人共ドラゴン力が最良の状態になった、という方が適切でしょう」
ジュドの説明に僕は「へえ!」と喜び、フェルトさんとラルクさんが「更に強くなったのか……」「ある意味最恐ですね……」と遠い目をするという何とも言えない雰囲気になった機関室。
どうやら話の当事者二人が、駅のホームで僕らの到着を待ってくれているらしい。
シュッシュッシュッシュ……と軽快な音を響かせ、徐々に駅が近づくとポーーーー!!と汽笛を鳴らす異世界版蒸気機関車。
「そろそろ到着しますよ」
ジュドが教えてくれた瞬間に、僕らは目線を外の景色へと向けると、地上の線路が見えてきたところだったんだ。
ガタンッと地上の線路と無事合流すると、僕の期待感が移ったのか、フェルトさんラルクさんもワクワク顔。
楽しみだなぁ!みんな、どう変わっているんだろうね!?
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